第242話 またまたアンスティノス大公国
長老の転移でリヒト達はアンスティノス大公国付近まで来ていた。
「長老、昼間は普通に生活できていそうだな」
「まあ、アンデッドが出るのは夜間だからな」
アンスティノス大公国の6層目に入る為にリヒト達は順番を待って並んでいる。
いつも通り、ハルはリヒトの馬にちょこんと乗っているが深くフードを被っている。シュシュも小さくなってミーレの馬に乗っている。皆、いつもより警戒している。
「面倒だわ」
「シュシュ、喋っちゃ駄目よ」
「分かってるわよ。でもホント面倒だわ。何様なのよ」
「シュシュ、仕方ないわ」
「分かってるわよ」
「イオス兄さん、入ったら宿を探すん?」
「ああ、そうだな。先ずは宿だな。アンデッドは夜間しか出ないしな」
「イオス兄さん、自分も付いて行くわ。覚えたいねん」
「おう」
リヒト達の番がきて、やっと中に入れる。が、門番の兵達がじっとリヒト達を見ている。また、面倒が起こらなければ良いのだが。
「失礼します。エルヒューレの方々ですか?」
「ああ、そうだ」
「もしや、アンデッド討伐に来て頂けたのでしょうか?」
「そうだが?」
「整列!」
なんだなんだ? 門付近にいた兵達が皆揃って整列したぞ。
「よく来て下さいました! 有難うございます! どうか、宜しくお願い致します!」
そう言って兵達が一斉に頭を下げた。周りにいた一般の民達まで一緒に頭を下げている。
「いや、やめてくれ。大袈裟にせんでくれ。ワシらが出来る事をするだけだ」
――よく来て下さった!
――宜しく頼みます!
口々に声をかけられる。入門の際だけでなく、街を進むとエルフだと分かった人達は頭を下げていく。
「長老……」
「ああ。余程なのだろう」
「民がこんなに困っているのに大臣達は何を考えてんだよ」
「長老、宿を取りに行きます」
「イオス、待て」
イオスとカエデが宿を探しに行こうとした時だ。何処からともなく兵達が現れた。
「失礼致します! 領主邸にご案内致します!」
「領主殿から依頼されてはおらんが?」
「いえ、我々の街に来て下さったのです! 領主邸にお迎えするのは当然です! 指示も受けております故」
「そうか。では案内を頼む」
「はっ!」
そう言って兵達がリヒト達の前後に分かれて誘導する。
「長老」
「ああ、領主の考えを聞いてからだ」
「だが、これはまた毒クラゲの時と同じじゃないか?」
「らしいな。それに、此処もヒューマンが領主の街だな」
毒クラゲ討伐の際もそうだった。中央と現地との温度差だ。エルフだとは内密にと言われていたが、民は皆知っていたし現地の領主は歓迎してくれた。エルヒューレから討伐に来るのを待っていた様子だった。今回もそうらしいが?
領主邸に到着すると、前庭に領主自らが出て待ち受けていた。
「よく! ああ! よく来て下さいました! 感謝致します!」
「あ、ああ。ワシ等は国から依頼されたのだが?」
「その様な事関係ありませんぞ。我々はお待ちしておりました。我々の街を救って下さるのです。出来る限りの事はさせて頂きます! どうぞ、遠慮なくご滞在下さい!」
「そうか、助かる。有難う」
「何を仰います! 当然の事です!」
やはり、それ程困っていたのだろう。領主の案内で邸に入る。
「じーちゃん?」
「ああ、甘えさせてもらおう」
「話も聞きたいしな」
「そうだな、リヒト」
邸の応接室の様な部屋に通され、長老達がフードを取ると周りからため息の様なものが聞こえた。
「失礼致しました。いや、噂には聞いておりましたがエルフの方々は皆様お美しいので」
「ブハ、美しいか?」
「はい。つい感嘆してしました」
「それは、どう反応すれば良いかのう。アハハハ」
「長老」
「ああ。ワシはエルヒューレの長老だ。これは、皇族でベースの管理者をしているリヒト。この子はワシの曽孫でハルだ」
「なんと! その様な方々に来て頂けるとは! 感謝致します」
「いや、依頼された事をするまでなのでな。詳しい状況をお聞かせ願えますかな?」
「はい、もちろんで御座います」
メイドが茶を出してくれる。その時、ハルに……
「果実水の方がよろしいでしょうか? ジュースもご用意しておりますが」
「ハル、ジュースをもらうか?」
「ん、じーちゃん」
「畏まりました」
そう言って果物のジュースを出してくれる。
「ありがちょごじゃましゅ」
「いいえ。とんでも御座いません」
控えているメイド達がみな小さな声で口々に言っているのが聞こえてくる。
――可愛い
――可愛すぎ……
――なんて可愛い
おやおや、ハルちゃん。ここでも人気者だ。メイドの心を鷲掴みだ。皆、ハルを微笑ましく見ている。張り詰めていた空気が一気に和んだ。
さて、領主からアンデッドの話を聞いた。やはり、全く原因は分かっていないらしい。街外れにある墓地が原因かと思っていたらしいが、突き止められてはいないそうだ。アンデッドが消える時に後を付けた者がいない。それさえも、容易ではないらしい。
「最初は1体だけだったのです。それは直ぐに冒険者が討伐致しました。それから、徐々に増えていき、討伐も儘ならなくなり今では外を出歩けなくなってしまいました」
「ほう、それほどか」
「はい。聖水も出して貰えなくなりました故」
「なるほど」
「領主殿、アンデッドの倒し方をご存知ですか?」
「倒し方ですか?」
「ご存知だとは思いますが、アンデッドは物理攻撃ではなかなか倒せない」
「はい。ですから、聖水頼りになってしまいまして」
「冒険者達は今夜も討伐にでるのですかな?」
「それが……大半が毒や麻痺になってしまいまして」
「リヒト、先ずは回復だな」
「長老、そうだな。領主殿、冒険者達を回復しましょう。それから、物理攻撃でのアンデッドの倒し方もお教えしましょう」
「なんと! 有難うございます!」
「ハル」
「ん」
昼間はアンデッドも出ない。その間に、冒険者や兵達を回復した。リヒトとハルがだ。
「こんなちびっ子に……!?」
ハルに回復魔法を施してもらった冒険者の1人が戸惑っている。
「ちびっ子らけろ、おっしゃんより強いじょ」
「おっさん言うなー! 俺はまだ27歳だぞ!」
「しょうか。おりぇは3歳ら!」
ハルが、短いプクプクした指を3本立て胸を張ってドヤっている。
「アハハハ! お前可愛いなぁ!」
「お前じゃねー。はりゅら」
「あぁ? 何だって?」
「はりゅら!」
このやり取り、懐かしいと言うか覚えがある。リヒトも最初の頃、よくハルに聞き返していた。
「ハルだ。まだちびっ子だけどマジで強いぞ。お前よりずっと強い」
「エルフの兄さん! マジかよ!」
「ああ、大マジだ」
そうなんだよ。ハルちゃん強いんだよ。
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