第241話 アンデッド

 また数日経った頃にやっと長老がやって来た。リヒトとルシカがいる執務室だ。


「リヒト、いるか?」

「おう、長老」

「決まったぞ」

「ああ」

「今回は大っぴらに行くぞ」

「そうなのか? 俺達だけか?」

「いや、南東のソニルもだ」

「南東? またどうして? 北の方が近くないか?」

「いや、我々は北から。ソニルは南から攻める」

「そんなになのか?」

「ああ、なんせ5層と6層ほぼ全域だ」

「だから何でそこまでになるまで放っておくんだよ! 意味が分からん!」

「お偉いさんの貴族には直接関係ないからだろうよ。あいつらは王都にいるからな」

「信じらんねーわ。どんな神経してんだよ」

「保身だな」

「それにしてもだ、長老。アンデッドが王都に出ないとは限らないんだぜ」

「その通りだな」

「あ! じーちゃん!」

「おう、ハル。昼寝してたのか?」


 ハルがシュシュに乗ってやって来た。カエデとイオス、ミーレも一緒だ。長老が言う通りお昼寝をしていたらしくまだ眠そうな目をしている。と、言うか最近ハルはいつもシュシュに乗っている。自分で歩かないと駄目だぞぅ。


「さっき起きたんら。りゅしか、おやちゅら」

「はいはい。食堂へ行きましょうね」

「ん。じーちゃんも行こう」

「ああ、行こう。ハル、じーちゃんが抱っこしてやろう」

「いい、しゅしゅに乗ってりゅ」

「そうか?」


 長老、残念だったね。余程シュシュの乗り心地が良いらしい。


「やっちゃ、ろーりゅけーきら! いたらき!」


 ハルはもうルシカが出したおやつのロールケーキに夢中だ。


「で、長老。いつ出るんだ?」

「ああ、明後日だ。ハル、ほっぺについとるぞ」

「おやおや。ハル、ほっぺを拭きますよ」

「ん……」


 ルシカがハルのほっぺを拭いている。相変わらずだ。


「じーちゃん、今度はろこに行くんら?」

「またアンスティノスだ。アンデッド退治だ」

「あんれっちょ」

「そうだ。5層と6層に出るんだ」

「しょっか。あんれっちょの退治って、ろーしゅんら?」

「魔法で倒すんだ。聖属性が1番効果的だが、魔法ならなんでもいい」

「しょうなのか?」

「ああ。ヒールでも倒せるぞ」

「ええ? ヒールれか?」

「ああ。アンデッドには致命傷になるんだ。まあ、浄化が1番だがな」

「浄化……ぴゅりふぃけーしょん?」

「そうだ。一網打尽にできる」

「へぇ〜」

「物理攻撃はイマイチなんだ。コツもいる」

「こちゅ?」

「物理攻撃だと直ぐに復活するんだ。復活する前にもう1度攻撃しないと倒せない」

「面倒なんらな」

「今回は南東のソニルも出る」

「しょにりゅしゃん! 最強!」

「そうだな」


 南東にあるベースの管理者でソニル・メリーディ。5人いる最強の戦士の中でも1番だ。キュートな青年だが、エルフの中でも1番強い。遺跡調査の時にハルは会っている。カエデの両親を見つける事が出来たのもソニルがきっかけだ。


「しょにりゅしゃん、元気かな?」

「ああ、相変わらずだぞ。ソニルは南から討伐しながら合流する。ワシ達は北からだ。今回は範囲が広い。ハル、大丈夫か?」

「大丈夫ら。じーちゃんもりひと達もいりゅ」

「そうか。無理はせん様にな」

「わかっちゃ」


 セイレメールに行く時もそうだったが、ハルは進む事に躊躇をしない。そして、迷わず皆がいるから大丈夫だと言う。それは大きな変化だ。ハルにとって、長老やアヴィー先生だけでなくリヒト達も無条件で信頼できる存在になったのだろう。前世には無かった事だ。


「じーちゃん、ばーちゃんは行くのか?」

「アヴィーか? 今回は留守番だ。仕事が溜まっているらしいぞ」

「ありゃ」

「セイレメールの結界があっただろう? あれの考察をフィーリス殿下としているんだ」


 セイレメールへ行った際にアヴィー先生はとても興味を持っていた。結界がエルフのそれとは違うらしい。

 天才肌のフィーリス第2皇子殿下とあれやこれやと考えているらしい。


「カエデ、状態異常無効の魔道具は持っているな?」

「はいにゃ。ずっとタグにつけてるで」

「よし。アンデッドは状態異常をおこす攻撃をしてくるからな」

「げげ、状態異常かぁ。自分、アンデッドは見た事ないからなぁ」

「カエデ、大丈夫だ。落ち着いていつも通りすればいい」

「イオス兄さん、分かった!」


 カエデも強くなった。魔法も使える様になっている。大丈夫だ。


「長老、でもアンデッドが出る原因は分かったのですか?」

「ミーレ、それがまだ不明らしい」

「まあ、ヒューマン族は呑気なのですね。原因が分からないと倒してもまた出てくるかも知れないわ」

「ミーレの言う通りだな。原因も究明しなければならない」

「マジ、面倒だな。ヒューマン族は何をしてんだ?」

「本当ですよね」

「どうしようもないのだろうよ」


 以前、毒クラゲの時もそうだった。自分達ではどうしようも出来ずにエルヒューレへ助けを求めてきた。その割に内密に等と失礼な事を言ってきた。

 だが、今回は内密にしようがない。広範囲にアンデッドが出るのだ。兵達や冒険者が対応している様だが、魔力の少ないヒューマンにとっては倒し難い相手だろう。どうしても、聖水頼りになってしまう。なのに、教会が聖水を出し渋っているとなると余計に厄介だろう。しかも、原因が分からない。

 倒しても倒しても数が減らず被害も広がり、やっとエルヒューレに依頼をしてきた。どうせならもっと早く頼れば良いものを。事態が悪化してからだと、依頼されたエルヒューレ側でも面倒が増える。万が一、手遅れだったらどうするのだろう。

 前回、毒クラゲの時もそうだったが、今回もエルヒューレに助けを求める事を反対した大臣達がいたそうだ。そのせいで、被害も広がった。大臣達は安全な王都にいる。実際に被害に遭っているのは民達だ。それを考えているのだろうか?

 長老はまだ口を出さないが、思っているぞ。また、突然城に乗り込むかも知れない。唯一、安全保障協定に参加していない国、アンスティノス大公国。何を考え、どうなるのやら。

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