第240話 まだ決まらな〜い
「普通、アンデッドと言えば墓場だよなぁ?」
「それが今回は街中だ」
「どうなっているのでしょうね」
「ほんとッスね」
「教会はちゃんと機能してんだよな?」
「そりゃそうだろう」
「そうでしょうか?」
「アテにならないんじゃないッスか?」
リヒト、長老、ルシカ、イオスが顔を付き合わせてウダウダと言っている。誰も行くとは言い出さない。できれば、このままやり過ごしたい感じか? アンスティノスとは協定も結んでいないしな。
「長老、ニークは何て言ってんだ?」
「ああ、4層目はまだ出没していないからな。なんでこんなにポーションの需要があるんだ? て、疑問に思っていたらしい。そしたら、アンデッドが出るって話が流れてきたんだそうだ」
「では、ニークもポーションを作っていたのですね?」
「じゃあ、薬草が不足しているのは6層と5層だけッスか?」
「何故、他の層から融通しないんだ?」
「まったくだ」
「その方が早いでしょうに」
「危険もないッスよね?」
「あの……」
ウダウダと言っている男4人にカエデがおずおずと声を掛ける。
「ん? カエデ、どうした?」
「おやつ摘みますか?」
「あー、いや。おやつはハルが起きてからだな」
「軽いクッキーなら大丈夫でしょう」
「そうだな。ワシは少し貰おうかな」
「あ、カエデ。俺も欲しい。カエデも座って食べな」
「はいにゃ、イオス兄さん」
まだ、男4人でウダウダと話している。長老が切り出さないと言う事はまだ確定ではないのか? それとも何? 焦らしてる? 焦らしプレイ?
「長老、まだ確定じゃないんだな」
リヒトが焦ったくなって、とうとう切り出した。
「まあ……限りなく確定に近い不確定とでも言うべきか」
「あれですか? またヒューマンの大臣が?」
「またッスか?」
「まあ、そんなとこだ」
焦ったい。キリがない。結局、この日長老はハッキリした事を言わずにハルと一緒に夕食を食べ、風呂に入って帰って行った。
「今日はアヴィーが帰って来るんだ」
と、いそいそと帰って行った。
「じーちゃんとばーちゃん、仲良しらからな」
「そうかよ。よく何年もアンスティノスへの滞在を許していたよな」
「ほんちょら」
「そりゃあ、長老ならいつでも会いに行けたでしょう?」
「りゅしか、頭いいな」
「ふふふ、ありがとう」
「ハル、それ位誰でも分かるぞ」
「りひとは分かってたのか?」
「も、もちろんだ!」
これは、分かっていなかったな。
そんな微妙な感じのまま数日が過ぎた。
「リヒト、いるか?」
「げ、長老」
長老がリヒトの執務室へとやって来た。
「げ、とは何だ」
「だって長老。そろそろ決まったんだろう?」
「まあ、決まったと言うか、決まらないと言うか……それよりもだ。種類が増えたらしいぞ」
「何の種類だよ」
「アンデッドだ。ゾンビまで徘徊する様になったそうだ。その上、数も多くなったらしい」
「最悪じゃねーか」
「アンデッドが徘徊するのは夜だけとは言え、被害も出ている」
「あいつら1度ぶった斬っただけだと倒れねーからな。復活する前にもう1度切らねーと」
「それをヒューマンの兵や冒険者達は知らないらしいぞ」
「マジかよ!? 常識だぞ?」
「では、長老。今までどうやって倒していたのですか?」
「聖水だ」
「ああ、なるほどな。その方が手っ取り早いよな」
「そうですね。聖水があるなら大丈夫でしょう」
「それがルシカ、そうでもないらしい。教会が出し渋っているんだと」
「意味が分からん」
「本当ですね。どうして出し渋る必要があるのでしょう?」
「出したくても、出せないのではないかって話だ」
「……最悪だな」
「もしかして、聖水を作るのに時間が掛かっているのですか?」
「みたいだな」
聖水。聖なる祝福を受けた水と言われている。ゲームやアニメではお馴染みだ。アンデッドへの攻撃には良い。アンスティノスでは、浄化の魔石を水に入れ教会で一昼夜お祈りした物を聖水と呼んでいる。要は、浄化作用のある水だ。
「要するに、作るのが追いつかないと言う事でしょうか?」
「そうだろうな」
「てか、ガンガン殴ったらそのうち倒れるさ」
「リヒト……お前なぁ」
「リヒト様、それは余りにも……」
脳筋すぎる……。
「でも、原因は何なのでしょう?」
「それなんだ、ルシカ」
「分かってんのか?」
「いや、不明だ」
「なんだよ、それさえも解明してねーのかよ」
「まあ、出歩けないでしょうし」
「陽が昇り始めるとどこかに消えるのか?」
「一斉にどこかへ行くらしいぞ」
「後をつけないのか?」
「つけようとしたらしいんだが」
「どうだったのですか?」
「気付かれて攻撃されたらしい」
「駄目だな」
「駄目ですね」
「ああ、駄目だ」
駄目出しはいい。やはり、エルヒューレから助けに出るのだろうか?
「ま、そう言う事だ」
「え?」
「ワシは帰るぞ」
「長老、それだけかよ?」
「ん? ハルはどこだ?」
「いや、ハルじゃなくてな」
「あ! じーちゃん!」
「おう! ハル!」
丁度、お昼寝から起きたハルがシュシュに乗ってやって来た。
「来てたのか? りゅしか、おやちゅら!」
「はいはい。食堂に行きましょう」
「じーちゃんも行く?」
「ああ、一緒に行こうな」
長老が途端に曽祖父の顔になった。
「んまい! りゅしか腕をあげたな!」
「アハハハ。ハル、ありがとう」
「ルシカのフルーツケーキは甘過ぎなくてワシも好きだ」
「じーちゃん、甘いのはダメなのか?」
「駄目と言う訳ではないが、甘すぎるのはなぁ」
「お、おちょなじゃん!」
「アハハハ、大人か!?」
ハル、長老を何歳だと思っているんだ?
「おりぇは生クリームたっぷりがしゅき」
「それはハルちゃん、みんな知ってるで」
「しょう?」
「そうやな」
今日もしっかりほっぺに生クリームがついている。
「あたしは何でも好きよ。ルシカが作るのは何でも美味しいもの」
「しゅしゅ、しょうらよな」
「あたちも好きなのれす」
忘れてはいけない。コハル先輩もルシカのおやつは大好きだ。
「聖獣2人から好きと言ってもらえるとは嬉しいですね」
「りゅしかが作るのは美味いもん」
皆、ルシカのおやつに夢中だ。
「またハッキリ決まったら来るぞ」
「長老、もう大分経つぞ」
「まあ、好きなだけ考えさせれば良い」
「だがなぁ、数が増えたり上位のアンデッドが出て来たら面倒だろう?」
「あ? 大した事ないさ」
「まあ、なぁ……」
リヒトは早く行きたいのかな?
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