第236話 報告会&食事会
「無事に戻ってきたか。ご苦労であったな」
「はい。ただいま戻りました」
「長老、アヴィー先生。此度はご苦労様でしたわ」
「皇后陛下、とんでもないですわ」
「此度、4ヶ国協定を締結できたのは誠に有意義であった。ハル、疲れていないか?」
「あい。楽しかったれしゅ」
「そうかそうか。ハルは王女や王子とも仲良くなったそうだな」
「あい。一緒におやちゅを食べて、遊びました」
「そうか」
「ルシカが作るおやつを偉く気に入られましてな。毎日、皆と一緒に食べておられました」
「ルシカのおやつか!? 意外なところで外交の手段ができたものだなぁ」
「実は4ヶ国協定を考えるきっかけになったのですよ。ルシカが幾つか置いてきたようです」
「リヒト、そこまでなの?」
「はい。陸の食べ物が珍しいのでしょう。我々にとって海の幸が珍しいのと同じです」
「そうね、そうだわ」
「長老、次からはどうするのだ?」
「はい。もちろん魔道具をお渡ししてきましたぞ。それと、海に入る前に必ず立ち寄る村があるのですが、そこにも魔道具をお渡しして来ました。村には転移の魔法陣も設置しております故、次からは転移で移動できます」
「それは便利だな。我々は各国の魔石をメンテナンスしなければならない。1番移動が多いだろうからな」
「はい。これで、アンスティノス以外は国の直前まで転移できます」
「長老、我々も各国の使者を招く事になる。公平を期す為にも、我等の国近くにも転移の魔法陣が必要になるだろう」
「それはそうですな。各国近くに魔法陣を設置して、エルヒューレだけしない訳にはいきますまい」
「4ヶ国協定を結んだ国なら信用できますわ」
「そうですわね」
セイレメールでの巨岩撤去、4ヶ国協定や様々な事を報告して一段落ついた頃だ。
「失礼致します。長老」
「おう、ルシカ。できたか?」
「はい。昼食と一緒にお出しします」
「そうか、では陛下。土産もあるのです。昼食にしましょう」
ハルは口には出さないが、嬉しそうな目をしている。ハルちゃん、ホント食い気だね。
皆で食堂へと移動し、昼食をとる事になった。
「りゅしか、上手らなぁ」
「そうですか? なかなか難しいですね」
「おりょしゅのか?」
「そうですよ。3枚におろすと言うのが難しいですね。包丁が使い辛いのですよ」
「あ、りゅしかありぇりゃ。刺身包丁てのがあんら」
「向こうで使っていた長細い包丁ですか?」
「しょうら。出刃包丁もらな。おやかちゃにちゅくってもりゃう?」
「ハル、親方でなくても。ちょっと知り合いに聞いてみますよ」
「ん、しょっか」
包丁をエルダードワーフの親方に注文するなど、なんて贅沢なんだ。だが、態々ドラゴシオンに行かなくても、エルフにも鍛治職人はいる。親方も褒めてくれていた職人達が。
「なんだ? 見た事がないな。ルシカ」
「はい、陛下。こちらの切り身が刺身と言います。小皿の調味料を少しつけて召し上がって下さい。そちらは海老や白身魚に衣をつけて揚げたものです。スープも魚を入れてあちらで頂いた調味料で味付けしております」
「まあ、初めてね」
「海の魚自体が流通していないからな」
「だって海まで遠いのですもの。川魚とはまた違うのかしら?」
「どうぞ、召し上がって下さい」
「いたらきましゅ!」
ハルちゃん、1番に声をあげた。先ず、刺身にフォークを刺した。
「んまい! りゅしか、美味いじょ!」
「ハハ、ハル。刺身は切っただけですよ」
「え、捌くのが下手らと美味くないんらじょ」
「おや、そうなのですか? では、良かったですね」
「ん、まいうー!」
そんなハルを見て、皇帝や皇后も食べ進める。
「まあ、臭みがまったくないわ」
「本当だな。生でも美味いものだな」
「そうでしょう? 私も生の魚を食べるのは初めてでしたけど、こんなに美味しいものだとは知りませんでした」
「アヴィー先生、本当ね」
和やかに食事は進んだ。
また数日の休みを貰って、一行は其々の仕事へと戻って行った。
ハル達はもちろん、ベースに戻って来ている。
「あぁ〜、落ちちゅくなぁ」
「やだ、ハルちゃんったらオジサンみたいだわ」
「けどやっぱベースがいいやんな。帰って来たって感じするわ」
「そうね〜」
ハルとネコ科の2人はカエデが入れたお茶を飲みながら、テラスでまったりとしていた。
「あら、貴方達何してるの?」
「みーりぇ、浸ってんら」
「え? 何に?」
「ミーレ姉さん、決まってるやん。ベースに帰ってきたなぁ、てな」
「あらやだ、年寄りみたい」
「ほら、あたしと同じ事を言ってるわ」
「カエデ、イオスが探していたわよ」
「え?」
「ほら、訓練よ」
「あ、忘れてたわ。ほな、自分は行くわ」
「ん」
走って行くカエデに、ハルが手をヒラヒラと振っている。立ち上がる気がまったくないようだ。
「ハル、見に行かないの?」
「みーりぇ、おりぇはちょっとゆっくりしたいんら」
「あら、疲れちゃった?」
「しょんな事はねー」
「ふふふ。私もお茶頂こうかしら」
ミーレも仲間に入った。ハルとミーレ、シュシュがベースの隅にあるテラスでのんびりと……いや、ぼーッとしている。
「ベースがリヒトの職場なんでしょう?」
「シュシュ、今更何言ってるの?」
「だって、ベースにいるより外を飛び回っている方が多いじゃない」
「最近はそうね。でも、ずっとそうじゃないわよ」
「ん……」
「あら、ハルちゃんおネムかしら?」
「ポカポカして気持ちいいじょ」
「やだもう。ハル、本当にお爺さんみたいよ」
「なんだ、爺さんが何だって?」
「あ、じーちゃん」
長老が何処からかやって来た。長老も、あれから城で溜まった仕事を片付けていた。
「じーちゃん仕事は?」
「ああ、一段落した。ハルは何をしていたんだ?」
「日向ぼっこ」
「ふふふ」
「なんだ?」
「長老、ハルがお爺さんみたいになっているんですよ」
「なんだ、疲れが出たか?」
「しょんな事ねーじょ」
「少しゆっくり出来ると良いのだがな」
「ん」
ハルがこの世界に転生してきてから、立て続けに各国を回った。それを考えるとまだ3歳のハルにとっては目まぐるしい日々だっただろう。確かに、少しゆっくり出来るといいね。ハルちゃん。
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