第234話 クラブ種

「しゅごかった!」

「ハル、あのメガロドンてスゲーな」

「な、りひとなりゃ余裕れ倒しぇりゅか?」

「そんなん分かんねーよ」

「え、りひと変わったな。なんれも余裕らちょ思ってたじょ。最強らから」

「変わってねーよ! いくら最強でも海の生物なんて分かんねーだろうが」

「しょう?」

「ああ、そうだよ」


 リヒトのヒーロー感がまったく出ていない。長老の方が……いやいや、まだこれからに期待しよう。

 そうして一行は城に戻ってきた。


「りゅしか、マグ……トゥンヌスは沢山もりゃって帰りょう!」

「はいはい。分かりましたよ」

「これも、美味しいですよ」


 ハルちゃん、マグロて言いかけた。

 他にも美味しい魚を漁をしていた者が教えてくれる。


「なんらこれ? めちゃデカイ」

「我々はロンググーパーと呼んでます。鍋にすると絶品ですよ」

「鍋!? りゅしか! 食べたい! 鍋!」

「ハル、鍋とは?」

「野菜とかと一緒に出汁で煮るんら」

「ハルはよく知ってますねぇ。シペさんに聞いてみましょう。何でも知ってますからね」


 シペさん、覚えておられるだろうか? シュテラリール家のシェフだ。いつも、ルシカが料理をしているイメージだが、そんな事はない。ルシカの本業はリヒトの従者だ。一緒に旅へ出た時はルシカがメインで料理をしているだけなのだが、ハルがルシカの作る料理やおやつが好きなのでまるでシェフの様になってしまっている。


「しょう言えば、じーちゃん。ありぇ見ねーな」

「ハル、何だ?」

「ありぇりゃよ、ありぇ」

「だから、ハル。何だよ」

「りひと、ありぇら。ありぇれ分かりゅらろー」

「分かる訳ねーだろ!」

「しょう?」

「ああ、そうだよ!」

「ハル、何だ?」

「じーちゃん、ありぇら。えっちょ、蟹ら」

「蟹?」

「しょうら。10本脚があって鋏を持ってりゅ超美味いやちゅ」

「ああ、クラブ種の事かな?」

「ゆーりゃんれんか、くりゃぶ?」

「ああ。網に入ってなかったか?」


 王配のユーランが聞いてくれている。


「ありますよ。これですか?」


 さっき、ロンググーパーも美味しいと教えてくれた男性の人魚が大きな容器を見せてくれる。


「あー! しょうしょう!」

「ハルくんは本当に博識ですね」

「本当だな。こっちの、脚が太くて赤いのがクィーンクラブ、そっちの脚が長いのはレッドキングクラブと我々は呼んでいる。どちらも美味いのだが、陸の者たちは見た目が駄目だと聞いていたから出さなかったんだよ」

「あぁ、確かに。見た目は好まれないでしょうな」

「だが、長老。美味いぞ」

「そうなのですか!?」

「ああ。夕食に出そう!」

「やっちゃ! 楽しみら!」

「ハル、そんなになのか?」

「りひと、超うめーじょ」

「そうか。これは長老、砂漠地帯にいるサンドクラブに似ているな。同じクラブだし」

「ああ、確かに。森にもいるぞ。グリーンクラブと言うのがな」

「え!? じーちゃん、森に蟹がいりゅのか!? 超ファンタジーじゃん!」

「蟹とは呼ばないがな。見た目がスパイダーみたいだから嫌われている」

「まじ!? 食べたりゃ美味いかも!?」

「ハル、あれは食えねーだろ?」

「りひと、なんれも挑戦が大事らじょ! りひとなりゃ食えりゅ!」

「俺かよ!」

「え、らってりひとが食わなきゃ誰が食うんらよ」

「ハルだよ」

「おりぇはりひとが食ってかりゃら」

「そうかよ」

「ハルちゃん、クラブ種は美味しいわよ。あたし食べた事あるわ。でも殻が硬いのよ」

「マジかよ! シュシュなんでも食うんだな」

「何よ、ホントにリヒトはデリカシーがないわね。サンドクラブなら美味しいわよ」

「ほりゃ、りひと」

「俺かよ!」


 まあ、其れはさておき。ハルが楽しみにしていた夕食だ。


「ありぇらな。なかなか取りぇねーな」

「ハルちゃん、私が身をとってあげるわ」

「ばーちゃん、ありがちょ」


 そうです。ハルちゃんは蟹と格闘していました。小さな手で大きな蟹の脚を持って一生懸命身をほぐしていた。もう、手がベトベトだ。


「ハルちゃん、手を拭きなさい」

「あい」

「アハハハ。ハルはまだ手が小さいからな」

「りひとは、れきるのか?」

「余裕だ」

「じゃあ、ちょうらい」

「なんでだよ」

「らって、おりぇ取りぇねー」

「アヴィー先生が今取ってくれてんだろう?」

「れも、欲しい」

「ハル、お前は食べる事になるとマジで貪欲になるな」

「そりゃ食う事はらいじ。何当たり前な事言ってんら?」

「そうかよ」

「ほら、ハルちゃん。取れたわよ」

「ばーちゃん、ありがちょ」


 ハルが嬉しそうに、大きなお口をあ〜んと開けて蟹を食べる。


「んまい〜! まいう〜!」

「ふふふ。リヒトは揶揄われたのよ」

「アヴィー先生、意味が分からん」

「だが、本当に美味いな。思わず無言になってしまうぞ」

「アハハハ。長老、だよな!」

「これはリヒト。グリーンクラブも食ってみてくれ」

「また俺かよ!」

「りひとしかいねー」

「なんでだよ!」


 どんどんリヒトがヒーロー枠から遠ざかっていく。頑張れ。


 さて、巨岩撤去も終わり、楽しく過ごしていた一行だが帰る事になった。いつまでも観光してはいられない。

 特に、長老とアヴィー先生は戻ったら仕事が待っている事だろう。リヒトだってそうだ。いつまでも、ベースを任せてはいられない。


「……残念だ」

「女王、無理を言ってはいけない。皆様は多忙なのだから」

「……また来てほしい」

「そうよ、ハルちゃん。また一緒に遊びましょうね」

「ああ、ハルくん。待ってるよ」

「ありがちょごじゃましゅ」


 ハルは王女や王子とも仲良くなった。今のハルは素直ないい子だからな。警戒しまくっていたハルとは別人の様だ。


「世話になってしまいましたな。またいつでも魔道具で連絡を下さい。4ヶ国協定の件でも定期連絡を致しますので」

「長老、協定に参加できた事、感謝致します」


 巨岩撤去だけでなく、協定の締結や交流もできよい滞在になった。

 来る時と同じ様に、シェンラとウージンに送られて一行は海辺の村まで戻って来た。


「お疲れ様でした。私達の国は如何でしたか?」

「ええ、シェンラさん。良くして頂きましたわ」

「そうだ、シェンラさん。この村に転移の魔法陣を設置したいのだが、どの辺りが良いだろう?」

「はい、王配殿下からお伺いしておりますわ。ウージン」

「はい、ご案内致しましょう」


 長老がウージンと村の中に入って行った。


「アヴィー先生、この村にも魔道具を提供して頂けるとか」

「ええ。連絡できないと不便でしょう? 王配殿下と連絡できる物を差し上げますわ」

「ありがとうございます。本当に不便だったのですよ。何しろ、海中と陸ですから」


 セイレメールに入るには海辺のこの村が経由地となる。その為の魔法陣と魔道具だ。4ヶ国協定を締結できたからこそだ。

 今後、エルヒューレは鮮魚等の運搬用にマジックバッグを提供する。そして、瘴気を浄化する為の魔石の設置も進めていく。定期的に行き来する事となるだろう。その為の人事も、エルヒューレの城では検討に入った。

 4ヶ国による安全保障協定。今回の大きな成果だ。


「じーちゃん! 釣りしゅりゅじょー!」

 

 ハルにとっては新鮮な海の幸が1番の成果かも知れない。

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