第223話 到着

「もう少しで国に入りますわ」

「確か、国にも結界の様なものを張っていると仰っていたわね」

「ええ、アヴィー様。エルヒューレとよく似ておりますわ」

「早く見てみたいわ。とっても興味深いもの」

「フフフ。私共からすれば、エルヒューレの魔法精度は素晴らしくてとても興味深いものでしたわ」

「同じ様な魔法でも、少し違うのですね」

「そうですわね。陸と海中の差でしょうか。それに我が国は陸の国々とは交流がありませんでしょう。ですから、独自に発達したのですわ」

「なるほど。エルフもそうだな。他に高度な魔法を使う国と言えばドラゴシオンだけですからな。エルフ独自の魔法も沢山ありますぞ」


 長老が言う様に、エルフはエルフ独自で魔法を発展させてきた。国全域を覆う結界もそうだ。また、入国する為のパスもそうだ。魔道具の技術も高い。

 何より、全てのエルフが持つ魔法杖だ。持つ者の魔力を高め、魔法の精度や威力を上げる。

 根本的にエルフが使う魔法は、他の種族が使う魔法とは違う。起きる現象が同じでも発動方法が根本的に違うのだ。

 普通は自身が持つ魔力と空気中に漂う魔素を使用して魔法という現象を起こしている。だが、エルフだけは精霊の力を借りる精霊魔法だ。ツヴェルカーン王国で、巨大な魔石のプールを浄化した際にもその場にいた全ての精霊が力を貸していた。精霊に愛されている種族だからこそだ。

 多種族の同じ魔力量を持つ者と比べると、起きる現象の精度と威力が桁違いだ。尚且つ、魔法杖を使う。エルフが使う魔法と肩を並べられる種族と言えば、竜族のドラゴン位しかいない。しかし、それも威力に限る。精度はエルフの方が抜きん出ている。


「そうだ、ハル。海の中には精霊がいるのか?」

「しょうなんらよ、じーちゃん。おりぇもビックリしたんら。海には海の精霊が沢山いりゅんら。見分けがちゅかなくて、人魚族の赤ちゃんかと思ったりゃ精霊らった」

「ほう」

「陸にいる精霊達はみな蝶々みたいな2対の羽をもってんら。海の中にいる精霊達も同じ様な羽なんらけろ、ちょっと違う」

「どう違うんだ?」

「なんてんらろ? 羽なんらけど、魚のヒレみたいな感じら。ひりゃひりゃしてんら。んれ、上半身は人れ下半身が魚ら」

「おお、人魚族と同じ身体なんだな」

「そうなのですか!? 私達は精霊を見る事ができませんの」

「しょうか、しぇんりゃしゃんの周りにもいっぱいいりゅじょ。好かれてんらな」

「まあ! 嬉しいですわ!」

「あ、らめら。話してたりゃいっぱい寄ってきたじょ」

「ハル、そんなにか?」

「ん、精霊れ前が見えねー」

「まあ! そんなにですのね! ああ、私も見てみたいですわ!」

「まじ、見えねー。ちょっと待ってくりぇな。おりぇ、見えねーかりゃな」

「ハルはどこに行っても精霊に好かれるんだな」

「じーちゃん、おりぇ世界樹の加護らけらから、海の中は見えねーと思ってたじょ」

「世界樹は始まりなのれす」

「コハルの言う通りだな。世界樹は原点だ。この世界の全ての物が世界樹から生まれたと言われておる。世界樹の雫で池になり、湖になり、川ができ海になったとな」

「おお! らから、世界樹の精霊が小っしゃい精霊達の主なのか」

「世界樹の精霊は王なのれす」

「そうか。言うなれば精霊王か」

「王しゃまかぁ。しゅげーな!」


 ハルちゃん、他人事みたいに感心しているが、その精霊王から加護を受けているのは君だ。


「ハルちゃんは愛されているのですわね」

「ハルは『世界樹の愛し子』と言う加護を授かっておるんです」

「神に愛されているなのれす」

「まあ!? 素晴らしいわ!」

「えへへ」


 ハルちゃん、ちょっと照れてる。


「あら、見えて参りましたわよ。あれが私共の国ですの」


 シェンラが指す方を皆が見る。海の中深く、深海に現れた魚族の国。深海の岩肌を利用して造られた街並み。沢山ある窓や、街の彼方此方に立てらた柱から光が溢れている。気泡なのだろうか? プカプカと丸い泡が風船の様に漂っている。そこを、行き来している人魚や魚達。深海だというのに淡い光が溢れている。御伽噺に出てきそうだ。



「うわぁ……」

「なんて綺麗なんでしょう。神秘的だわ」


 ぷくん……と、何かを突き抜けた。


「ありゃ?」

「今のが結界ですわ。結界を抜けた感触がありましたでしょう?」

「私達が使う結界よりも柔らかいと言うか……柔軟性があるのかしら?」

「アヴィー様、その通りですわ。陸とは違って海の中は絶えず色んな物が漂っておりますからね。張り詰めたものだと直ぐにパァーンと弾けてしまいますの。それで、試行錯誤した結果、硬度を強化するよりも柔軟性を持たせてあるのですよ。ですので、今回も突き破って岩が飛んできましたけど、一部が破損しただけで修復は直ぐにできましたの」

「それはとても高度な技術ですわ。結界に柔軟性を持たせるなんて考えつきませんでした」

「ですので、少し結界とは違うと申しましたのよ。そう、まるで大きな柔らかいシャボン玉ですわね。うふふ」

「シャボン玉! しょんな感じらな!」

「アハハハ、ハル。分かってんのか?」

「じーちゃん、雰囲気ら! おりぇ達がしてもりゃってりゅバブリーシーも、しょんな感じらよな!」

「まあ、ハルちゃん。その通りですわ! 大きなシャボン玉を被せる感じですのよ」

「おお! しゅげー」

「これは、我々も応用できるかもな。アヴィー」

「ええ、そうね。良い事を教えて頂いたわ」


 魔法談議に花が咲いているが、そろそろ到着する様だ。

 馬車でなく魚車と言うか魚族に引かれた船が少しずつスピードを落とした。そして、街の1番高台にあるトンネルに入って行きゆっくりと止まった。


「さあ、着きましたわよ」

「おぉー! 来ちゃったじょ……海ん中の国ら」

「ハルちゃん、来ちゃったわね」

「着いたなのれす」

「マジ、海の中の国やで」


 皆が順に船を降りる。そこは、ドームの様になっていて複数の船が泊まっていた。港と言うよりは、まるでハルの前世にあるバスターミナルの様な明るく広い空間に船が規則的に停泊されている。


「ここからまだ上に上がりますの。先ずは私共の女王様に謁見して頂きますわ」


 そう言ってシェンラは船を降り、皆を案内する。


「ハルちゃん、泳いでも行けますわよ」

「泳げりゅか?」

「大丈夫なのれす」


 コハルがハルの肩からス〜ッと泳ぎ出す。


「あら、お上手だわ」

「こはりゅ、しゅげーな!」

「ハルもできるなのれす」

「よし!」

 

 なんでもやってみるハル。トンと少し弾みをつけるだけでス〜ッと身体が前に進んで行く。


「おぉー! しゅげー! 楽ちんら!」

「できるなのれす」


 ハルとコハルがスイスイと皆が歩く周りを泳ぎ出した。

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