第222話 海の中

 翌日、海の中へ行く為の準備と説明をシェンラから聞いていた。


「ほう、これが噂の?」


 全員、ペンダントトップに濃いブルーの魔石がついたネックレスを受け取る。


「はい。ネックレスになっておりますの」

「どんな仕組みになっているのかしら? 興味深いわ」


 アヴィー先生は研究者でもある。興味津々だ。


「息が出来るだけでなく、浮力や推進力も付与されます。ですので、泳ぎの経験がない方でも簡単に泳げますのよ」

「おりぇれも泳げりゅかなぁ……」

「な、ハルちゃん。不安やな」


 泳げないハルとカエデだ。


「ハル、前はどうだったんだ? 泳いだ事はないのか?」

「じーちゃん、生きりゅらけれ精一杯らったかりゃ泳ぐなんてできなかったんら」

「なるほど。だが2人共そう心配はいらん」

「長老は泳げるからそんなん言えるんやで」

「カエデちゃん、大丈夫ですわよ」


 シェンラの余裕ある微笑みだ。


「しょっか。ま、しゃーねー」

「ハルちゃん、軽ッ!」

「かえれ、なんちょかなりゅ。みんながいりゅかりゃ。しぇんりゃしゃんも大丈夫らって言ってりゅ」

「うん、そう思う事にするわ」

「あらやだ、カエデったら小心者ね」

「シュシュ、なんとでも言うていいから、自分が溺れたら助けてな!」

「任せなさいよ!」

「シュシュー!」


 はいはい。賑やかなネコ科はおいておこう。


「うふふ、大丈夫ですわよ。では皆様に濡れない処理をさせて頂きますわね。お1人ずつしか出来ませんの。順にさせて頂きますわね。あ、コハルちゃんもね」

「はいなのれす」


 コハルがポンと出てきてハルの肩に乗る。

 それは、バブリーシールドと言うらしい。要するに結界を利用した魔法だ。

 1人ずつ、施してもらう。長老の神眼で見ると目には見えない膜が全身を覆っている感じだそうだ。


「これで、水に濡れませんわよ」

「おおー!」

「凄いなのれす!」

「ハルちゃん、テンション高いな」

「らってかえれ、しゅごくないか? 水に濡りぇないんらじょ」

「まあ……な」

「かえれ、ノリがわりーな」

「いや、ハルちゃんのテンションがおかしいねんて」

「しょう?」

「そうやで。全然知らんとこに行くのは不安やん? しかも海の中やもん」

「え……超楽しみじゃね?」

「アハハハ! ハルはそうだな! 好奇心が旺盛と言うかな」

「では、皆さま。あちらの船に乗りましょう」

「おー! 船ら! 初めてら!」

「俺も初めてだ」

「りひともか?」

「いや、みんな初めてだろ」

「しょうなのか?」

「そりゃそうだ。エルフは森で生きる種族なんだから」

「しょっか。楽しみらな!」


 ハルちゃん、本当に怖いもの知らずだ。

 船に乗り込むと出発だ。唯の船ではない。魚族が引っ張って進む船だ。マンボウの様な魚の形態をしている。

 

「この子達は同じ種類の中でも大型ですの。ヒレが大きくて推進力がパワフルなので船を引いてくれますのよ」

「ほう、まさか船を引く魚族がいるとは驚きです」

「うふふ。全く知られておりませんからね。そろそろ動き出しますわよ」


 船を引いているマンボウの様な魚族がゆっくりとヒレを動かし始めた。


「しゅっぱーちゅ!」

「アハハハ! ハル、張り切ってんな!」

「りひと、楽しみでしゃーねー!」


 船が動き出した。最初はゆっくりとそして徐々にスピードを上げ、どんどん沖へ向かって進んで行く。


「しゅげー! はえー!」

「この船自体を包む様に皆様にしたのと同じバブリーシールドを施してありますの。ですから、海の中に潜っても私達が船から浮いたりはしませんの」

「まあ、本当に不思議だわ。どうなっているのかしら?」


 アヴィー先生も興味津々だ。

 船は、風を切って進む。どこまでも続く海原を白い波を立てながら進む。

 

「そろそろ潜水しますわよ」

「おおー!」


 シェンラが言った通り、船が海の中へと潜水して行く。


「うわッ!」


 思わず、横にいた長老に抱きつくハル。そのハルにしがみ付くコハル。カエデはシュシュにしがみ付いている。


「アハハハ! なんだハル。怖いのか?」

「じーちゃん、息! 息!」

「大丈夫だ、普通に息できるぞ」

「息するなのれす!」

「ふぐッ……!」


 ハルちゃん、息を止めていたね?


「うわ、マジ!? 息れきりゅし、喋りぇりゅ!」

「ね、ハルちゃん。驚きよね?」

「らな! ばーちゃん、しゅげーな!」


 船はどんどん海の中へと潜水して行く。そのうち、海面が頭上に見える様になる。

 海中から見た海面は、陽の光でユラユラと輝いて見える。


「海ら! きりぇーら!」

「綺麗なのれす!」

「ホント、綺麗だわ……」

「ばーちゃん、魚がいりゅじょ!」

「ハルちゃん! 平気なん!?」

「かえれ、目ぇ瞑ってたりゃらめら! 見てみな! めちゃきりぇいら!」


 おや、カエデは目を瞑っていたらしい。ネコ科は水が苦手だったか? まだしっかりとシュシュに抱きついている。同じネコ科でもシュシュは平気そうだな。


「あかんて! これは本能なんや!」

「カエデ、平気よ!」

「シュシュ、マジか?」

「マジよ、マジ! とっても綺麗よ!」

「えぇ……」


 恐る恐る目を開けるカエデ。

 そこは海の中だった。小さな魚が群れを成して泳いでいる。鱗に陽の光が反射してキラキラしている。

 海の中は、ブルーよりもっと深いブルーだった。カエデだけでなく、皆が見た事のない風景が広がっていた。頭上では海面が太陽の光で揺れている。海底には色とりどりの珊瑚礁。豊かで美しい海が広がっていた。


「うわ……マジ!?」

「な、かえれ。きりぇいらろ?」

「うん、ハルちゃん。凄いわ!」


 其々が海の中の風景に気を取られている中、船はどんどん潜水していく。

 そのうち、陽の光が届かなくなり珊瑚礁も無くなり岩や砂場が多くなってくる。深海に向かってまだまだ深く潜水していく。

 シェンラが、船の前方にポンッとライトを出す。


「海の中なのに魔法が使えんらな」

「ハルちゃんも使えますわよ」

「海の中でも魔法は関係ないなのれす。使ってみるなのれす」

「こはりゅ、しょうなのか? りゃいと」


 ハルがポンポンとライトを出した。


「ほんちょら。変わんねーな」

「ハル、抵抗もないか?」

「ん、じーちゃん全然変わんねーじょ。不思議ら」

「ふふふ。ハルちゃんは平気そうですわね」

「ん、らいじょぶら」

「ルシカ、イオス、ミーレ、静かだな」

「リヒト様、もう何が何やら」

「本当だわ」

「アハハハ、ミーレ怖いのか?」

「イオスだって静かじゃない!」

「いやまぁ、俺も何が何やら。ハハハハ」


 仕方ない。皆、初体験だからな。エルフは森人だ。大森林の守護者だ。まさか、海の中に行く事になるなんて思いもしなかっただろう。

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