第221話 おもてなし

 使者のシェンラに紹介された、マルルとグルル。2人共、人魚族だそうだが今は人化している。しかし、よく見ると顎の両端に水中でも呼吸できる器官のエラがある。

 マルルは女性で、金髪にブルーの瞳。

 グルルは男性で、銀髪に深いブルーの瞳。


「人魚族は大抵、女性は金髪にブルーの瞳。男性は銀髪に深いブルーの瞳ですの。もちろん、種族によっては違う色の者も多数おりますのよ。マルルとグルルは人魚族ですので私達と同じですわね」

「シェンラ様にはエラが見受けられませんわね?」

「ええ、アヴィー様。単純に魔力量の違いで人化した姿が変わりますの」

「まあ、そうなのですね。知りませんでした」

「あまり知られてはおりませんわね。私達はめったな事では海から出ませんもの」


 確かにそうだ。人魚族だけでなく魚族とも初めて会った。


「かなり前に何度かエルヒューレから大使を遣わせた事がありますね?」

「ええ。私共と数度でも交流を持ったのはエルヒューレの方だけですの。ですので、今回の事もエルフの方々に頼るしか考えつきませんでしたわ」

「そうでしたの。お困りだったのですね?」

「ええ。日常生活に支障はないとは言え、私達のご先祖様にお参りできないのは困りますもの」


 そうだった。外れにある墓地への通路が巨岩によって分断されているのだった。


「皆様、少し早いですが夕食になさいませんか? 細やかではございますが、歓迎の意を込めて新鮮な海鮮料理をご用意しております」

「おー! かいしぇん!」

「アハハハ、ハル。食いつくなぁ」

「らってりひと、かいしぇんらじょ! めったに食べりゃんねーじょ!」

「まあ、そうだな。海まで遠いからなぁ」

「けろ、無限収納やマジックバッグなりゃ時間経過がねーじょ」

「そりゃそうだが。捕る技術がねーんだよ」

「しょうなのか!?」

「なんだハル。海鮮料理が好きか?」

「しゅき! 魚も貝もしゅき!」

「なら、持って帰らないといけませんね」

「りゅしか! ほんちょら!」


 ハルは食べ物の事となるとテンションが上がるな。食いしん坊だ。


「おりぇ、前の世界れは腹一杯食べりゃりぇなかったんら。身体が弱くて食べりゅのもしんろかったかりゃ」

「そうだったのか」

「じーちゃん、しょうなんら。らから、今はめちゃ嬉しいじょ。美味いものいっぱい食べりぇりゅかりゃな!」

「よし、是非持って帰ろう! マルル殿、戻ってきた時にでも漁り方を教えてもらえますかな?」

「もちろんですわ! 沢山持って帰って下さいませ!」

「おおー!」

「すまん事です」

「ありがとうございます」

「とんでもありませんわ。取り敢えず、今日はご賞味下さい」

「ありがちょごじゃます!」

「まあ! なんて可愛らしい!」

「アハハハ」


 ハルの可愛さは無敵かも知れない。幼児の舌足らずな喋り方は、なんとも可愛らしい。

 そして、一行は一つの家に招待された。


「狭い家で申し訳ないのですが……」

「いえ、お気になさらず」


 岩陰にひっそりと隠れている集落だ。そう大きな建物を作ってしまうと目立ってしまう。なので、数件ある家は皆こじんまりとしている。招待されたのは、その中でも1番大きな家だ。

 使者と長老、アヴィー先生、ハル、リヒトと、ルシカ達とに分かれて仕切りを取っ払い広くした部屋で席に着く。

 そして、次々と並べられる海鮮料理。


「おおー! しゅげー! あ、刺身ら!」

「はい。ハルくんよく知ってますのね」

「しぇんりゃしゃん! しゅきなんら!」

「ハル、生の魚か?」

「しょうら! じーちゃん美味いじょ!」


 刺身に海老の天ぷらにアクアパッツァ、更には鯛めしの様なものまで出てきた。


「し、信じりゃんねー」

「ハル、どうした?」

「じーちゃん、こりぇ、こりぇ!」

「なんだ?」

「それは海老に衣をつけて油で揚げたものですね。塩を少しつけて召し上がって下さい」

「まじ……!」

「ハル、知っているのか?」

「じーちゃん、美味いに決まってりゅじょ! りゅしか! 覚えて帰んなきゃ!」

「アハハハ。ハル、分かりましたよ」


 ハルに言われなくても、ルシカは料理を出してくれている者達にあれこれ聞いていた。森人とも言えるエルフにとって、海鮮料理は見た事のないものばかりだ。

 唯一、ハルだけが知っていた。前世が、魚介類をよく食べる日本人だから当然だ。


「いたらきましゅ!」

「珍しいものばかりで、何から食べれば良いのか迷うな」

「うんめー!」

「ハル、もう食べてんのか?」

「りひと、刺身めちゃ美味いじょ! しゅげー新鮮ら! プリップリら」

「これ、どうやって食べるんだ?」

「ああ、刺身ですね。ハルくんの様に小皿にある黒いものを少しつけてお食べになってくださいな」

「これですか?」

「そうですわ」


 リヒトは生の魚を見るのも初めてだ。興味津々で口に入れる。


「わ、甘いんだ」

「新鮮ですから」

「え? リヒト、甘いのか?」

「ああ、長老。生魚がほんのり甘いぞ。こんなに美味いんだなぁ!」

「ふふん」


 ハルちゃん、何故君が自慢気なんだ?


「プリップリら!」

「うふふ。ハルくんは本当に美味しそうに食べるのね」

「らって、しぇんりゃしゃん。美味いんら! 超美味い!」

「それは良かったですわ。長老様、お酒もどうぞ」

「ああ、忝い。この酒も珍しいですな。初めて呑みます」


 当然だ。日本酒もどきのお酒だ。日本酒と言う言葉はないが、米から作った清酒だ。お酒が進む。箸も進む。

 

「ああ、おりぇ小っしゃくなかったりゃ、もっと食えんのに……」


 ハルくん、それは仕方ない。それでも、しっかり食べたハルだ。

 ハルが美味しそうに食べるものだから、初めての海鮮料理なのに皆そう抵抗もなく沢山ご馳走になって大満足だ。


「てか、箸が欲しいな。刺身や天ぷりゃにフォークはなんか違う」

 by.ハルちゃん

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