12.おりぇ、海の中にいっちゃったよ!
第214話 ベースでの日常 1
ここは、大陸の中央にあるヘーネの大森林。そこにエルフ族が管理するベースと呼ばれる5つの拠点がある。大森林を5つの範囲に分けて其々のベースでガーディアンと呼ばれるエルフ達が管理している拠点だ。
その中でも大森林の北東にあるベースはリヒト・シュテラリールが管理者として管理している拠点だ。各ベースの管理者は、エルフ族の中でも最強の5戦士と言われている。
そのリヒトが管理するベースは他のベースとは少し様子が違っている。
タッタッタッタとベースの中を走り抜け裏庭に向かうちびっ子。その後を白い虎がつかず離れずついて行く。
他のベースとは違う点だ。ちびっ子がいる。白い虎の聖獣がいるベース。ヒューマンの冒険者や薬草採取の者の中では少しずつ噂になっている。
超可愛らしい幼児がいる。神々しい白い虎の聖獣がいると。
その、超可愛らしい幼児がハルだ。
エルフ族の国、エルヒューレ皇国の長老とアヴィー先生の曽孫のハル。
絵筆で描いた様な長い睫毛の綺麗な二重でちょっぴりタレ目気味のバンビアイ、マシュマロの様な白い陶器肌に淡いピンク色のぷっくりした頬、これまたピンク色に色付いたぷるぷるした唇。
髪は光った絹糸の様でエメラルドグリーン掛かったゴールドの髪を前髪だけ編み込み耳の横に持ってきて結んでいる。そこには髪飾りに見えるが、魔道具とハルの魔法杖が刺してある。
瞳の色はゴールドで虹彩にグリーンが入っている特別な瞳だ。ゴールドの瞳で虹彩にグリーンが入っている者は神の祝福を受けている神聖な色とされている。特別な瞳と言われる所以だ。そんな瞳を持ち、ハイリョースエルフにしか出ない髪色のハルは、ハイリョースエルフと、今は絶滅したハイヒューマンとのクォーターだ。精霊眼と言う特殊なスキルも持っている。
小さな身体を全身使って、ベースの中を駆け抜けて行く。
「ハルくん、転けるなよ!」
「らいじょぶら!」
思わずベースにいる者が声を掛けると、幼児特有の舌足らずな話し方で答えている。なんとも可愛い。映像でお見せできないのが、悔やまれる。
「あたしが付いているから大丈夫よ!」
これは、『神々しい』と、噂される白い虎の聖獣シュシュだ。『あたし』と言っているが、雄だ。暦とした雄の聖獣だ。
体長は2m近くあるだろうか。しなやかな体躯、動きに連動して動く鍛えられた筋肉。一睨みされると動けなくなりそうな鋭い眼光。紛れもなくネコ科のなかでも頂点に君臨する動物の一種であろう。
雪の様に真っ白な体毛に黒と言うよりも薄いグレーの縞模様。なのに鼻は淡いピンク色をしていて、瞳の色が澄んだアイスブルーだ。
ホワイトタイガーだ。白虎と言うべきか。正に、神々しい白い虎の聖獣。
……が、喋らなければの話だ。一言喋ると印象はガラリと変わる。ジェンダーレスとでも言うのか? 個性的な虎の聖獣、シュシュ。ハルとリヒトを守護している。
ハルとシュシュが向かっているのは、ベースの裏庭。そこで、イオスとカエデが訓練をしている。
イオス・ドレーキス。リヒトの実家、シュテラリール家の執事見習いだ。イオスの父が執事をしている。現在は限定的にだが、ハル付きの従者兼カエデの師匠としての役割も担っている。
イオスは、ハイダークエルフ種。リヒト達ハイリョースエルフより少し色黒さんだ。ダークブルーブロンドの髪をポニーに結んでいて、ダークブルーの瞳だ。
執事見習いだけあってか、万能で頼りになる。カエデの訓練にもずっと付き合っている。
カエデはまだ10歳の猫獣人。ハル付きのメイドだ。
三毛猫で後頭部にカエデの葉によく似た模様があるので、ハルがカエデと名付けた。今は栗色にダークブラウンと白が混ざった髪に白いヘッドドレスを着けていて、フリルのついた白いエプロンにメイド服だ。
アンスティノス大公国の人攫いに攫われた元奴隷。その人攫い集団から、リヒトとハルに助けられ奴隷紋も消して貰った。それ以降、ハルに付いている。奴隷だった頃は、身を守る為に男の子の振りをして髪をショートカットにしていたが、今は少し伸びてショートボブの長さになっている。出会ったばかりの頃は満足に食べさせて貰えていなかったのだろう。ガリガリに痩せていて身長も低かった。今は訓練とルシカが作る食事のお陰か、程よく筋肉がつき年相応の身長になっている。
「おらおら! カエデ、甘いぞ!」
イオスが容赦なくカエデを追い込んでいる。
「まだまだや!」
カエデも踏ん張る。
「おー、やってりゅ」
「カエデ、どんどん強くなるわね」
「ん、かえれの努力はスゲーな」
「本当ね」
呑気に見ている、ハルとシュシュ。
「ハル、やるか?」
「いおしゅ、かえれと対戦ら!」
「え!? ハルちゃん、無理やって!」
「カエデ! やってみろ!」
「えー、イオス兄さん!」
と、言う事でハルvsカエデだ。前回、カエデはハルに歯が立たなかったが、今回はどうだろう?
「いくじょー!」
「よし! ハルちゃん!」
ハルとカエデが木剣で斬り込む。
――カーン!
木剣がぶつかり合う音が響く。
「甘い!」
「え、ハルちゃん!?」
ハルがそのまま上に高くジャンプすると一瞬カエデは見逃してしまう。そのままの勢いで、ハルが上から木剣を振り下ろす。
――カーン!
「おぉ、止めた」
「あれ位は止めなきゃ」
イオスとシュシュが観戦している。
ハルがカエデから距離をとったかと思うと、次の瞬間にはカエデの目の前にいた。
「終わりら」
ハルがカエデの目先に剣を構えている。
「ストップ! ハルの勝ち!」
イオスが終わりを告げる。
「ハルちゃん、速いわー! 一瞬やったわぁ!」
「けろ、かえれも強化使えてたじょ」
「けど、まだまだや」
「カエデは目がまだ慣れてないな」
「いおしゅ、しょうなんらよ」
「いや、ハルちゃんが速いねんて! イオス兄さんとやってる時はそんな事ないもん」
「当たり前だろーが。俺まだ身体強化は使ってねーからな」
「マジ!? マジかぁー。凹むわぁ」
「ワッハッハッハ! まだまだだよ!」
「うん、頑張るわ!」
「おー、カエデ偉いなぁ」
「うん。かえれはえりゃい」
「うふふ、カエデ前向きね」
「え、なんか褒められてないよな? シュシュ」
そこにルシカが呼びに来た。
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