第215話 ベースでの日常 2
「お昼ですよー!」
「りゅしかの飯ら!」
「ハルちゃん行きましょう!」
ハルがシュシュに乗ろうと足を上げてもがいている。シュシュも慣れたものだ。伏せてハルが乗りやすくしている。が、イオスがハルをヒョイと抱き上げ、シュシュの背中に乗せた。
「いおしゅ、ありがちょ」
「おう。いくぞ、昼飯だ」
「はいにゃ!」
揃ってルシカが呼ぶ方へと移動して行く。
「りゅしか、昼は何ら?」
「今日はポトフですよ」
「とまと味?」
「はい、たっぷりトマトを入れてますよ。ウサギの肉も入ってます」
「やっちゃ! もう美味いの決まりら!」
「アハハハ、ハルの好物ですね」
呼びに来たのが、ルシカ・グランツ。ハイダークエルフ種だ。リヒトの従者だ。よく料理をしているがシェフではない。ダークブルーブロンド色したストレートでサラサラな髪を後ろで1つに緩く編んでいて、ダークブルーの瞳。
細やかな配慮が出来、リヒトの補佐役としてベースにいる。が、料理が上手い。ハルはルシカの料理が大好きだ。その為、シェフの様な事もしているが、決してシェフではない。マメに世話を焼き少し心配性な為、ハルがほっぺにつけた生クリーム等を拭くのはいつもルシカだ。ハルのヤンチャな遊びを叱るのもルシカになってしまっている。
「ハル、裏庭にいたの?」
ベースの建物に入ると、ミーレが階段を降りてきた。リヒトの執務室にいたのだろう。
「ん、みーりぇ。りゅしかの飯ら」
「ミーレ、リヒト様はどうですか?」
「大丈夫よ。もうすぐ昨日の分は終わるわ」
「そうですか、ありがとう」
「ミーレがリヒト様に付いてたのか?」
「ええ、お茶を持って行ったついでにね。ルシカが昼食を作るから」
「なるほろ」
ミーレ・アマリエラ。リヒトの侍女だ。
侍女だが、ハルがお昼寝する時はいつもミーレが抱っこしている。最近では、もう子育てができるぞと評判だ。だが、ミーレは家事が出来ない。辛うじて出来るのは洗濯。お茶を入れるのだけは上手い。シュテラリール家の執事であるロムスに鍛えられた成果だ。
ブロンドのストレートな長い髪を顔の片方だけ編み込んでいて、ブルーの瞳でしっかり者なエルフ種だ。だが、訓練や練習が嫌い。頑張って訓練すれば聖属性魔法も使えるだろうと言われているが、訓練が嫌いなので習得できていない。
「もう、こっちに来るんじゃないかしら。お腹すいたって言ってらしたから」
皆で食堂に入って行く。ハルはイオスに子供用の少し座面の高い椅子に座らせてもらっている。
「ハル、クリーンしてね」
「ん、みーりぇ」
ミーレがハルの隣を陣取る。
「こはりゅ、昼ら」
「お昼なのれす」
どこからか、コハルが出てきた。
全身真っ白の体毛に、背中とふさふさの尻尾にだけ金色の縞があり、額には普通のリスには無い不思議な模様がある。
コハルは、ハルを転生させた創造神の神使だ。その為、まだ子リスだが同じ聖獣でもシュシュより格上らしい。
コハルと言う名前は「女の子で小っしぇーからコハル」と、安易にハルが名付けた。遺跡調査で発覚した事だが、コハルにはこの世界の創世からの知識があるらしい。
「はい、皆さんお待たせしました」
ルシカがワゴンで食事を運んできた。
「あー! 腹減った!」
「リヒト様、どうぞ座って下さい」
「おう」
リヒト・シュテラリール。ハイリョースエルフ種だ。最強の5戦士の1人。父親が現皇帝の弟というハイクラスの皇族だ。
ブルーブロンドの髪に、ブルーゴールドの瞳。サラツヤな髪を細かくドレッドぽく編み込んでポニーにして束ねている。おしゃれ(?)なヘアバンド(紐)もしている。束ねた先の髪は編まずにそのままストレートだ。因みにこの髪型はベースにいる時にしかしない。何故なら国の母親や親の世代からは頗る評判が悪いからだ。
因みにミーレが編み込みをしているが、時々指が攣りそうになるらしい。
一応、イケメンのヒーロー枠。ハルが持つ精霊眼の下位にはなるが、リヒトも鑑定眼と言うスキルを持っている。
「お、美味そう!」
「りひと、超美味いじょ」
ハルがモグモグしながらリヒトに言っている。お口の周りがトマト色をしているぞ。
「おう、ウサギか?」
「しょうら。やっぱとりに行きたいじょ」
「ハル、まだまだありますよ?」
「けろ、今の時期のうしゃぎは美味いって言ってなかったか?」
「そうでしたか?」
「ん、しょうらった」
ルシカがハルのほっぺを拭いている。
「ハルちゃん、黒龍王が言ってた事かしら?」
「しょうら、しゅしゅ。へいりょんしゃまら」
「黒龍王が言っていたのは、ヒュージラビットの子供の肉が美味しいって言っていたと思うわよ」
「へ? しゅしゅ、しょうらっけ?」
「そうよ。春になったらまた来なさいって仰っていたわ」
「しょうか。けろ、春まれまてねー」
「アハハハ! またいつでも行けるさ」
「おばばしゃまにも会いたいしな」
「ああ、そうだな」
「シュシュ、よく食べるわね」
「あら、ミーレ。あたしは身体が大きいから仕方ないのよ」
大きなボールの様な器に入れて貰って食べているシュシュ。確かにかなりの量だ。
毒クラゲの地底湖から救出した時には肋骨が分かる程だったのに、今は程よい肉付きで綺麗な筋肉が浮き上がっている。
「まあ、シュシュは虎だからな」
「シュシュはまだ育ち盛りなのれす」
「コハル先輩、やめて! この歳で育ち盛りはないわ!」
「アハハハ、確かにな。600歳超えてんだっけ?」
「そうよぉ」
「まだまだヒヨッコなのれす。ピヨピヨなのれす」
「お願い! やめて! ピヨピヨって!」
「アハハハ!」
「賑やかだなぁ」
「あ! じーちゃん!」
「おう、ハル。相変わらずほっぺについてるぞ」
「え……」
また、ルシカがハルのほっぺを拭く。
長老、ラスター・エタンルフレ。ハイリョースエルフだ。ハルの祖母の父親で曽祖父にあたる。エルヒューレ皇国の長老であり皇族だ。実は前々皇帝の兄弟だったりする。グリーンシルバーの長い髪にグリーンゴールドの瞳。瞳はハルと同じ様に、虹彩に鮮やかなグリーンが入っている。白い口髭と顎にも豊かな髭がある渋いイケオジだ。リヒトの鑑定眼やハルの精霊眼の最上位、神眼を持っている。実は愛妻家だったりする。妻のアヴィー先生とはとても仲が良い。
「じーちゃんらけか? ばーちゃんは?」
「ハル、アヴィーは忙しくてな」
アヴィー先生。アヴィー・エタンルフレ。ハイリョースエルフだ。ハルの祖母の母親で、曽祖母にあたる。国にいた頃は長年魔法学の教師をしていた事から、未だに皆からアヴィー先生と呼ばれている。
ブルーブロンドの長い髪にブルーの瞳。長期間アンスティノス大公国に住んで薬師をしていた。その間に何人もの孤児を保護し、育て送り出した。愛情豊かな人だ。
国に帰ってきてからも多忙な日々を送っているらしい。アヴィー先生の意思を理解し尊重してくれる長老には実は日頃から感謝している。
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