第183話 世界樹の精霊

「とにかく防衛だ。世界樹付近に次元の裂け目ができると言う事は分かっているんだ。近寄らないに越したことはない」


 ハルが少し残念そうだ。


「ハル、駄目だぞ」

「じーちゃん、しゃーねー」

「なんだ? ハル、どうした?」

「皇帝、ハルは世界樹の近くに行きたいのですよ」

「それは駄目だ」

「分かってましゅ。もしも何かあって、じーちゃんとばーちゃんを悲しませりゅのは嫌ら」

「ハル、偉いぞ。だが、どうして世界樹の近くに行きたいんだ?」

「精霊がいっぱいらかりゃ」

「そうか」

「ん、しょれらけれしゅ」


 ハルちゃん、諦めよう。分かっている様だがな。


「遺跡調査、ご苦労だった」

「はい」

「昼食を用意させている。フィーリスも待っているぞ」

「あい」


 賑やかに昼食をとっている。


「ハル、これも美味しいのだぞぅ」

「ふぃーれんか、どりぇら?」

「僕が取ってあげるのだぞぅ」

「ありがちょ」


 まるで、小さな弟を可愛がる兄の様にフィーリス殿下はハルの世話を焼く。


「ハル、世界樹の近くに行きたいらしいな?」


 レオーギル殿下がハルに聞いた。


「あい、れも危険らから」

「城の中から世界樹が見られるよ」

「れおれんか、ほんちょに?」

「ああ、食べたら見に行くかい?」

「ん! 行きたいじょ!」


 城は世界樹の樹下に建てられている。そりゃあ、近くから世界樹が見られる場所もあるだろう。


 昼食を終え、レオーギル殿下とフィーリス殿下がハルを案内したのは城の丁度裏側だった。

 サンルームの様になっているガラス張りの部屋だ。そこからすぐ近くに世界樹が見える。


「おぉー、ちけー」

「だろう? ここが世界樹に1番近いんだ。外は立入禁止だから近付けないからな」

「ハルは何を見たいんだ?」

「ふぃーれんか、精霊ら」

「そうか、ハルは見えるのだったな」

「あい、れおれんか。しゅげーいっぱいいりゅ」


 世界樹が圧倒的な雰囲気を放ち神々しささえも感じられる。エルフ族はこの世界樹と大森林を守る種族だ。

 ハルが精霊を見ようとしている。ハルの目にはどう映っているのか?


「キラキラしていてめちゃ綺麗ら。本当に沢山の精霊がいりゅんら」


 ――ハル〜!

 ――ハル〜、来たの〜!

 ――ハル〜、会いたかった〜!


 精霊がフワフワと飛びながら口々に話しかける。


「ありがちょ! おりぇも会いたかったじょ。守ってくりぇてんらな!」


 ――そうだよ〜!

 ――世界樹を守るの〜!

 ――守りは完璧なの〜!


「アハハハ! しゅげーな! 頼んらじょ!」


 ――任せて〜!

 ――守るよ〜!


 ハルが精霊と話をしている。レオーギル殿下とフィーリス殿下は黙ってそれを見ていた。


 ――ハル〜!

 ――ハルは愛し子なの〜!

 ――そうそう〜!


 精霊が何かを伝えようとしている。


「おりぇが、世界樹の愛し子なのが関係しゅんのか?」


 ――そうなの〜!

 ――ハルを苛めるやつは懲らしめるの〜!


「アハハハ、おりぇ苛めりゃりぇてねーよ」


 ――ヨカッタ〜!

 ――ヨカッタなの〜!


「精霊が見えりゅのも愛し子と関係あんのか?」


 ――あるの〜!

 ――愛し子だから話せるの〜!

 ――ハルの事はみんなスキなの〜!


「ありがちょな!」


 ――ハル〜、カワイー!

 ――ハル〜、遊ぼぅ〜!


 ハルの周りにはいつの間にか沢山の精霊達が集まっていた。


「精霊れ、なんも見えねー」


 ハル以外のエルフには精霊達の声は聞こえない。見る事もできない。できないのだが……


「何かハルの周りが光っている気がするぞぉ!」

「ああ、きっと精霊達が集まっているのだろう」


 フィーリス殿下が感じた事は、レオーギル殿下が言った様に見えないがなんとなく感じていたんだ。何かが、キラキラとフワフワとハルの周りに集まっていると。


「殿下方、ハル、こんなところに……」


 長老とアヴィー先生がやってきた。


「長老、アヴィー先生」

「イオス、どうなっているんだ?」


 イオスは今、一応ハルの従者だ。カエデと一緒にハルを見守っていた。


「ハルちゃんが来たら精霊達が集まってきたみたいやねん」

「長老、見えないけど何となく感じるよな?」

「ああ、ハルの周りだな」

「見えないんだけど……分かるわね」


 ――ハル、よく来た。


 世界樹の中からキラキラとした光と共に成人の大きさの精霊が現れた。


「え……精霊らよな……?」


 ――世界樹の精霊なの〜!

 ――主なの〜!

 ――主さま〜!


「世界樹の精霊!?」

「ハル、どうした?」

「じーちゃん、世界樹の精霊が出てきたんら。よくいる精霊は小鳥位の大きされ小っせーんらけろ、大っきいんら。大人の精霊ら」

「なんと……!?」


 思わず長老やアヴィー先生が跪く。それに倣い、レオーギル殿下やフィーリス殿下、イオスとカエデも跪く。


 ――ああ、仰々しくはしないで欲しい。


「れんか、じーちゃん普通にして欲しいって言ってりゅ」

「しかしだな……我々エルフは世界樹を守る役目も担っておる。その精霊となれば……」

「じーちゃん、いいんら。精霊の主が言ってりゅ」

「そうか……?」


 皆が立ち上がる。


 ――エルフ族には感謝している。


「じーちゃん、感謝してりゅって」

「その様な……とんでもない事です。我々は当然の事をしているだけだ」


 ――エルフ族は次元の裂け目の犠牲になっていると言うのに、変わらず我等を守護してくれている。その気持ちは我等にも届いている。


「おりぇのじーちゃんとばーちゃんも犠牲になったんら」


 ――ああ。可哀想な事をした。


「れも、じーちゃんとばーちゃんは幸せしょうらった」


 ――そうか……それなら我々も救われるぞ。ハル、ありがとう。


「おりぇはなんもしてねー」


 ――ハル、時々来ると良い。ハルには我の加護を授けている。


「ん、ありがちょ」


 ――ハルが来れば精霊達も喜ぶ。


「ん、おりぇも嬉しいじょ」


 ――良い子だ。そのまま大きくなるのだぞ。


「ん、分かっちゃ」


 そして、世界樹の精霊は光の粒子の様に消えていった。

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