第182話 次元の裂け目の真実

「世界樹の絵だな」

「リヒト、よく見ろ。これは次元の裂け目が現れた絵だ」


 その壁画には、世界樹の近くに次元の裂け目が描かれていた。何もない空間にポッカリと口を開けている次元の裂け目。裂け目の向こうに暗闇が見えている。そして、なんとか吸い込まれない様にと踏ん張っているエルフが描かれている。


「どう言う事だ?」

「ねえ、もしかして次元の裂け目が出来る原因じゃないかしら?」

「アヴィー……そう思うか? コハル、分かるか?」

「はいなのれす! アヴィー先生の言う通りなのれす!」


 コハルがポンと出てきた。今迄、次元の裂け目が出来る原因は解明されていなかった。不定期で、現れる場所も世界樹の近くと言うだけで、何が原因なのかまったく分からなかったのだ。その原因が、壁画に描かれている。


「火山の噴火に、戦か……」

「それって、どっちも瘴気が大量に生まれるわよね」

「瘴気は駄目なのれす! だから態々魔石を作っているなのれす!」

「だからと言って何故世界樹の近くにばかり裂け目が出来るんだ? いつもエルフが犠牲になる!」


 長老とアヴィー先生は、自分の娘も犠牲になっている。憤りを覚えても無理はない。


「世界樹は世界を浄化しているなのれす! だから、ウルルンの泉も浄化力が強いなのれす! その近くにできるなのれす!」

「なんて事だ……!」


 長老だけでなく、アヴィー先生も言葉が出ない。2人の娘が婚約者であるハイヒューマンと一緒に次元の裂け目に吸い込まれた。それ以降、次元の裂け目は確認されていない。

 あの頃、ヒューマンによるハイヒューマンの殲滅が行われていた。沢山のハイヒューマンがヒューマンに虐殺された。実際、ヒューマンの襲撃から命辛々逃げてきたのが、娘の婚約者であるハイヒューマンだった。


「我々エルフは関係ないだろう!」

「長老……」

「神はヒューマンから力を奪ったなのれす」

「それで、今のヒューマン族は力がないのか?」

「そうなのれす。同族を妬んで殺し合うなんて言語道断なのれす。神は嫌うなのれす」

「瘴気が急激に増えると次元の裂け目ができるのね。その原因が、瘴気の原因になる自然災害や戦だと言う事ね? つまり、世界が不安定になった時なのね?」

「そうなのれす」

「そして、世界に増えた瘴気を浄化している世界樹の近くに次元の裂け目ができる」

「そうなのれす」

「世界樹はエルヒューレの中心だもの。どうしても、エルフが犠牲になっちゃうわ」

「神は申し訳なく思っているなのれす。精霊と話せなくなってしまった事もなのれす」


 世界の瘴気を必死に浄化しようとしていたエルフ族が犠牲になっているという皮肉な事になる。


「ヒューマンがあんな事をしなければ……」

「じーちゃん、らめら」

「ああ……ああ、そうだったな……ハル」


 ハルは長老のヒューマンを恨む気持ちは駄目だと言った。長老から教わった事だ。


「神は感謝しているなのれす。エルフ族にヒューマンの血を残さないのも、長生きなのも、力を持っているのも、エルフ族の国が1番発展しているのも神の気持ちなのれす」

「そうか……コハル、そうなのか」

「長老、この隅にまだ何か描いてあるぞ」


 リヒトが壁画の隅を指す。


「これは……精霊がエルフを守ろうとしているのか?」


 次元の裂け目からも瘴気の黒い靄が出ている。それに抗う様にエルフの前に出て庇っている小さな精霊達。

 そして、瘴気の靄が身体中に纏わりついてしまった一部のエルフ達に異変が起こっていた。髪色が変わり、耳が尖っている。現在のエルフ種と同じだ。


「瘴気の靄のせいで力を一部失ってしまったなのれす。でも代わりに繁殖力は強くなったなのれす。だから、今はハイエルフ種よりエルフ種の方が多くなったなのれす」

「じゃあ、エルフ種は犠牲者の子孫なのか」

「エルフみんなが犠牲者なのれす。だから精霊と対話ができないなのれす。その中でも沢山瘴気を浴びたのがエルフ種なのれす」


 コハル。流石、神使だけの事はある。


「凄いわ。あたしなんか足元にも及ばないわ」


 同じ聖獣のシュシュが呟く。

 そして、コハルが初めて語った。

 この世界が安定しない限り次元の裂け目がなくなる事はない。

 最後の裂け目はハルの祖父母が被害者となった時だ。その時の原因はヒューマン族によるハイヒューマンの殲滅行動だった。とコハルが告白する。

 見た目が違うというだけで殺しあう。自分達より力が強いからと虐殺する。同種族間での殺し合い。

 それが1番瘴気を作る。そして、神はそれを最も嫌う。自然災害も世界が不安定になる原因だ。そして、次元の裂け目が現れる。

 それが真実だった。


 一連の報告を皇帝にした一行。


「なんとも……我々エルフにとっては、遣る瀬無い事だな」


 皆、言葉がでない。自然災害は仕方がない。誰にも止められない。だが、火山の噴火はコントロールできている。なら、あのツヴェルカーン王国の火山地帯にある遺跡が作られた以降の次元の裂け目は……ヒューマン族の戦にあると言う事になるのか?


「いや、自然災害は火山の噴火だけではないだろう。水害だってある。それに、文献を再度確認しなければ確かではないが、ドラゴンがドラゴンブレスを使った時も大量の瘴気は生まれるだろう」

「だが、長老。私が記憶している限りでは、ドラゴンがドラゴンブレスを使ったのはヒューマンがドラゴンにちょっかいを出したからだ」

「皇帝、確かにそうなんだが……」

「今、3ヶ国協定が結ばれた。ヒューマンはどうするかだな」


 現在の獣人族の大公は参加したいと話していた。しかし、ヒューマンの反対に合っていると。

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