第181話 フィーリス殿下4th

 カエデの両親の事があったせいか、ハルは夢を見た。亡くなった祖父母の家の縁側で祖父母と話している夢だ。なのにハルは小さいままだ。


「ハルちゃん、帰れてよかったわ」

「じーちゃんとばーちゃんのお陰ら」

「あの神は頼りなかったからなぁ。もう歳なんだよ。だから何度も話しに行ったんだ」

「しょうらったのか?」

「ああ、最後にはハルの居場所が分からなくなったとか言いやがってあの神は」

「あいちゅは、やっぱくしょじじいらな」

「アハハハ、ハル、神にクソジジイか!?」

「らってあいちゅおりぇを超大型のそばに落としやがって死ぬとこらったんら!」

「なんだと!? そりゃあクソジジイだな!」

「らろー!?」


 祖父母とハルは楽しそうに話す。笑みがこぼれる。


「アハハハ! ハルと話せて嬉しいぞ」

「本当、幸せそうでよかったわ」

「ばーちゃん、長老も可愛がってくれりゅじょ」

「まあ! お父様ね!」

「ん、ばーちゃんもら」

「まさかお母さま?」

「しょうら。一緒に旅したりしたんら。ドラゴンのおばばしゃまとも会ったんら」

「まあ! 何てことでしょう! 懐かしいわ! お元気かしら!?」

「長老とアヴィー先生におばば様か?」

「ん、しょうら」

「懐かしい。違う世界に飛ばされたが、じーちゃんとばーちゃんは幸せだったと伝えてくれ。ずっと一緒だったとな」

「ん、分かっちゃじょ」

「ハルの父親とはうまくいかんかったが、だがそれでも幸せだった。最後にハルの様な孫もできてハルをじーちゃん達の世界に送れてもう心残りはないんだ」

「ハルちゃん、どうか幸せに。辛い思いをさせてごめんなさいね」

「ばーちゃん、しょんなこといいんら」


 ハルが小さな身体で祖父母に抱きつく。祖父母はしっかりハルを抱きしめる。


「ハル、沢山笑ってくれ。沢山楽しんでくれ。色んな経験をしてくれ。それがじーちゃん達の願いだ。話せて良かった」

「ハル、どうか幸せに……」


「じーちゃん! ばーちゃん!」


 目を覚ますハル。まだ夜明け前だ。窓から見える空がほんのり明るくなってきている。

 カエデが隣で熟睡している。シュシュも大きな体を横にして眠っている。ここはまだ南東のベースだ。


「おりぇ夢見てたか……?」


 ハルはパチパチと瞬きをする。まだ、ボーッとしている。


『死んらじーちゃんとばーちゃんの夢らった気がしゅる。じーちゃん、ばーちゃん安心してくりぇ。おりぇは元気らじょ。今楽しいんら。嬉しいんら。幸せらじょ』


 ハルはまた静かに瞼を閉じる。すぐに、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。

 きっと、ハルの祖父母が心配をしていたのだろう。ハルと話したかったんだ。夢ではないかも知れない。朝、目が覚めたら覚えているだろうか?




 ハル達はエルヒューレ皇国の城に来ている。あれから長老の転移で国まで帰ってきて、リヒトの実家で1泊した。

 翌日、さっそく城の真下にある遺跡調査の為に城に来ているのだが……


「ハルー! お帰りなのだぞぅー!」


 はい、お馴染みフィーリス殿下だ。


「ふぃーれんか! たらいまー!」


 もう、すっかり仲良しだ。そして、またフィーリス殿下に抱き上げられクルクルと回る事になる。


「とぉッ!」

「だから、痛いんだぞぉー!」


 またまたハルの威嚇パンチが決まってしまった。


「らから、ふぃーれんか! 回りゅから!」

「アハハハ! ハル、今日は一緒に昼を食べるのだぞぅ」

「しょうなのか?」

「そうなのだ。遺跡の調査が終わったら一緒に遊ぶんだぞぅ」

「おう!」


 2人仲良くハイタッチをしている。ハルが小さいのでフィーリス殿下はしゃがんでいるが。どんな遊びをするのか、不安だ。また、ルシカやレオーギル殿下に叱られるのではないか?

 とにかく、先に遺跡調査だ。今回はアヴィー先生も参加するらしい。


「りひとはこの遺跡を見た事あんのか?」

「ねーよ。入るのは初めてだ」

「お、しょうなのか」

「ハルちゃん、私はあるわよ。調査したもの」

「ばーちゃんは知りゃない事ねーんらな!」

「そんな事ないわよ。最近もまた調査したけど、あの壁画は探し出せなかったわ」

「あれはハルでないとな」

「じーちゃん、しょうじゃねー」

「違うのか?」

「ん、多分らけどおりぇの加護ら」

「創造神の加護か?」

「しょりぇより、あれら。愛し子の方ら」

「世界樹の愛し子か!?」

「違うか? らから精霊と話せるんらと思うんら」

「なるほど。ハル、偉いぞ」

「らから、じーちゃん。おりぇ、世界樹を近くれ見たい」

「ハル、それは駄目だ」

「そうよ、それだけは駄目よ」

「ありぇか? 裂け目の事か?」

「そうだ。いつできるか分からんからな」

「ん、しゃーねー」


 そんな話をしながら一行は城の地下へと降りて行く。見慣れた模様の扉が現れた。大森林にある遺跡の地下へ降りる蓋に描かれていた模様と同じだ。


「やだ、ドキドキしちゃうわ」

「ね、シュシュ。そうよね」

「開けるぞ」


 長老が、普通に横に開けた。


「この奥にまだ扉があるんだ」


 仄暗い通路を進むと、長老が言った様にまた扉が出てきた。長老はその扉も開けて入って行く。広い部屋があり、奥に祭壇のような場所が設けられ魔石が設置されていた。


「一緒らな」

「もう驚けへんしな」

「見慣れちゃったわよね」


 賑やかしトリオだ。冷めている。そりゃあ、もう幾つも遺跡を見て来ている。見慣れたもんだ。


「ハル、ここにも精霊がいるのか?」

「いりゅじょ。ちゃんと守ってくりぇてんら。じーちゃん、あっちらって」


 ハルがトコトコと祭壇横の壁まで移動する。そして手をつく。と、壁に壁画が現れた。


「これは……何だ? 噴火しているのか?」


 壁画には、火山が大規模な噴火をしている様子が描かれていた。火山灰が噴き出しマグマが地表に流れ出し、ドワーフ族や獣人族、ヒューマン族が逃げ惑っている。


「じーちゃん、こっちもら」


 ハルがもう一方の壁に手をつく。そこには、大勢のヒューマンが戦をしている様子が描かれた壁画が現れた。防具をつけ手には武器を持ち、ヒューマン同士で戦っている。血が流れ、数え切れない程の犠牲者の遺体が描かれていた。


「これは、戦か。長老、ヒューマンの戦か?」

「昔からヒューマン族は何度も同族同士で争っている。その場面だろう」

「ここれ最後ら」


 またハルが残った壁に手をつく。


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