第180話 一緒にいる
「りゅしか、りゅしか」
「ハル、どうしました?」
「昼飯はまらか?」
「もうお腹が空きましたか?」
「ん、さんろいっちいっぱいなかったか?」
「ありますよ、ハルが持っていくと言っていたから朝から沢山作りましたから」
「みんなの分ありゅか?」
「ええ、ハルは良い子ですね」
「意味分かりゃんじょ」
「リヒト様、サンドイッチを沢山作ってきましたから皆さんにも食べてもらいましょう」
「おう、おじじ様昼飯にしよう」
小さな集落だ。全員集まっても大した人数ではない。ルシカがマジックバッグからサンドイッチをどんどん出す。ポトフも大鍋で出てきた。朝からよくこれだけの量を作ったものだ。ルシカはハルの思いを分かっていた様だ。
どの国にも属さない小さな集落。きっと食料も充分ではないだろう。せめて、自分達がいる間だけでもお腹いっぱい食べて欲しいと。
「りゅしか、しゅげー」
「アハハハ、これだけあれば足りるでしょう? さあ、皆で食べましょう!」
「ピクニックみたいらな!」
集落の真ん中で皆で座り込みサンドイッチを頬張る。ポトフをかき込んでいる者もいる。
――うめー!
――父ちゃん、母ちゃん、めちゃ美味い!
カエデも両親や弟と食べている。
――美味いな!
――カエデはいつもこんなに美味しいのを食べてんの? 安心したわ。
――姉ちゃん、うまいな!
皆、笑顔だ。ソニル達が食料も沢山持ってきていた。少しは足しになるだろう。シュシュもいつの間にか何やら手伝いをしている。
「リヒト様、ありがとうございます」
「いや、ハルだろ。ハルがルシカに沢山作ってほしいと言ったんだろう」
「ハルちゃんらしいわ」
「ああ」
長老もハルのそばで食べている。
「ハル、いいのか?」
「じーちゃん、なんら?」
「カエデが残ると言うかも知れんぞ?」
「心配して、待っていてくりぇた家族がいりゅなりゃそりぇが1番ら。家族と一緒が1番ら」
「そうか」
「ん、おりぇにもじーちゃんとばーちゃんがいりゅ」
「そうか、そうだな」
「しょうら」
ハルにも両親と弟がいた。だが、カエデの家族の様に温かく迎えてくれる家族ではなかった。いつもハルは1人だった。
祖父母のお陰でこの世界に来た。初めて温かく迎えてくれる肉親と会った。長老とアヴィー先生だ。ハルにとっては初めての家族らしい家族だと言えるのかも知れない。リヒト達もそうなのだろう。
「リヒト達もいりゅ」
「そうだな」
その日は集落で1泊する事にした。カエデがちゃんと考えられる様に。話せる様に。少しでも、馴染める様に。カエデは両親の家にお泊まりだ。
「リヒト様、ハルちゃん」
「カエデ……」
翌朝、カエデが両親と一緒にやってきた。
「カエデから全部聞きました。リヒト様、ハルくん、カエデを助けて頂いてありがとうございます」
「カエデをどうか、宜しくお願いします」
両親が深々と頭を下げる。
「カエデ、いいのか?」
「自分はリヒト様やハルちゃんと一緒にいるって決めてるから」
「かえれ、しょれは気にしなくていい」
「いや、自分が一緒にいたいねん。まだ全然恩返しできてへん。もっと覚えたい事もいっぱいある。これからも、そばにいさせてください!」
カエデは、リヒトやハルと一緒にいる事を選んだ。だが、もう分かったんだ。ここにはカエデの家族がいると分かっている。いつでも会いに来る事ができる。今生の別れではない。
「おう。また会いに来れば良い」
「ん、いちゅれも来りぇりゅ」
「リヒト様、ハルちゃん、ありがとう! しっかり働いて父ちゃんと母ちゃんにお金送るねん! だから、よろしくお願いします!」
カエデはしっかりした長女だ。
「カエデ、いつでも帰ってくるんやぞ」
「そうよ。無理したらあかんよ。元気でね」
いつでも来る事ができる。また必ず会いに来る。それまで元気で。
そうして、翌日一行は南東のベースへ帰って行った。
「あそこの集落だけじゃないんだ。アンスティノス大公国の周りにある獣人族の小さな集落はどこも貧しい。ヒューマン族は見た目が違うと言うだけで差別する。同族同士でも平気で虐げる。信じらんないよ。ヒューマン族てそんなに偉いの? 大した事できないクセにさぁ」
「ソニル、そんなヒューマンばかりではない」
「長老、分かってるって。でないとアヴィー先生だってあんなに長い間あの国にいてなかったと思う。でも、アンスティノス大公国の駄目なところは、ヒューマン至上主義の者が政治の中枢にいると言う事だよ」
確かに。アヴィー先生を攫って罪をなすり付けようとした前大公もそうだった。前大公時代の大臣もだ。
コハルが以前、言っていた。そんな心を神は嫌うと。心持ちが大切だと。
「僕のベースで定期的に見回るようにするよ」
「ああ、頼んだ」
南東のベースでは、遺跡調査だけでなくカエデの家族も見つかった。それが、1番の収穫だった。
隠された壁画には、ここでもハイエルフしか描かれていなかった。精霊と一緒に原初のエルフが魔石を設置した事が描かれていた。
残るは城の真下にある遺跡だ。南東の遺跡では既に魔石を設置していた。では、城の真下にある遺跡にはどんな壁画があるのか? もう、壁画がないかも知れないとは誰も思っていないだろう。ここまですべての遺跡にあったんだ。ない方が不自然だ。
「ねえねえ、もうベースに戻るの?」
シュシュ、戻りたくないのか?
「草原を走るのって気持ちいいわよね。大森林とは違うわ。風を切る感じが気持ちいいのよ」
「シュシュ、こっちにいてもいいぞ」
「なんて薄情な事を言うのよ! リヒト、もう仕事手伝ってあげないわよ」
「俺、シュシュに手伝ってもらってねーし」
「何よ、激励してあげてんのに」
やはり、場の空気を読めない白い虎だ。
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