第177話 猫獣人の集落
「リヒト様、なんとかでけへんのかなぁ」
「んん? カエデ、その言葉は生まれつきなの?」
ソニルがカエデの言葉に反応した。何だろう?
「え? うん、多分そうやけど」
「聞いてもいいのかなぁ? カエデはどうしてリヒト達といるの? リヒトが保護者になっているけど」
リヒトが保護者と左目の常時鑑定で見たのだろう。ソニルが聞いた。
カエデはリヒトを見る。自分が元奴隷だと言っても良いのか判断が付かないのだろう。
「カエデ、構わないか?」
「うん、自分はかめへん。リヒト様の判断に任せるで」
「ソニル、実はカエデもヒューマンの人攫い集団で奴隷にされていたんだ」
「えぇっ!? 奴隷って……もしかして、奴隷紋もあったの?」
「ああ、あった。奴隷紋を付けられるまでの記憶がないんだよ」
「そうなんだ。カエデ、リヒトに出会って良かったね。もう大丈夫だ」
「うん、リヒト様とハルちゃんは自分の恩人やと思ってるねん」
「ハルちゃんもなの?」
「うん、ハルちゃんにも助けられたから」
「そっか。カエデは良い子だね。で、奴隷紋を付けられる前の記憶がないんだね?」
「うん」
「ホント、ヒューマンて碌な事しないよね。腹立ってきちゃった」
「俺も奴隷紋なんて今でも使われているとは思わなかったよ」
「ね、そうだよね。ああ、それでね。そのカエデの言葉なんだけどさぁ」
ソニルが言うには、この南東のベースからアンスティノス大公国を迂回して東側へ行った場所に猫獣人の小さな集落があるんだそうだ。
人攫い集団を調査していて偶然発見した集落らしい。それだけ、ひっそりと暮らしているのだろう。
アンスティノス大公国はヒューマンと獣人の国だ。獣人の殆どがそこに住んでいる。
しかし、アンスティノス大公国に属さず細々と暮らしている獣人達の村が国の周辺にいくつかある。
ヒューマンと獣人の国と言っても実際はヒューマンの獣人に対する差別は根強い。その為、家族を傷付けられたり、酷い扱いをされたものも多くいるそうだ。
そんな事もあり、敢えて国には属さず小さな集落で細々と暮らしている獣人達がいる。そんな集落の1つだ。
「確認されている集落の中では1番東側になるんだけどね、カエデと同じような言葉を使う猫獣人の集落があるんだ。なにより、カエデは純血の三毛でしょ? その集落にも純血の三毛がいたよ。つい最近調査に行ったばかりだから覚えているよ」
「そうよ、そうだわ。思い出した!」
「シュシュ、何だ?」
「最初にカエデの言葉を聞いた時に、どこかで聞いたと思っていたのよ。思い出せなかったんだけど、今の話で思い出したわ」
「シュシュ、そうなのか?」
「ええ。ほら、あたしって神々しいじゃない?」
「ソニル、その集落にさ……」
「リヒト、聞いて! お願いだから最後まで聞いて!」
「なんだよ」
「あのね、あたしの事を少し崇めてくれている集落があるのよ。猫獣人の集落なんだけど。アンスティノス大公国の外側をグルリと走って疲れた時に立ち寄ったらいつもお水とか食べ物とかお供えしてくれるの」
シュシュ、神扱いなのか? そうなのか?
「タダでもらう訳じゃないのよ。あたしそういうの嫌いだから、何かしてほしい事がないか希望を聞いてあたしに出来る事をしてあげるの。そしたら喜んでくれるのよ。その村がカエデの様な言葉を使っていたわ」
それは重要な手がかりじゃないか。お供えまでしてくれる集落の事を思い出せなかったのか?
「ほら、あたしもリヒトに助けられるまで毒で死にかけていたじゃない。だから記憶がごちゃごちゃになっている部分もあるのよ」
おや? シュシュは状態異常完全無効を持っていると言っていなかったか?
「あれからよ。あの時死ぬほど毒を浴びて耐性がついたのよ。それで、状態異常完全無効になったわけ」
確かに、あの時シュシュは瀕死だった。
カエデが黙って聞いている。表情が読めない。
「かえれ」
「ハルちゃん」
「かえれはどう思うんら?」
「どうって言われてもなぁ、言葉が同じってだけやし……」
「けろ、手がかりにはなりゅじょ」
「うん……」
「カエデ、ちょっと真剣に考えてみな?」
「イオス兄さん」
「リヒト様に迷惑かけるとかさ、そんなのは置いといて考えてみな? 今すぐ答えを出さなきゃなんない訳じゃないんだ」
「うん」
「そうだな。イオスの言う通りだな。それとカエデ。ワシが前に言った事を覚えているか?」
「長老、なに?」
「カエデは捨てられた子ではなくて、攫われた子だと言っただろう」
「あ……うん」
「カエデ、イオスの言う通りだ。迷惑とか考えんなよ。今すぐ行きたいって言うなら行く。それが、1年後でも5年後、10年後でもカエデが行きたいと思った時に行こう。それと、手がかりになるかも知れないが、ならないかも知れないって事を忘れんな」
「リヒト様……」
複雑な思いもあるだろう。ずっと奴隷として1人で生きてきたんだ。つい最近長老に言われるまで、捨てられた子だと思い込んでいたんだ。
カエデのルーツかも知れない。両親が、家族がいるかも知れない。いないかも知れない。まったく関係ないかも知れない。
どちらにしろ、ゆっくり考える時間が必要だろう。
「ああ、ミーレ。ハルが限界だ」
「はい、リヒト様。ハル、お昼寝しましょう」
「ん……」
ハルちゃん、もう目が閉じている。
「あたしも一緒に行くわ」
シュシュも一緒に出て行った。
「イオス兄さん、訓練しよや」
「おう」
いつも通り、イオスとカエデは訓練だ。
「長老、リヒト。カエデちゃんの事、いいの?」
ソニルが心配そうに聞いてくる。
「俺たちが強要する事じゃないだろう」
「そうだけど。良い機会じゃない?」
「もう集落があると分かったんだ。焦る必要はないさ。いつでも連れて来てやれる」
「長老……」
その日は南東のベースにお泊りした。
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