第176話 南東の遺跡

 南西のベースから、ユニコーンでも丸3日の距離にある南東のベース。もちろん、長老の転移のお陰で一瞬でやって来た。


「リヒトー! ひっさしぶりだねぇ~!」


 と、元気よく出迎えてくれたのは、ソニル・メリーディ。リヒトの母方の親戚らしい。漂うコミュお化け感がリヒトの母を思い浮かべてしまう。

 セミショートにしたブルーゴールドのふわふわした髪を片方だけ少し長くして編んでいる。好奇心旺盛らしいキラキラしたブルーゴールドの瞳は、どこか少年ぽさを感じさせる。


「俺の同級生なんだ」


 リヒトと同級生、て事は200歳オーバーだ。そんな歳には見えない。身長もリヒトより小さいし、細身だ。キュートと言う言葉がよく似合う。


「おっ! ちびっ子も来たね! ハルくんだっけ? 楽しみにしていたんだ! 一緒に遊ぼうぅ!」

「おい、ソニル。仕事だろうが」

「リヒト、硬い事は言いっこなしだよぉ~!」

「ソニルは変わんねーな!」

「長老! 俺、ちゃんと仕事してますよッ!」


 今、目の前で遊ぼうと言っていなかったか?


「こいつこんなだけどな、最強なんだ」

「りひと、最強の5人の中でも最強?」

「ああ、1番強いんだ」

「へへん! 凄いでしょぉー!?」

「しゅげー!」

「おぉー! かぁわいいなぁ~!」


 そう言ったかと思うとヒョイとハルを抱き上げた。


「うわっ!」


 見かけによらず、力は強いらしい。てか、最強のエルフだ。だが、ハルにスリスリと頬擦りをしている。


「可愛いなぁ~! 超可愛いぃ~!! ほっぺがプリップリじゃん! ちびっ子の匂いがするよぉ~!」


 そう言いながらハルにスリスリしている。ああ、駄目だ。それ以上やるときっとハルが……


「とおっ!」


 ああ、やはり出た。ハルの威嚇パンチだ。ハルは標準装備だからな。


「痛ぁい! 酷いよぉ!」

「アハハハ! ハル、パンチは駄目だ!」

「らって、りひと。思わじゅ……ふぃーれんかを思いらして……」


 いや、フィーリス殿下にもパンチをしては駄目だ。あれでも皇子殿下だ。


「あれ? 猫ちゃんと虎がいるじゃん」

「ああ、猫獣人のカエデと聖獣のシュシュだ」

「よろしくお願いします!」

「カエデも可愛いなぁ! シュシュ、モフモフさせてぇ!」

「なによぉ、あたしのモフモフは貴重なのよ!」

「えぇー! みんな冷たいよぉ。リヒトォー!」

「ああもううぜー……」

「ヒン! リヒトまで酷いぃ!」


 リヒトにウザイと言われて涙目になっている。今にも、ビェッと泣き出しそうだ。こういうキャラなのだろうか? 最強なのに? そっとしておこう。


「もういいから遺跡に行くぞ」

「長老、もう行くの!? 感動の再会はぁ!?」

「誰とだよ!」

「リヒトに決まってんじゃん!」

「感動しねーよ! ほら、行くぞ」

「えぇー、冷たいぃ~」


 リヒトに引っ張られて行くソニル。ああ、面倒そうだ。面倒なのは、シュシュだけで手一杯だ。

 で、ソニルとリヒト達一行はやっと遺跡に来ている。


「この裏側にね、入り口があるんだぁ。長老に言われなきゃ全然気が付かなかったよぉ」


 遺跡の裏側に回る。地面には、もう見慣れた蓋がある。


「よいしょっと」


 よいしょと言いながら軽々と蓋を開けるソニル。力は強いらしい。


「どこの遺跡も一緒なのかなぁ。僕が浄化したんだけど、あれ1人ではキツイよねぇ」

「えっ? ソニルはあの魔石を1人で浄化したのか?」

「無理無理! 1人でできなくないけど、魔力切れになるのが嫌だったから2人で浄化したよ」


 またかよ。シアルと同じ事を言っている。驚いた。あの言い方だと1人で浄化したのかと思ってしまう。


「長老じゃあるまいし」


 なんだと? 長老なら1人でもできると思っているという事か?


「じーちゃんは、れきんの?」

「ハル、何を言ってるんだ。ツヴェルカーン王国にあるあの巨大な魔石のプールを1人で浄化しただろう?」


 確かに。ハルやリヒトも1人で浄化していた。ハルとアヴィー先生は倒れてしまったが、それでも浄化はできていた。精霊達の力を借りてはいたが。


「何なにぃ? ハルくん何か凄い事をやったの? ハルくんの魔力量は凄い多いもんねぇ」

「え?」

「ハルは知らなかったな。ソニルも鑑定眼を持っているんだ」


 なるほど。それで見たんだね。ハルの承諾もなく。


「勝手に見たとかじゃないんだよ。僕のこっちの瞳をよぉ~く見て。左目だよ。ほら」


 と、言って顔を近づけてくる。言われてよく見ると、片方の瞳にだけ虹彩にゴールドが入っている。ゴールドが強く出ているので、まるでオッドアイの様に見える。


「分かる? この左目がね常時鑑定しちゃうんだよ。態とじゃないの。ごめんね」

「おぉ~」


 一体どんな風に見えるのだろう。片方の眼から常時情報が入って来る……ウザくはないのか?

 さて、通路の奥にある扉を開ける。部屋の奥に浄化された透明な魔石が設置されている。


「ハル、どうだ?」

「ん……この壁らな」


 ハルが壁に手をやると、壁画が現れた。もう5箇所目だ。ハル達は皆、感動もなく淡々としている。


「えぇー!! 凄いっ! 今何やったの!? 超感動なんだけどぉ!」


 賑やかに感動している者が1人いたぞ。

 現れた壁画には、台座に魔法陣を設置し大きな魔石を設置しようとしている場面が描かれていた。妖精もそばで見守っている。しかし、やはりハイエルフしか描かれていない。

 壁画を確認してベースまで戻ってきた一行。皆で昼食を食べている。


「シアルから聞いたんだが、人攫い集団がいるんだそうだな?」

「なんだ、リヒト聞いたの? そうなんだよ。またヒューマンなんだ。丁度、今日偵察隊を出したとこだよ」

「アジトが分かったのか?」

「ん~、まだ本当なのか分かんないんだ。だから偵察隊を出したんだけどね」

「こんな、南の端にか?」

「そう。でも今偵察している集団はね、人を攫う集団じゃないと思うんだ。攫った人を仲介している集団なんじゃないかなぁ?」

「仲介? どうしてそう思うんだ?」

「あのね、まず立地でしょ? こんな端っこでどんだけ攫えるんだって話なんだよ。住んでる人も少ないのにさ。でね、目撃証言がさぁ馬車に数人のせて移動している証言ばっかなんだよ」

「なるほどな」

「だからね、あっちからこっち。こっちからそっちって感じでさ、需要のある所へ仲介しているんじゃないかなぁって思うんだ」

「よく情報を集めているじゃないか」

「そう? 長老、もっと褒めても良いよ!」

「それで、被害者はどうなんだ? やはり、女子供が多いのか?」

「そうだね、あと獣人の子供だね」


 ああ、カエデもそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る