第175話 南西の遺跡

 南西のベース。アンスティノス大公国から1番遠いベースだ。ツヴェルカーン王国からも距離がある為、リヒトが管理するベースの担当範囲の様に冒険者や薬草採取のヒューマンが入る事はあまりない。

 代わりに、南側は盗賊や人攫い集団が大森林の浅いところで潜伏しやすい。また少し奥に入ると、魔物も北側に比べて多く常に誰かが討伐に出ている。その為、遺跡の魔石も漆黒に近くなっていたらしい。


「つい最近も盗賊団を発見してな。とっ捕まえたんだ」

「ヒューマンのか?」

「ああ。全員元傭兵だった。アンスティノス大公国に送り返したんだ」


 アンスティノス大公国。アヴィー先生とカエデの事があるから、リヒト達にも良い印象はない。どうも、国の治安が安定しない様だ。


「アヴィー先生が戻ってきて良かったよ」

「ああ」


 まあ、態と人質になるという無茶をしていたがな。

 昼食を食べたらハルはもう駄目だ。コクリコクリとし出した。


「お、昼寝か?」

「ああ、もう駄目だな。ミーレ」

「はい、リヒト様。ハル、お昼寝しましょう」

「ん、みーりぇ」


 ミーレに抱っこされて食堂を出て行った。


「可愛いなぁ。本当に小さいんだな」

「まだ3歳だからな」

「長老、良かったな」

「ああ」

「カエデ、腹ごなしするか」

「はいな、イオス兄さん」


 イオスとカエデが訓練をするのだろう。


「あたし、ハルちゃんとこに行くわ」

「ああ」


 シュシュもお昼寝らしい。


「スゲーな。超カッケー」

「アハハハ、シュシュか?」

「ああ。聖獣なんだろう?」

「虎の聖獣だ。あれでも雄だ」

「そうなのか!?」

「アハハハ、シュシュは個性的だからな」


 のんびりとした時間が流れている。どこのベースに行っても、ハルやカエデ、シュシュは好意的に受け入れられた。

 アンスティノス大公国では皆フードを被りシュシュは小さくなって用心していたものだ。ドラゴシオン王国やツヴェルカーン王国にも行ったが、そこまで用心する事はなかった。

 アンスティノス大公国は、差別や偏見が根強い。ヒューマン至上主義だ。獣人族の国でもあると言うのに。


「獣人は国に属さない小さな集落で生活している者も多いだろう。だから、人攫いに攫われやすいんだ」

「シアル、何かあったのか?」

「長老、アンスティノス大公国の南側にどうやら人攫い集団がいくつかあるらしい。そいつらが、獣人の小さな集落を狙っているみたいなんだ」

「それは本当なのか? このベースでも何かあったのか?」

「いや、このベースではない。南東のベースで注意しているらしいぞ。こっちに流れて来るかも知れないから用心してほしいと言って話が回ってきたんだ」


 なるほど。南東のベースはアンスティノス大公国の南端が近い。それで、人攫い集団も流れてくるのだろうか? 大森林に入ってしまえば隠れられるとでも思っているのだろうか? 大間違いだ。エルフが目を光らせている。


「その件も調査を続けてくれるか? 南東のベースと協力してな」

「長老、もちろんだ。人攫いなんて放ってはおけないからな」


 まだ、詳細は分かっていないらしい。きな臭い感じがする。


 翌日、リヒト達はシアルに案内され遺跡調査に出かけた。ベースからユニコーンで普通に走って約2時間程だろうか。遺跡に到着した。

 南西にある遺跡も、今迄の遺跡と同じ様な作りになっていた。

 遺跡の直ぐ横に地下への入り口があり、蓋を開けて下へ降りる様になっている。下に着くと壁画のある壁の通路が続いている。奥には扉があり、その扉を開けて部屋へと入っていく。


「ふむ。ここまではまったく一緒だな」

「長老、そうなのか?」

「ああ、シアル。ここからだ。ハル、分かるか?」

「じーちゃん、こっちら」


 ハルが右手に歩いて行き壁に手をついた。すると、また蜃気楼の様に揺らぎながら壁画が現れた。


「これは……凄いもんだな」

「4番目だな」


 その壁画には、精霊と言葉を交わしながら原初のエルフが魔石を集めている様な場面が描かれていた。

 精霊から言われて魔石に瘴気を吸わせる事を考えついたらしい。エルフと精霊が協力して1つの大きな魔石を作っている。


「長老、俺達の先祖は精霊と話せていたんだな」

「ああ、そうらしいんだ。瘴気を浄化しようと無理をした事が、精霊と話せなくった原因らしい」

「そうなのか!?」

「じーちゃん、こりぇもハイエルフらけら」

「そうだな」

「なんだ? どういう事なんだ?」

「シアル、よく見てみろ。ハイエルフしか描かれていないだろう?」

「リヒト、そうか? ああ……本当だな。耳に髪色か」


 ここにも、ハイエルフしか描かれていなかった。エルフ種は存在していなかったのか? まだまだ疑問は残る。


「しかし、昔はこんなに精霊がいたんだな」

「しありゅしゃん、今もいりゅじょ」

「ハル、そうなのか?」

「この遺跡を守ってくりぇてんら。大森林にはいっぱいいりゅじょ」

「そうか……! ありがとう。精霊のお陰で貴重な遺跡が残っているんだな。俺には見えないし声も聞こえないが……ありがとう。礼を言う」


 シアルが、何もない空間に向かって礼を言った。


「しありゅしゃん、精霊がいいよーって言ってりゅ。喜んれりゅ」

「そうか。そりゃ良かった」


 エルフは大事にする。見えなくても、聞こえなくても。太古から存在するだろうとされている精霊をだ。存在を実証できなくても、確認できなくても、存在しているのだと信じて疑わない。

 大事にしなければならない存在なのだ。存在自体が重要なのだと。太古からその気持ちは変わず受け継がれている。



 何事もなく、南西の遺跡調査は終了した。

 次は南東だ。翌日、リヒト達は南東のベースへ向かって出発した。

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