第174話 南西のベースへ

 翌日、朝から一行は南西のベースに向かって出発した。エルヒューレ皇国経由で、大森林を斜めに縦断する事になる。

 ユニコーンが4頭、大森林の上空を走る。ハルはリヒトの前に、カエデはイオスの前に其々乗っている。シュシュは、ユニコーンが飛ぶ下を疾走している。

 長老とは、国のリヒトの家で待ち合わせだ。そこからは、長老の転移でひとっ飛びだ。


「酷いわ! なんであたしだけ走るのよ! あたしも乗せてよ!」


 と、シュシュが散々文句を言っていた。だが、本当に乗りたいなら小さくなれば良いだけだ。それを、シュシュは並走する事を選んだ。色んな所を走るのが好きと言っていた。本当に走るのが好きなのだろう。

 実際、風の様に疾走する。その姿は見ていてやはり聖獣たる堂々とした姿だ。風を操る聖獣、白虎だ。上空から見ていると、シュシュが走ると魔物が避けて行くのが分かる。


「シュシュ、カッケーな!」

「ん、しゅげーよな!」


 この2人、リヒトとハル。本当の兄弟の様だ。最初の頃、お互いどこか遠慮してぎこちなかったのに、今は全くそんな素振りもない。

 幹が少しグレーっぽい大きな樹の下で昼食だ。葉っぱの先端がギザギザになっていて、葉脈もグレーっぽく見える。魔物が嫌う匂いを出している樹だ。


「シュシュ、スゲーカッコいいな!」

「あら、リヒト。当然じゃない。今頃あたしの魅力に気がついたの?」

「シュシュ、偉そうなのれす!」


 いかん、シュシュ。コハル先輩がいるぞ。


「コハル先輩、許して! ねえ、ミーレ。午後から小さくなるから乗せてちょうだいね」

「いいけど、走らないの?」

「大森林の景色を上から見たいのよ」


 シュシュ、本当に好きなんだな。色んなところを見たいから大陸を走って回ったと言っていたシュシュだ。


「ハル、昼寝しとけ」

「ん、りひとは?」

「周りを見回ってくる」

「リヒト様、俺とカエデも行きますよ」

「うん、任してや!」

「おう」


 昼食後、ハルはミーレやシュシュと一緒にお昼寝。リヒトやルシカとイオス、カエデは近辺を見回りながら魔物討伐だ。

 カエデが中型の魔物を一刀で倒している。


「おぉー、カエデ。強くなったなぁ」

「へへん! カエデちゃんは日々進化してんねん! 継続は力なりや!」


 イオスがマジックバッグに魔物を収納する。

 そして、ハルが起きたらまた南西のベースへの中継地、エルヒューレ皇国に向かって出発だ。大森林の中央にあるエルヒューレ皇国まで約3日。本来なら、そこからまた3日かけて南西のベースまで行く。但し、ユニコーンで行った場合だ。普通なら倍はかかる。

 3日掛けてエルヒューレ皇国にあるリヒトの家に到着した。ここからは長老と合流する。長老の転移で南西のベースまで一瞬だ。

 リヒトの両親が、ゆっくりできないのかとハルを引き留めたが、翌日長老の転移で出発した。


「リヒト、久しぶりだな。長老、また世話んなります」


 南西にあるベースの管理者、シアル・カピターノ。リヒトの母方の親戚だ。

 ブルーゴールドのストレートで腰まである長い髪にブルーゴールドの瞳。頭にリヒトがしている様な細い紐のヘアバンドをしていて、見るからに戦士という感じだ。


「君がハルか?」

「あい、はりゅれしゅ」

「おぉ、可愛いなぁ!」


 そう言ってヒョイと抱き上げられた。ハルはもう慣れっこになっている。最初の頃からは想像もつかない。


「君がカエデか?」

「はい! 宜しくお願いします!」

「おう! 来なさい」


 と、言って手を差し出す。

 カエデがそばに寄ると、また片手でヒョイと抱き上げる。いつか似たような事があったぞ。


「今日はもうゆっくりしなさい。一緒に飯食べるか?」

「あい! 飯!」

「アハハハ! ハルは元気だな! カエデも遠慮するんじゃないぞ」

「は、はい!」


 2人共、シアルに抱っこされたままベースへと入って行く。



「んまい!」

「そうかそうか! 美味いか! 沢山食べなさい!」

「ハルちゃん、お口に入れ過ぎやって」

「らって、かえれ。美味いんら!」

「アハハハ! 食べなさい! 沢山食べるんだぞ!」


 もう、ルシカも手を出せないでいる。本当はハルのほっぺを拭きたくてしょうがない。


「りひと、親戚なのか?」

「ああ、母方のな」

「ハイエルフはほとんど親戚になるな」

「しょっか」

「ハルだって、親戚になるって言ったろう?」

「しょうらった」

「ハルは、長老の曽孫なんだろう?」

「ん、おりぇのじーちゃんら」

「どっかで繋がってんだろうな」

「シアル、リヒト、明日朝から遺跡調査するぞ」

「ああ、長老」

「長老、俺も立ち会っていいよな?」

「シアル、もちろんだ。このベースが管理している遺跡だからな」

「おう」

「浄化する時に変わった事はなかったか?」

「ああ、なかったぞ。だが長老、あれを1人で浄化するのはキツイな」

「え? シアル、お前1人で浄化したのか?」

「いや、キツかったから2人でやった」


 そりゃそうだ。エルフ1と言われている長老でさえハルと2人で浄化している。が、きっと長老は1人でもできるのだろう。火山地帯にある遺跡の巨大な魔石のプールを1人で浄化して1番余裕があった。


「1人だと魔力切れで倒れるわ」

「アハハハ。シアル、相変わらずだなぁ。大きさからして1人だとキツイと分かるだろうが」

「長老、でもやってみたかったんだよ」

「ホント、お前変わんねーな」

「なんだよ、リヒト」

「いや、昔から無鉄砲と言うかさぁ、チャレンジャーと言うかさぁ」

「ああ、シアルは無鉄砲だったな」

「長老、アヴィー先生よりマシだぜ?」

「あー……」


 言われてしまったね、長老。言葉がないね。やっぱ、アヴィー先生はそうなんだ。


「アヴィー先生、帰ってんだってな」

「ああ、俺たちが迎えに行ったんだ」

「リヒトがか?」

「長老とハルも一緒だ」

「そうか。曽孫がいれば少しは落ち着くんじゃねーか?」


 シアルよ。それが落ち着かないんだな。無茶をしているから、態々迎えに行ったんだ。

 

「無理らな。ばーちゃんは変わんねー」


 あらら、ハルちゃん言ってしまった。それを言ったらおしまいだよ。

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