第173話 ハルのファミリーネーム

 ある日、ハルはルシカやミーレと一緒にベース1階にある受付カウンターの奥にいた。何をしているかというと、冒険者が狩ってきた魔物の査定を手伝っていた。


「こりぇ、ウルフ種の中型ら。3頭」

「こっちは小型の兎ですね。4羽です」

「大型はいないわね」

「そうですね」

「これで以上ね」


 ミーレが書類に書き込んで行く。その書類を隣のカウンターへ。そこで、現金に交換するのだ。


「お待たせしました。内容をご確認下さい。こちらで全部現金化されますか?」


 ミーレが対応している。


「ああ。全部現金化を頼む」

「畏まりました。お待ちください」


 書類をルシカと2人で確認して、相応の現金を用意する。


「では、こちらになります」

「ありがとう」


 冒険者達は現金を受け取り、隣の飲食スペースへと移動して行く。


「みーりぇ、こりぇ食えんのに売って、金を払って飯くうんらな」

「そうよ。魔物を狩っても解体できない冒険者がいるのよ。それに、ここの食事は美味しいもの」

「しょっか。りゅしかが監修してんらもんな」

「そうよ。ハルもルシカの食事が好きでしょう?」

「大好きら」

「ふふふ」


 一通り処理をしてバックヤードへ入って行く。

 

「イオスとカエデはまた訓練ですか?」

「そうみたいよ。カエデの成長が楽しいみたい」

「頑張りますね。シュシュは?」

「リヒト様に発破をかけているわ」

「ああ、それは助かります」

「りひとは書類仕事が、らめらかりゃな」

「アハハハ、確かに」

「リヒト様はじっと座っていられないのよ」

「ん、らな」


 リヒト、言われているぞ。頑張れ。


「りゅしか、昼飯にしよう」

「そうですね。今のうちに食べておきましょう」

「リヒト様呼んでくるわ」

「お願いします」


 ハルとルシカは食堂へ入って行く。ハル用の椅子に座らせてもらって食事が出てくるのを待つ。


「ハル、ここにおったか」

「じーちゃん、来たのか」

「これから昼飯か?」

「ん、じーちゃんも食べゆ?」

「ああ。ルシカ、ワシも頼む」

「ハイ、長老」


 長老がやって来たという事はだな。あれだ。遺跡調査だ。長老の予定に合わせて遺跡調査を進めている一行。

 なかなか長老の身体が自由にならない。一気にまとめて調査してしまいたいらしいが、1日おき、数日おきになっている。


「じーちゃん、遺跡か?」

「ああ、明日からな。今度は南西だ。少し遠いからまた泊まりになる」

「海の方らよな」

「そうだが、海からはかなりの距離があるから見えないぞ」

「しょっか」

「ハル、長老、お待たせしました」


 ルシカがトレイを2つ手に持ってきた。


「あー、飯だ飯」

 

 リヒトもミーレやシュシュと一緒に食堂へやって来た。


「イオスとカエデはまだやってんのか?」

「もう来るでしょう」

「ルシカ、俺も頼む」

「はい、リヒト様。お待ちください」


 こうした平和な日々も良い。いつも何かあってバタバタしているよりは。


「長老、南西か?」

「ああ。明日出発できるか?」

「おう。あと、2箇所と城だな」

「早く済ませてしまいたいもんだ」

「最後に城の地下か?」

「そうだ。アヴィーとリュミが調査をしたんだが、やはり壁画は見つけられんかった。全ての壁を触ってみたそうだ」

「やっぱ、ハルか……」

「そうだな。それに精霊だ」


 太古、原初のエルフは無理をして浄化をしたせいで、精霊の声を聞くことができなくなった。それも、壁画で明らかになった事だ。

 ハルは精霊に愛されているらしい。ハルの持つ加護も関係するのだろうか?


「ところで、リヒト、ハル」

「じーちゃん、なんら?」


 ハルさん、お口いっぱいだな。ほっぺが膨らんでいる。いつの間にか、コハルも出てきて、小さなほっぺを膨らませて食べている。


「ハルのファミリーネームの事だ」

「おう」

「エタンルフレを使うことになった」

「長老、そりゃそうだろう? 血縁者なんだから」

「だが、リヒトも保護者に名を連ねている。で、リュミとフォークスの要請もあってだな、国にいる時は基本シュテラリール家預かりになる」

「おう」

「ワシやアヴィーもなかなか家にはおれんからな」

「リヒトの家にいるけろ、じーちゃんと同じ、えたんりゅふりぇって事か?」

「ハル、そうだ。ハルがシュテラリール家にいる間はワシがハルに会いに行く」

「ん、分かっちゃ」

「ハルはこれから、ハル・エタンルフレだ」

「じーちゃん、伊織じーちゃんの名前はなんてんら?」

「マイオル・ラートスだ」

「しょっか」

「ランの名前は覚えているか?」

「りゃんりあ・えたんりゅふりぇ」

「よく覚えていたな」

「伊織じーちゃんが時々りゃんりあって呼んれた」

「そうか……そうか」

「いつも仲良くて、いつも一緒らった」

「そうか……」

「じーちゃんとばーちゃんは幸せしょうらったじょ」

「そうか……ハル、ありがとうな」

「ん」


 長老の娘、ランリア・エタンルフレ。その孫のハルがこの世界にやってきて嬉しい。それは間違いない。しかし、娘のランリアは別世界に飛ばされて幸せだったのかと考える。それは、当然の事だ。愛娘なのだから。

 ハルはランリアからみて孫だ。ハルの父親がランリアの息子だと聞いた。実の息子はどうだったんだ?

 ハルが話した少ない話から推測すると、実の息子もハルに対して好意的ではなかったのだろう。そんな、息子と孫を見ていて、ランリアは幸せだったのだろうかと。どうしても、考える。考えてしまう。

 ハルはそんな長老の気持ちに少し気付いていたのかもしれない。


「じーちゃんとばーちゃんは幸せしょうらった」


 ハルはそう言った。そうであって欲しい。長老はそう思う。

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