第172話 北西の遺跡

 翌日、リレイとリヒト達は予定通り北西にある遺跡調査に来ていた。他の遺跡と同じ様に地面にある蓋を開けて入る。階段を降り通路を進む。


「この通路や壁画も同じだな」

「リヒト、そうなのか?」

「ああ、北も行って来たが一緒だ」


 通路の突き当りに扉が見える。そこを開けて部屋へと入ると、奥には祭壇の様な場所に設置されているクリスタルが見える。


「さて、ここからだ」

「リヒト、もうなにもないぞ」

「まあ、リレイ。待て。ハルには分かるんだ」

「ハルにか?」

「ああ、ハルは精霊の声を聞く事ができるんだ」

「精霊のか!?」


 ハルが部屋の中をウロウロしている。


「ハル、分かるか?」

「じーちゃん、ここらな」


 ハルがなにもない壁を手で触ると壁画が蜃気楼の様に揺れながら現れた。


「おい、何が起こった!?」


 同行していたリレイが驚いている。


「ここは3番目だよな」


 壁画には、原初のエルフが皆で手分けをして瘴気の靄(もや)を浄化して回っている様子が描かれていた。大森林だけでなく、火山地帯を浄化する者、厚着をして雪山で浄化している者、広い草原では大人数で浄化している者達。靄の濃い場所は原初のエルフでも困難だったのだろう。倒れている者達も描かれている。

 原初のエルフは命を懸けて大陸に漂う瘴気を浄化して回っていたんだ。


「これは……凄いな。圧倒される」

「リレイ、そうだろう? 原初のエルフの事が描かれている」

「ああ、リヒト。こっちに描かれているエルフは倒れているぞ。ここまでして瘴気の靄(もや)を浄化していたんだな」

「ああ、信じられないだろう?」

「だが、誇りに思うよ。俺たちの先祖だ。同じ血が流れてんだ」

「今また遺跡にある瘴気が溜まった魔石を浄化して回っている。俺たちエルフにかできない事だ」

「そうだな……俺たちハイリョースエルフにしかできない事だ。リヒト、しっかりやれよ」

「当たり前だ」


 リヒト達エルフにとっても少なからず思う事があるのだろう。

 原初のエルフが始めた瘴気の浄化。そして、悠久の時を経て今またエルフが瘴気の溜まった魔石を浄化して回っている。エルフにしかできない事。エルフが太古の昔に始めた事。それが、今も昔も世界を救っている。

 

「戻ったりゃ飯ら」

「ハル、もうお腹が空きましたか?」

「ちょいな」

「ちょいかよ」

「りひと、食ったりゃ帰んのか?」

「ハルが昼寝から起きたら帰るぞ」

「しょっか。じゃあおやちゅは、どっちれ食べようかなぁ」

「ハル、お前食うことばっかだな」

「りひと、おりぇは小っしぇんら」

「おう、分かってるぞ」

「らから、胃も小っしぇんら」

「それで?」

「らからしゅぐに腹がへる」

「アハハハ! 身体も小さいんだから一緒だろうよ」

「いや、しゅぐに腹がへる」

「そうかよ、減るのかよ!」

「おう」


 呑気なハルさんだ。



 ハル達は遺跡の調査を無事に終え、リヒトが管理するベースまで戻ってきていた。日常に戻っている。今日は、ルシカの手伝いをしている。


「ハル、次はこの薬草です」

「ん」


 薬草採取だ。ベースにも一通りの薬草とポーションを常備している。万が一に備えてと、冒険者達が購入していく用だ。

 そのポーション作成に必要な薬草と、備蓄用の薬草を採取に来ている。

 仕切っているのは、もちろんルシカだ。ハルはそのお手伝いだ。何故かと言うと、ハルの持つ精霊眼で見分けられる事と、精霊がこっちに沢山あるよ~と教えてくれるからだ。


「りゅしか、この辺にはないじょ」

「そうですか。では、もう少し奥に入りますか?」

「しょうらな……ないか? ん? あっち? りゅしか、あっちらって」

「そうですか。精霊達に有難うと伝えてくださいね」

「ん」


 ルシカとハルが薬草を採取している近くで、イオスとカエデ、シュシュが待機している。一応、ルシカとハルの護衛だ。

 2人が薬草を採取している間、イオスとシュシュが警戒をしている。魔物の気配があれば、カエデの出番だ。カエデの実地訓練も兼ねている。


「おし。ここら辺の魔物なら、もう楽勝だな」

「そうね、安定してきたわね」


 シュシュ、まるでトレーナーの様だ。


「楽勝やで。カエデちゃんは進歩してんねん! 日進月歩や!」

「カエデ! 左奥から来るわよ! ほら、走る! 走る!」

「シュシュ、分かった!」


 カエデとシュシュは何をしていても賑やかだ。


「りゅしか、この薬草は何になるんら?」

「これは、毒消しのポーションですね」

「毒か」

「ええ。1つ持っているかいないかで命に関わりますからね」

「なりゅほろ」

「ハルやリヒト様は耐性が高いのでそれ程ではないかも知れませんね」

「たいしぇい」

「ハルは状態異常無効を持っていたでしょう?」

「分かりゃん」

「持っていましたよ。リヒト様も持っていますが、重要な耐性スキルですね」

「しょっか」

「はい。ハルやリヒト様程ではなくても状態異常軽減位ならエルフは持っていますね」

「じゃあ、毒消しはヒューマン用?」

「主にはそうです。ヒューマンの冒険者が大森林へ入る前に購入していきますね」


 なるほど。エルフはヒューマンと違って耐性も高いと。


「あたしは状態異常完全無効よ」

 

 シュシュ、さすがに聖獣だ。完全無効だと。


「シュシュ、スゲーな」

「イオス兄さん、自分は?」

「カエデは状態異常を持っていなかっただろう。気をつけないとな」

「そうなんや。イオス兄さんは?」

「俺か? 俺は状態異常軽減だな」


 なるほど。状態異常軽減はエルフなら標準装備なのかも知れない。


「ハル、戻ったらポーションの作成を手伝ってくれますか?」

「ん、りゅしか。もちりょんら」


 朝から薬草を採取して、午後はずっとポーションを作っていた。平和な1日だ。

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