第153話 飛べりゅじょ!

 とにかく、1度遺跡から出て来た一行。

 ゲレールが言うには……壁画に描かれた2つ並んだコブの様な山は、王国がある場所から火山地帯に入った丁度中央にあるらしい。

 そこまでの道のりは険しく、まだ誰も入った事がないそうだ。また、そこまで辿り着けたとしても、遺跡自体がどこにあるのか分からない。


「長老様、そこは瘴気だけでなく火山活動も抑えているんだよな?」

「ああ、ゲレール殿。壁画にはそう書いてあった。火山活動を抑えていると言うか、火山活動による噴火のエネルギーを吸収しているのだろう。もしかしたら、城の遺跡にあった魔石よりも大きな魔石があるのかも知れん」


 大きな魔石。ドラゴシオン王国に実際にあった。あのクラスの大きさの魔石を長老だけで浄化する事は不可能かも知れない。


「どうすりゃいいんだ。無理だ」

「長老の転移では行けないのですか?」

「ロマーティ。1度行った事があるか、ワシがはっきりと認識できる場所でないと無理だ」

「そうでした……」

「じーちゃん、おりぇは行けりゅじょ」

「ハル、それは無理だ」

「行けりゅじょ。おりぇは魔法杖で飛べりゅかりゃな。ちっさくてもおりぇは飛べりゅ!」


 ハルが自慢気に、魔法杖を握った片手をシュタッと上げた。


「ハル……!?」

「おりぇなりゃひとっ飛びら。しょりぇに精霊の声も聞けりゅ」

「駄目よ! ハルちゃん、危険すぎるわ!」

「そうよ! ハルちゃん! あたしが背中に乗せて走るわ! とにかく長老が1度行けば良いんでしょ? あたしなら行けるもの!」

「シュシュ……」


 ハルかシュシュか……だが、長老が1人で行っても遺跡の場所が分からない。

 そうなると、ハルも一緒の方が良い。


「でも、ハルちゃんが行くのは危険だわ!」

「アヴィー、分かっておる。しかしだな、ハルが行かないと遺跡の場所が分からんかも知れん。精霊の声が聞けるのはハルだけだ」

「だって、長老!」

「アヴィー、大丈夫だ。ワシ達が一緒だ。必ず守る」

「すまん、とにかく王に報告をしないと」

「ああ、ゲレール殿。そうだな」


 ゲレールとロマーティ、長老とリヒトが王に報告する為に拝謁した。その間、ハルは……


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました?」

「昼はまらか?」

「まだ少し早いでしょう? もうお腹が空きましたか?」

「ん、しゅいた」

「ハルちゃん、クッキーでも食べとくか?」

「かえれ、クッキー持ってんの?」

「うん、あるで」

「食べりゅ」


 カエデにクッキーを貰って食べていたハル。


「ハル、あまり食べると昼食が食べられなくなりますよ」

「ん、りゅしか。こりぇらけにしちょく。ありぇらな、クッキー食べたりゃ何か飲みたくなりゅな」


 ハルちゃん、まだ食べたそうだ。りんごジュースでも飲むか?


「どうすんだろ?」

「そうよね、イオス。やっぱり私も魔法杖で飛ぶ練習をしておけば良かったわ」

「うわ、ミーレが練習とか言ってる」

「イオス、何よ」

「だって練習嫌いのミーレが」

「私だってやる時はやるのよ」

「いつだよ」

「酷いわね」

「ハルちゃん、飛べると言っても距離を飛んだ事ないでしょう?」

「ばーちゃん、らいじょぶら」

「どうして?」

「じーちゃんが認識できるギリギリまれ転移しとけばいいんら。しょんなに遠くないじょ」

「そうかも知れないけど……心配だわ」


 アヴィー先生の気持ちも分かる。皆同じ様に思っている。ハルにばかりとも思う。

 昼食を食べハルがお昼寝から起きてもまだ長老達は戻ってこない。ハル達が、ルシカのおやつを食べている時にやっと戻ってきた。


「また甘い匂いがしてるな」

「りひと、りゅしかのふりゅーちゅけーきら」

「お、いいなぁ。ルシカ、俺も食べる」

「ワシも一切れもらおう。ロマーティとシオーレ、ゲレール殿もどうだ?」

「宜しいのですか?」

「頂きます」

「あ、俺も」

「シオーレ、ゲレール殿、遠慮と言うものを知らないのか?」

「ロマーティ、甘いものが欲しい」

「俺もだ。頭をつかったから甘いものが欲しい」

「沢山作りましたから、大丈夫ですよ。切りますね」


 ルシカに切ってもらい皆がフルーツケーキを食べている。生クリームも添えてある。


「じーちゃん。ろーなったんら?」

「ハル、ドラゴシオン王国へ協力を求める事になった」

「しょうなのか!? おりぇ、飛ぶ気らったのに!」

「アハハハ。それも良いんだがな。ドラゴシオン王国とも協定の話をしたいのだそうだ。良い機会と言ってはなんだが、3国間協定を結ぶ方向で考えると言う事でな」

「そう。それが1番良いわ」

「誰が来りゅんらろ?」

「おばば様と、青龍王だ」

「青龍王様直々になの!?」

「ああ、アヴィー。そうなんだ。我々が青龍王の子を保護したろう。その恩があると言ってな」

「我々ドワーフは、エルフの方々におんぶに抱っこになってしまいます。申し訳ない」

「ワシがおばば様に連絡をとったからそんな流れになったんだ」

「それでもです。我々にはドラゴシオン王国の方に連絡を取る手段もなく」

「ゲレール、それが3国間協定のきっかけになるのだったらそれで良いだろうが」

「長老、有難うございます! なんと礼を言えば良いか!」

「ワシができる事をしたまでだ。それよりもだ。ハル」

「なんら? じーちゃん」

「近くに行けば場所が分かるのか?」

「精霊が教えてくりぇりゅらろ?」

「確かか?」

「え……分かりゃん」


 おいおい、ハルさん。そこはとっても大事なとこだぞ。


「らいじょぶら。きっと分かりゅ」

「ハル、行ってから分からないじゃ何をしに行くのか分からんぞ?」

「ん、頑張りゅじょ」

「頑張るのかよ!」


 リヒト、ツッコミを有難う。

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