第154話 おばば様が来たぞ!

 今回の遺跡調査にドラゴシオンの協力を得る事となった。決まると同時に、ツヴェルカーン王国では早急にお触れが出された。

 遺跡を調査する事。

 国の存亡に関わるその調査の意味。

 そしてドラゴンとエルフ族の手を借りる事になった為ドラゴンがやって来る事。

 1日だけ触れが行き渡るのを待ち、翌々日2頭のドラゴンがツヴェルカーン王国近くに降り立った。

 1頭は純白に輝く鱗、もう1頭は淡いグリーンに輝く鱗を持つドラゴンだ。紛れもない堂々たる天空の王者だ。

 お触れが出されていなかったら、大騒ぎになった事だろう。その為のお触れでもある。


「おばばしゃま!」


 ハルの声に、白いドラゴンがブワンと光り人型になった。

 

「ハル!!」

「おばばしゃま! 超カッケー!!」

「そうかい、そうかい! カッコいいかい! アハハハ!」


 おばば様は駆け寄るハルを抱き上げる。もう1頭のドラゴンも人型になった。後ろで1つに結んだグリーンシルバーの髪が風で揺れ光に反射して鱗の様に輝いている。


「ハル、また会ったな」

「りゃんりょんしゃま! 綺麗ら!」

「綺麗か?」

「きりゃきりゃ光ってめちゃ綺麗ら!」

「そうか、有難う!」


 おばば様に抱っこされたままのハルの頭を撫でる。どうやらハルはとても可愛がられている様だ。ハルを見つめるおばば様と青龍王の目がとても優しい。


「おばば様、ランロン様、態々有難う御座います」

「長老、お互い様だよ」

「ああ、私達を頼ってくれて嬉しい」

「有難うございます。とにかく入国を」


 おばば様と青龍王ランロンが入国を済ませると、待っている者がいた。


「お初にお目にかかります。私は宰相を拝命しておりますドニスターと申します。此度はご助力を賜ります事を心より感謝申し上げます」


 流石に青龍王直々のお出ましとあって、宰相が出てきた。深々と頭を下げている。

 茶色の長い髪に茶色の瞳、立派な顎髭を蓄えている。


「ああ、宜しく頼む。私は青龍王ランロンだ。こちらは我等の祖母でホアンと言う」

「協力は惜しまないですよ。なんせエルフ族からの依頼なんだからね」

「有難うございます。宜しくお願い致します。早速ですが城へご案内致します」


 ハルがキョトンとしている。どうした?


「ハル、どうしたんだい?」

「おばばしゃま、ホアンて名前らったんか?」

「アハハハ、なんだい。そんな事かい。そうだよ。まあ、もう滅多に名前では呼ばれないけどね。アヴィーはどうしてるんだい?」

「ばーちゃんも一緒にいりゅじょ」

「そうかい。そりゃ良かった」

「じーちゃんとばーちゃんが一緒ら。おばばしゃまや、りゃんりょんしゃまも来た。嬉しいじょ」

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。ハルは本当に可愛いね」

「おばば様、私がハルを抱っこしますよ」

「ランロン、いいんだ。あたしが抱っこするよ」


 おやおや、直ぐに馬車に乗るというのにハルの取り合いか? 竜族は気の良い種族だ。懐が深い。エルフ族と交流が続いているのも頷ける。

 城の謁見室に通されると、既にツヴェルカーン王国の王が待ち構えていた。


「ようこそおいで下さった! 此度はまことに忝い!」


 王がガバッと頭を下げた。王なのに。


「王よ、頭を上げてくれ。その様な事をせずとも協力致す」

「そうだよ、お互い様ですよ」

「いや、エルフの方々の力をお借りしておったのだが、我々ではどうしようもなく。長老殿のおかげでこうしてご縁を持てた事を感謝致します!」


 おばば様に抱っこされたままの流れで部屋まで来てしまったハル。長老の膝の上で終始キョトンとしている。話を理解はしているのだ。だが、まだちびっ子のハルは場違い感が半端なく肩身が狭い。


「ハル、大丈夫だ。大人しくしていればそれで良い」


 長老にそう言われ、コクコクと頷くハル。


「ブフッ……」


 この笑いはドワーフ王だ。


「ハルと言ったか?」

「あい、はりゅれしゅ」

「話は聞いているぞ。ヴェルカーの剣はどうだ?」

「あい、めちゃ良いれしゅ」

「アハハハ、そうか! 遺跡の調査も頼んだぞ」

「あい」


 おぉ、ドワーフ王と喋っちゃったよ。案外、気さくな王だ。



「おばば様、ご無沙汰してます!」


 皆がいる部屋に戻ってきた長老とハル。おばば様と青龍王も一緒だ。アヴィー先生が真っ先に挨拶をしている。


「アヴィー、あんた心配したんだよ!」

「ウフフ、申し訳ありません」

「なんだよ、笑いながら謝るんじゃないよ。まあ、無事で良かった」

「有難うございます」

「ハルみたいな可愛い子がいるんだ。これからは程々にしなよ」

「はい、おばば様」


 おばば様がアヴィー先生をそっと抱きしめる。


「心配かけんじゃないよ。お転婆娘って歳でもないだろう」

「おばば様、ごめんなさい」

「無事で良かった」

「はい、有難う御座います」


 ニッコリ微笑むアヴィー先生。


「これは懲りていない顔だね? 長老、あんたも苦労するよ」

「アハハハ。おばば様、もっと叱ってやって下さい」

「ハルが1番の抑止力になるだろうさ」

「おばば様、鋭いですわ」

「アヴィー、しかし良かったね。ハルが帰ってきて本当に良かった」

「ええ、本当に。有難うございます。おばば様」

「あー! もう駄目! あたしこういうの弱いのよ! 泣けちゃうわ!」


 また感動のシーンを台無しにした白い虎。シュシュよ、空気を読んでほしい。

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