第152話 ツヴェルカーン王国の遺跡

「あの親方はな、よっぽど気に入った者じゃないと剣を打たない事で有名なんだ」

「おー、じーちゃんらっきーらったな」

「アハハハ。ハル、ラッキーか!?」

「みんなのも見てもりゃえてよかっちゃ」

「みんな?」

「ああ、俺も剣のメンテナンスしてもらったんだ。あの親方スゲーな!」

「アハハハ! そうか! 皆気に入られたんだ!」

「あの親方はいいやちゅらじょ」

「ああ! ハルくん、そうだな!」

「さあ、ゲレール殿。遺跡に案内してくれ」

「はい、長老様!」


 さあ、また遺跡調査開始だ。

 城にある扉の向こう、まだ長い階段が続いていた。地下へと下りる階段だ。ハルは長老に抱っこされている。

 階段の両脇には光の魔石が等間隔に設置されている。暫く下りるとまた扉の前に出た。この扉は見るからに作られた年代が違う。


「この扉から遺跡になるんだ」


 ゲレールが両手で扉を開けると通路が続く。


「大森林の遺跡にある地下とよく似ているな」

「リヒト様、そうですね。壁には壁画がありますね」

「ああ、原初のエルフの話だな。これも大森林の遺跡と同じだ」

「大森林にこんな遺跡があるの?」

「ああ、アヴィー。遺跡の地下にあったんだ」

「凄いわね。帰ったら見てみたいわ」

「どうせまた調査しないといけないだろうな」

「そうなの?」

「ドラゴシオン王国の遺跡で新しい壁画が発見されたんだ。エルフの遺跡にもあるやも知れん」

「凄いわね。ドキドキするわ」

「ね、そうでしょう!? あたしも見ていてドキドキしちゃったもの!」

「シュシュ、そうなの!?」


 賑やかしチームにアヴィー先生が加わった。シュシュと自棄に気が合っている。

 通路の先は行き止まりだった。ドラゴシオン王国にある遺跡の様に、下に飾りのあるプレートが2枚。


「この先に魔石があるんだ」

「長老の話を聞いていなかったら、気づかなかったですよ」

「シオーレ、そっち踏んでくれ」


 ゲレールとシオーレが同時に飾りのあるプレートを踏むと、ゴゴゴゴと音を立てて壁が両側に開いた。


「え……凄いわね」

「ね、ね。凄いでしょ!?」

「ええ、シュシュ。凄いわ。圧倒されちゃう」

「まだまだよ。魔石はもっと凄いんだから!」

「そうなの!?」


 アヴィー先生は、こんな遺跡を見るのは初めてだ。驚くのも無理はない。

 扉の向こうは広間になっていた。奥に祭壇の様な場所がある。大森林にあるエルフ族の遺跡にあったのと同じだった。古代の魔法言語で書かれた術式が、リボンの様に絡みつき上下の魔法陣で固定されている真っ黒になった魔石が設置されていた。


「デカくねーな」

「ハルちゃん、小さいやんな?」

「かえれ、れも大森林の遺跡にあった魔石もこんなもんら」

「ハルちゃん、そうなん?」

「ハル、これで小さいの?」

「ばーちゃん、ドラゴンの遺跡はこりぇよりじゅっとじゅっとデカかったじょ」

「まあ! そうなの!?」

「そうよね、これの何倍かしら?」


 確かに、ドラゴンの里にある遺跡に設置されていた魔石よりは小さい。だが、大森林にある遺跡にあった魔石と同じ位の大きさだ。1mはあるだろう。


「ハル、浄化するぞ」

「ん、じーちゃん」


 ハルと長老が手を翳し浄化する。


「ピュリフィケーション」

「ぴゅりふぃけーしょん」


 真っ黒だった魔石が白く輝く光に包まれる。光が消えると透明に輝くクリスタルが現れた。


「やだ、凄い! 神秘的!」

「ね! ね! 凄いでしょ!」

「ええ、シュシュ。驚いたわ!」


 ハルが部屋を見回している。


「じーちゃん」

「ハル、まだあるか?」

「ん……まっちぇ、ここか?」


 ハルが何もない壁に手をつく。すると、ブワンと蜃気楼の様に揺れながら壁画が現れた。


「なんて事! ハルちゃん、どうして分かったの!?」

「ばーちゃん、精霊が教えてくりぇりゅんら」

「まあ! 凄いわ!」


 アヴィー先生はなんせ初体験だから何を見ても驚いている。


「これは……長老。マズイな」

「ああ、リヒト」

「長老様、リヒト様。現在遺跡はここしか確認できていない! これ! この壁画! まだもう1箇所遺跡があるんだよな!?」

「ゲレール殿、壁画にはそう描いてあるな」


 長老も壁画を見る。現れた壁画にはツヴェルカーン王国にある火山地帯にも魔石を設置している場面が描かれていた。原初のエルフ達がドラゴンの背に乗って魔石を運搬している。


「じーちゃん、こりぇ古代語ら」

「どれだ? ハル」


 ハルが壁画の一部を指差す。


「これは……なんと……!?」

「長老様!」

「ゲレール殿は古代語が読めるか?」

「はい、はい! これはヤバイ!」

「長老、何て書いてあんだ?」

「ああ、リヒト」


 長老が古代語で書いてある内容を説明する。

 ドワーフが開いたこの国ツヴェルカーン王国。しかし、遥か昔はまだ火山地帯の活動が活発で時折噴火が起こり、その度に国民は避難していた。被害も大きく、折角国として形を成してきていても噴火でまた壊されると言った事の繰り返しだった。その度に、再建するが瘴気も溜まり靄が漂う様になる。

 そこで今居る地下の魔石と、もう1箇所火山に魔石を設置した。その魔石には、火山活動のエネルギーを吸収し瘴気も吸収させる目的があった。それも、精霊の導きを得て原初のエルフとドラゴン、そしてドワーフが協力して作ったと壁画の説明に書いてある。


「一体どこに……」

「ゲレール殿、思い当たる場所はないのか?」

「ありません。元々遺跡はここだけだと思っていた」

「ゲレールしゃん、この山の形ら。2つコブみたいになって並んれる山ないか?」


 ハルが、壁画に描いてある山を指差す。


「え? ハルくん……あ、ある! あるぞ! あの山か!?」

「行ってみるか」

「いや、しかし。長老様、あの山は……ヤバイ……」

「ゲレール殿、どうした?」

「火山地帯の中央なんだ。こんな場所、入った者はいない……」


 どうやら、火山地帯を切り拓き国を造ったドワーフでも入った事がない険しい場所にあるらしい。

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