第148話 ハルちゃん出番です!
「そんな馬鹿な事あり得ないわ」
「そんな馬鹿な事をしたのが貴方だ。アヴィー先生」
「はあ!? 私はそんな事していないわよ」
「いや、貴方はしたのだ。それを気に病んで自害するんだよ」
「何言ってんの?」
「私はこのままでは二度と表舞台に戻れない。だが、一連の毒クラゲ事件の犯人を捕まえたとなれば話は変わるんだよ。また私にもチャンスが出てくる! この国を獣人などには任せておけるか! ヒューマンこそが、私が返り咲くんだよ! 関係のないエルフは大人しくしていれば良いものを、しゃしゃり出てきおって!」
「頭がおかしいんじゃないの? 私はね、ドラゴシオン王国と交流があるのよ。竜王様のお婆様だって懇意にしているわ。そんな事信じる訳ないじゃない」
「そう、あなたはエルヒューレ皇国の長老の奥方らしいな」
「そうよ、それがどうしたのよ」
「大人しくエルヒューレ皇国に居れば良かったんだ。態々この国で毒クラゲの事件に関わる必要なんてないだろうが! エルフが余計な事をしなければ、あの小汚いスラムの連中を一掃する事ができたんだ。これからお前に遺書を書いてもらう。ああ、大丈夫だ。もう文書はできている。お前の懐に遺書を入れるだけで事は済む。ハッハッハ」
前大公に付いていた私兵らしき物達がアヴィー先生を拘束する。
「何するのよ」
「これから自害してもらうのさ。安心しろ。苦しくはないようにしてやろう」
「何を! 離しなさい!」
突然、グニャッと……空間が歪んだような感覚に捕らわれた直後……
「どっしぇーい!!」
「やるなのれす!」
「ハルちゃん!! コハル!」
突然、空中に現れたハルとコハルのドロップキックがアヴィー先生を拘束している私兵達に決まった。そして、イオスとカエデが素早く前大公を拘束した。
「ばーちゃん! らいじょうぶか!?」
「ビックリしたわ! ハルちゃんどうして来たの!?」
「ばーちゃんとシュシュの気配を辿ってきたんら! じーちゃんも来てりゅじょ!」
「ハル、よくやった」
「じーちゃん!」
どこからか、長老とリヒト、ルシカも現れた。どうやら、ハルが来たのも長老の指示だったらしい。イオスとカエデもハルが転移させたのだろう。ハルが小さな手にオモチャの様な魔法杖を持っている。
長老が前大公の前に出た。
「な、な、なんなんだ!! お前たちどこから!?」
「知らんのか? エルフは転移ができるんだ」
「て、て、転移だとぉ!!」
「お前が前大公か? エルフ族を舐めるんじゃないぞ。お前の首等、いつでも取れるんだ」
「ば、馬鹿な! この女が、このエルフが毒クラゲの中にドラゴンの幼体を入れたんだ!」
「ああ、さっきお前が話していたシナリオか? それは総て魔道具に保存させてもらった。動かぬ証拠と言うやつだ。シュシュもういいぞ」
「あら、そう?」
ソファーの下から出てきたシュシュが元の大きさに戻った。堂々たる白虎の姿だ。
「な、な、虎だと!?」
「あら、そこら辺にいる雑魚の虎と一緒にしないでね。あたしは聖獣よ。虎の聖獣、白虎よ」
シュシュが一歩前に出ただけで、前大公が腰を抜かした。それでもシュシュから離れようとズリズリと後退りをしている。
「なんなんだ! なんなんだお前らは! 化け物じゃないか!」
「よくもおりぇのばーちゃんに……」
ハルは魔法杖を握りしめる。まだヤル気だ。前大公にロックオンだ。
「ハル、もういい」
「えー、れもじーちゃん」
「ハルちゃん、もういいわ。ありがとう」
「ばーちゃん、無茶しゅんなよな」
「あら、無茶なんてしていないわ」
アヴィー先生、この期に及んでまだ言うか。皆に心配かけたんだぞぅ。
「ちゃんと長老と連絡を取り合っていたもの。いざとなったら転移すれば良いだけだわ、大丈夫よ。でもまさか、ハルちゃんが来るとは思わなかったわ」
「しょりゃ来りゅじょ! ばーちゃん心配したんらじょ。ドラゴシオン王国から急いれ帰ってきたんら」
「まあ、ハルちゃん。ありがとう!」
「アヴィー、程々にせんとな」
「え? 上手くいったでしょう?」
ああ、アヴィー先生懲りていない。
騎士団が慌ただしく部屋に入って来た。
「大丈夫ですか? 長老殿、前大公は私共が連行致します」
「ああ、頼んだ」
「え? どうなってるの?」
「アヴィー、もう上に話をつけてある」
そうだ、昼食後ハルが寝ている間に長老とリヒト、ルシカは現大公に拝謁していた。
そこで、シュシュが長老に持たされた物が役に立つ。ドラゴシオン王国で五大龍王と会談の際に使われた魔道具だ。シュシュが首輪の様に着けていたのはあの映像を送る魔道具だ。
シュシュがその魔道具を使って、長老の持っている魔道具へ映像と音声を送っていた。
その為、前大公がペラペラと話していた企みはすべてリアルタイムで現大公の元へ送られていたという事だ。
そして、アヴィー先生が拘束された時点で長老はハルに念話を送っていた。
「ハル、起きているか? 出番だぞ。アヴィーを助けるんだ」
「じーちゃん、まかしぇりょ! よぉし! いっくじょ!」
ハルが魔法杖を手に掲げる。ヤル気満々だ。
そうして、ハルはコハルやイオス、カエデと一緒に張り切って転移してきたと言う訳だ。
「ハルの転移は長老と違って力業だな」
「え、いおしゅ。変か?」
「変とかじゃなくて、こう……なんて言うか……」
「イオス兄さん分かるわ。長老の転移はフワワァン、て感じや。ハルちゃんの転移はグゥワン! て、感じやった。胃が逆さまになりそうや」
「ありゃりゃ」
ハルちゃん、まだまだらしいぞ。長老やリヒト達でも出来ただろうが、俺も俺もと言っていたハルの気持ちを汲んだということだろう。
「申し訳ありませんが、長老殿とリヒト様は再度城へ来て頂けますか?」
「分かりました」
「アヴィー、お前もだ」
「はい、分かりました」
「ハル、イオスと宿に戻っていなさい」
「ん、じーちゃん分かったじょ」
まだ魔法杖を片手に持ち、得心したハルさん。一番良いところを貰ったからな。
「シュシュも戻りょ」
「ハルちゃん、あたしが転移させるわ」
「え、歩いたりゃいいじゃん」
「え? 超ヤル気だったんだけど」
「しょう?」
「そうよ」
「じゃあ、頼む」
「任せて! みんな、あたしの周りに集まってちょうだい」
シュシュが張り切っている。そして、シュシュの転移で戻ってきた一行。
カエデが膝をついている。イオスまで項垂れている。
「やだ、なあに? どうしたの?」
「うぷッ、シュシュの転移はもういい」
「イオス、失礼ね」
「いおしゅ、かえれ、ろーした?」
「ハルちゃん平気なん?」
「ん、平気ら」
「あかんわ、余裕で胃が2〜3回ひっくり返ったわ」
「ああ、言える」
「まあ、失礼ね」
マジで転移を早く覚えようと思ったのはイオスだけではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます