第8章 おりぇ、ばーちゃんをたしゅけに行っちゃったよ!

第142話 アヴィー先生は怒っている

「ルシカ、俺も食べたい」

「ワシはお茶がほしい」

「はい、お待ちください。カエデ、お茶をお願いします。私はリヒト様の分を焼いてきます」

「はいな、ルシカ兄さん」

「ルシカ、ルシカ。あたし、おかわり」

「はいはい、シュシュ。分かりましたよ」


 ルシカが部屋を出て行った。カエデが長老にお茶を出す。


「カエデ、ありがとう」

「はいな、長老」

「長老、リヒト様、俺思うんですが……」

「イオス、どうした?」

「大森林とドラゴシオン王国に遺跡があって……と、言うか魔石なんスけど。ツヴェルカーン王国にはないんスかね? あの国も魔物は出ますよね?」

「そうなんだが、ツヴェルカーン王国はそもそも遺跡があるのか?」

「リヒト、あるぞ」

「長老、そうなんスか?」

「ああ、イオス。1箇所だけだがあるんだ。だがなぁ……」

「長老?」

「場所が城の真下なんだよ。念の為、ロマーティには知らせてあるんだ」

「そうなんスね」

「場所が場所なんでな、とにかくツヴェルカーン王国側で調査してもらう。もしも浄化が必要だったら連絡をくれる事になっている」

「長老、ある方が自然だよな?」

「ああ、ワシもそう思う」

「調査するって言ってもなぁ、隠されていたら見つけられないよなぁ」

「そうなんだが……隠す必要があるのか? と、ワシは言いたいな」

「確かに」

「それも、もしかしてヒューマン族に関わる事だったりして」

「イオス、それは無いだろう?」


 そうだ、余計なフラグは立てない方が良い。


「じーちゃん、おばばしゃまのとこにはもう行かねーのか?」

「ハル、おばば様に会いたいのか?」

「ん、おばばしゃましゅきら」

「おばば様もハルの事、気に入っておったぞ」

「しょうか?」

「1日おばば様のとこでゆっくりするか?」

「うん! じーちゃん!」


 おや、珍しくハルが食いついた。

 と、言う事でおばば様の家に来ている。


「おばばしゃまー!!」

「ハル! 来たのかい!」

「おばばしゃま! またお泊りしゅるじょー!!」

「アハハハ! 何日でも構わないよ!」


 そして、何故か今回も紅龍王、ホンロンの背中の上だ。


「ホンロン! 早く下りといで!!」


 おばば様、今日はオタマをもっていない。



「そうかい、終わったのかい。じゃあもう帰るのかい?」

「しょの前におばばしゃまのとこへ来たかったんら」

「おやまあ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

「おばばしゃまのとこは精霊が多い」

「ああ、木々や植物が沢山あるからね。それに、あたしも見えるからだろう」

「しょっか……じゃあ大森林にもいっぱいいりゅのか?」

「ああ、いるよ。世界樹の周りにも沢山いるね。世界樹を守っているんだ」

「しょうなのか? 見てみたい」

「もうハルなら見えるさ」

「しょっか?」

「ああ、そうだよ。ハルは精霊に好かれているからね」


 ハルは平和におばば様と精霊談義をしていた。他の皆もルシカの入れたお茶を飲みながら、のんびりとしている。


「ん? アヴィーか?」


 長老の肩にパーピが止まった。


「不味い! リヒト、ハル、アヴィーを迎えに行くぞ!」

「長老!」

「じーちゃん!」

「長老、アヴィーがどうかしたのかい!?」

「前大公が動いた。アヴィーを拘束するつもりだそうだ。アヴィーは逃げずに態と捕まるつもりらしい」

「えぇー! ばーちゃん何やってんら!?」

「証拠を掴むつもりなんだろう」

「じーちゃん、あぶにゃいじょ!」

「ああ。おばば様、悪いが……」

「ああ、早く行っておやり! もう相変わらずあの子は無鉄砲なんだから!」


 『あの子』と言われるアヴィー先生。おばば様にかかれば長老やアヴィー先生も子供同然の扱いだ。


「ハル、またゆっくりおいで。待っているからね」

「おばばしゃま! 絶対にまた来りゅじょ!」

「ああ、いつでもおいで!」


 おばば様の家へ来る前に、一行は青龍王の里にも寄っていた。ドラゴンの幼体達と会う為だ。


「また遊びにくりゅかりゃな」

「キュルル」

「ん、いつれも会えりゅじょ」

「キュルー」

「もちろんら、会いに来りゅじょ。らから、みんな仲良く元気れな」

「キュルルー」


 ハルと仲良くなったから名残惜しいのだろう。ハルも可愛がっている。また、必ず会いに来ると約束して里を後にした。

 そして、一行はバタバタとドラゴシオン王国を後にする事となった。



「ギリギリまで転移するからな。出来るだけコンパクトに纏まってくれ」


 長老の転移で、ヒューマン族と獣人族の国アンスティノス大公国へと向かう。

 国の防御壁ギリギリ手前まで転移するつもりらしい。


「長老、目立たないところに出てくれよ」

「リヒト、分かっとる。皆、いいか?」


 長老が杖を出した。魔法杖で半円を描くと、キラキラと光が現れて皆と馬車や馬を包み込むと光が消える頃にはすべて消えていた。


「ふぅ、じーちゃんの転移はしゅげーな」

「あたしびっくりしちゃった。人の転移なんて初体験よ」

「あかん、自分はまだ慣れへんわ」


 この3人はこんな時でもおとぼけだ。


「とにかくちゃんと入国をして、ここからはなかなか転移できんからな。サッサと進むぞ」

「長老、アヴィー先生の居場所は分かってんのか?」

「ああ、パーピで知らせてくれている。前大公の邸だ」

「あの、クラゲの事を教えたのも前大公の大臣だったよな?」

「ああ、尻尾を出したな。だからといって態と捕まるなんて事せんでいいものを」

「あー、長老。アヴィー先生だから」

「リヒト、やりそうだろう?」

「長老も大変だな」

「リヒト、それを言ってはいかん」


 長老、本当に型破りな奥さんだと大変だな。

 アンスティノス大公国は防御壁で6層に分かれている。前大公邸は公都と呼ばれている1層目から3層目のうち2層目の貴族街にある。1番外側からだと2週間はかかる。

 その距離を途中長老の転移をしながら、たった1日でやってきた一行。

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