第143話 またアンスティノス公国に来た

「もう自分驚けへんと思ってたけど、驚いたわ。長老、ビックリやわ」

「本当よね。こんなのドラゴンより反則じゃない?」

「じーちゃんはしゅげーんら」

「ハルちゃん、それ以上よ。こんなのやろうと思えば城の中にでもこっそり転移出来るんでしょう? それこそ、大公の首を取ることだって出来るじゃない」


 お、シュシュ。なかなか鋭い事を言っている。


「それでも長老がそんな事をしないのはエルフ族だからでしょう? エルフ族って凄いわよ。本当はヒューマン族なんて相手にもなんないんだわ」

「アハハハ! シュシュ、なかなか賢いじゃねーか」

「長老、笑い事じゃないわ。あたし、ホントにエルフ族を敵に回さなくて良かったと思うもの。もしかして、みんな転移出来るの?」

「いや、こんな長距離の転移をポンポン出来るのは長老くらいだ」

「リヒト、て事は短距離なら出来るの?」

「ああ、俺は中距離なら出来るぞ」

「私は短距離ですね」

「俺はまだ瞬間移動だな」

「やだッ! コワイ! ハルちゃんはそんな事出来ないわよね?」

「できねー」

「そう、ちょっと安心しちゃったわ」

「おりぇもまら短距離ら」

「できるんじゃない! 短距離でも出来るんじゃない!」

「私はできないわよ。ハイエルフじゃないから」

「ミーレ、親近感が湧くわぁ!」

「アハハハ! この掛け合いカエデでもやったよな?」

「リヒト様、みんな思う事は一緒やって事や」

「今、迎えに行こうとしているアヴィー先生は長老の奥さんなんだ。そのアヴィー先生は中距離の転移が出来る。だから、ヒューマンがアヴィー先生を拘束するなんて本当は無理なんだよ」

「やだ、リヒト。夫婦で凄いの? なんだか嫌味だわ」


 意味不明。賑やかなネコ科だ。ドラゴシオン王国にいた時はまだ大人しかったのに。

 しかし、実際そうだ。リヒトの言う通りだ。アヴィー先生が逃げようと思ったらサクッと転移すれば良いだけだ。ヒューマン族にアヴィー先生を拘束するなんて事は不可能だ。

 態と前大公に捕まって、そこで何らかの証拠を掴むつもりらしい。

 あの毒クラゲの元凶だろう前大公。アヴィー先生が気にかけていた子供たちも被害を受けていた。スラムの人達もだ。おそらくそれが許せないのだろう。

 忘れてはいけない。エルフ族はちびっ子を超可愛がり大事にする。

 そのエルフ族であるアヴィー先生の逆鱗に触れたのだ。長老がアヴィー先生を助けに向かっているのは、もしかしたら騒ぎを大きくしない為なのかも知れない。

 アヴィー先生、出来るだけ大人しくしてくれている事を願う。


「イオス、宿を取ってくれるか?」

「長老、分かりました」

「長老、アヴィー先生の自宅には行かないのか?」

「リヒト、自宅も安全ではないだろう。ニークが居たな。保護する方が良いかも知れん」

「そうだな」


 イオスが走って行く。イオスはなんでも出来る奴だ。目当ての前大公の邸は2層目貴族街にあるが、そこには宿屋がない。その為、3層目で宿屋探しだ。

 しかし、ヒューマンの街にエルフは目立つ。なんせ、皆揃いもそろって見目麗しい。

 今回は知られたくないので、ハルだけでなく長老やリヒト達もフードを被っている。

 それでも一行は目立っている。何故かと言うと……そう、シュシュだ。大きな白い虎だ。門では従魔と言う事にして入れたが、街で目立つことこの上ない。


「やだ、あたしのせい!? あたしの魅力が隠せていないのね!」

 

 馬鹿な事を言っている。


「シュシュ、お前大きさが変えられるんだろう?」

「ええ、リヒト。自由自在よ。だってあたしは聖獣だからぁ、お……」

「じゃあさ、目立たないように小さくなってくれよ」

「え? このナイスバディじゃ駄目なの?」

「ああ、ナイスバディすぎるんだよ」

「あらぁ、リヒト。分かってるじゃない。そうなのよ。あたしのこの溢れ出る魅力がね、か……」

「だから、シュシュ」

「分かったわよ。あたしがまだ喋っているのに、被せて話さないでよ。傷ついちゃうわ。ちょっと物陰に行くわね。ここで小さくなると余計に目立っちゃうでしょ?」

「お、おお」


 なかなか冷静な事を言う。その割に馬鹿な事も言う。


「リヒト様、私が行きますよ」

「そうか? ミーレ頼む」


 ミーレの腕に抱っこされて物陰から出てきたシュシュ。もう白い子猫だ。


「これなら平気にゃん。可愛いにゃん。仲間にゃん」

「カエデ。小さくなっただけで、あたし虎に変わりはないんだからね」

「ひにゃん!」


 ネコ科の2人は緊張感がない。


「シュシュ、念話はできんのか?」

「リヒト、当たり前じゃない。あたしは聖獣だからぁ、ね……」

「じゃあさ、外で話す時は念話だ」

「えぇー!! 超面倒! って、また被せて喋るのやめて!」

「この国では仕方ないんだよ。コハルも出てきていないだろう?」

「あら、そう言えばそうね」

「用心してんだよ」

「もう、仕方ないわね。分かったわよ」


 最初からそうしておけば目立たないですんだのに。


「宿取れましたよ!」

「イオス、すまんな」

「いえ、あっちです。2層目に1番近い宿にしました。行きましょう」

 

 イオスに先導されて移動する一行。いくらフードを被っていてもエルフの美貌は隠せていない。やはり、そこそこの注目を浴びている。


「俺、馬と馬車を止めてきますよ」

「ああ、頼む」


 こんな時はとても頼りになるイオス。万能だ。さすが、執事見習い。

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