第141話 遺跡調査完了
壁画に描かれていたのは……しっかり設置されたクリスタルの魔石。それを喜びながら見ている原初のエルフとドラゴン。その傍で手伝ったハイヒューマン達も安堵の表情を浮かべて見ている。それを、影から見ている者達がいた。命を懸けて協力していたハイヒューマン達を影から見ているハイヒューマンが。その表情からは嫉妬や妬みの感情が窺える。良い感情が伝わってこないのだ。そして、ハイヒューマン達の分裂。そこまで描かれていた。
「そうなのか……なんともヒューマンは」
「バイロン様?」
「ああ、精霊の声が私にも聞こえた。ハルも聞こえたか?」
「あい」
「バイロン様、説明して頂けませんか?」
「ああ、長老」
白龍王、バイロンの説明によると……
損得を考えず危険を顧みず純粋に自分達も何か役に立てるのならと、原初のエルフやドラゴンに協力したハイヒューマン達。それとは別に、そんなハイヒューマン達を疎ましく思う者達がいた。同じハイヒューマンなのにだ。自分達には出来なかった事をした仲間を誇らしく思うのではなく、疎ましく思う者達がいたんだ。
自分達よりも、明らかに能力や力が上である原初のエルフとドラゴンに媚びを売っていると捉え虐げだした者達だ。
詳しい事は描かれていないが、この出来事がハイヒューマンとヒューマンとに分かれてしまう分岐点になってしまっていた。
「神は妬み嫉み僻みを嫌うなのれす。心持ちが大切なのれす」
「コハル、なるほど」
「リヒト様、言葉がないですね」
「ああ、まったくだ。生きていれば誰でも少し位は持つ事もあるだろう。そこまでじゃなくても羨ましいとかさ」
「リヒト、そう思った気持ちをどうするかだ。それを自分が成長する糧と出来るもの。それに潰されるもの。色々だ。ワシは国の皆にタグを渡す際にその事を話す様にしておる」
「じーちゃん、しょうなのか?」
「ああ、嫉妬等してはいかんとな。ハルにも、自分が知っている嫌な両親だけではないという様な話をしたな」
「ん……覚えていりゅ」
「偉いぞ。エルフは昔からそうなんだ。心を大事にする。目には見えないが精霊も大事にする。もちろん、世界樹や大森林もだ」
「それが大切なのれす」
「コハル、そうか」
道徳の時間の様になってしまっているな。
「もしかしたら、約2000年前に起きたヒューマン族によるハイヒューマンの殲滅。あの頃にはまだ能力の使えるヒューマン族が残っていたのかも知れないな」
「バイロン様、そうですね。そう仮定すれば納得できますな」
「長老、そう思うか?」
「はい。いくら数が違ったとは言え、あのハイヒューマンがそう易々とヒューマン族にやられるとは信じ難かったのです。逃げ切る事位はできただろうと」
「確かにな」
「バイロン様、皆さま、とにかく出ましょう。身体が冷えてしまいます。昼食をご用意しておりますので」
「お、飯ら」
「ハルちゃん、もう腹減り仮面なんか?」
「なんか、いつも御呼ばれしちゃって悪いわね」
ネコ科の2人がやっと発言した。賑やかし担当の2人だ。
「んまい!」
「ハルちゃん、良かったなぁー」
「ハルちゃんは本当に美味しそうに食べるわね」
「しゅしゅ、本当に美味いんら」
「そう、沢山食べて大きくならなきゃね」
まるで、オカン2号。1号はもちろんルシカだ。今も、食べる事に夢中なハルのほっぺを拭いている。
「長老、ありがとう。あの壁画には胸が熱くなった」
「アハハハ。バイロン様、そんなにですか?」
「ああ、我らの先祖の話だからな」
「そうですな、我々の先祖達はとんでもない苦難に立ち向かったのですな」
「ああ、誇らしいことだ。原初のエルフとは素晴らしい者達だったのだな」
「ワシ達も誇らしい事です」
和やかに食事は進み、ハルがおネムになったところでお開きだ。
「今日は五大龍王が皆城に集まっている。長老、リヒト、調査報告を頼めるか?」
「もちろんです」
「はい、バイロン様」
今回、白龍王の里の遺跡では新しい発見があった。
精霊も浄化に関わっていた事、ハイヒューマンの事。
何故、ドラゴシオン王国の遺跡に描かれていたのかは不明だが、もしかしたら見逃しているだけで大森林にあるエルフの遺跡にもあるのかも知れない。
そこで、再度大森林の遺跡も調査する事になった。しかし、同じ様な仕掛けがしてあると仮定すると、ハルも立ち会う事が必須となる。
何れにしろ、エルフ族が精霊とコンタクトを取れなくなった原因は明確になった。
おばば様に教わり、ハルが精霊と意思疎通を取れる様になった事も収穫だ。
「しかし、ハルはまだ幼い。あまりハル頼みにはしたくないのだ」
「長老、それは俺たちだって同じ気持ちです。ハルの選択に任せないか?」
「リヒト、ハルに話せばやると言うだろう?」
「そうかも知れませんが、何も言わないというのは……」
「ああ、皇帝とも話をしなければ」
「はい」
色々考えるのは大人の役目だ。当のハルはお昼寝中だ。
「長老、帰りにアヴィー先生を迎えに寄るだろう?」
「リヒト、まだパーピの返事がないんだ」
「パーピを飛ばせない状態にいるという事はないよな?」
「……」
「長老。どうせ、帰り道だ。寄りましょう。心配だ」
「ああ、リヒト」
長老とリヒトが報告会を終え戻ってきた時には、ハルがおやつを食べていた。
「お、パンケーキか?」
「ん、りゅしかのパンケーキら」
ほっぺに生クリームをつけたハルが答える。
「ハル、ほらほっぺについてますよ」
やはり、ルシカが世話をやいている。
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