第138話 青龍王の里の遺跡

「んまいッ!! りゅしか、こりぇこの肉!」

「ええ、ヒュージラビットみたいですね」

「ん、シチューにしても美味いんら!」


 ハルさん、えらくヒュージラビットの肉がお気に入りらしい。


「脂もありゅのにあっさりしていてやわりゃかい」


 だ、そうですよ。ヒュージラビットのお肉。食レポありがとう。


「アハハハ! ヒュージラビットはいくらでも出てくるんだ。倒しても倒してもどこからか出てくる。冬の良いたんぱく源なんだ。ヒュージラビットの子供の肉はもっと美味いぞ」

「おぉー!!」

「春過ぎにまた来るといい。用意しておいてあげよう」

「ほんちょか!? うりぇしいじょ! ありがちょ!」

「ああ、沢山たべなさい」

「あい!」


 ほっぺを膨らませてお口いっぱいにして食べている。コハルやシュシュもだ。


「長老、可愛いな。本当に可愛い」

「そうでしょう、そうでしょう。ワシの曽孫ですからな!」

「ああ。おばば様も気に入っていた。時々顔を見せに来るといい」

「ヘイロン様、有難うございます」


 食べたらお眠になるのがハルだ。


「ハル、いらっしゃい」

「ん、みーりぇ」


 トコトコとミーレまで歩いて行き抱っこされてスヤスヤと眠る。


「あんなに攻撃していたのに、こうしていると可愛いちびっ子だな」

「まだ3歳ですからな」

「昨日のおばば様の話は、突拍子がなさすぎてとても俄かには信じがたいが」

「そうですな」

「だが、精霊に好かれているのは見ていると分かる」

「そうですか。ワシは精霊の声も聞こえんので」

「ハルの周りには沢山の精霊がいつも嬉しそうに集っている」

「おばば様がそう言ってました」

「それは凄い事なのだ。それを見ているだけでも、ハルは愛されている子なんだと分かる」

「なるほど」

「長老、良い子が帰って来たな。本当に良かった」

「はい、有難うございます」


 うん、先の2人の龍王とは違ってはやり落ち着いている。



 翌日は、東を守護する青龍王の里の遺跡だ。


「世話をかける。宜しく頼む」

 

 またまた、青龍王ご本人の登場だ。やはり、青龍王本人が立ち会うらしい。


「私の従者だ」

「アテンと申します。宜しくお願い致します。君がハルくんですか?」

「あい、はりゅりぇしゅ」

「赤子を保護してくれてありがとう」

「エヘヘ、気にしゅんな」


 相変わらず一丁前な言い方だ。


「それに、城で皆とよく遊んで頂いて皆ハルくんの事が大好きみたいですよ」

「みんな可愛いんら」

「はい、赤子は可愛いですね」

「ん」

「今日もハルくんと会えると楽しみにしていましたよ」

「こっちに帰ってきてんのか?」

「はい、ランロン様と一緒に昨日」

「しょっか。昨日は遊べなかったかりゃな」

「はい。調査の後、また遊んでやってください」

「ん」


 ハルちゃん、本格的に保育園の先生だね。

 さあ、4箇所目の遺跡の調査開始だ。一行はもう慣れたもんだ。


「行くぞー」


 相変わらずリヒトが引率の先生になっている。ハルは今のところ、長老に抱っこされている。

 遺跡に入って通路を進むと、他の遺跡と同じ様に途中で二股に分かれている。


「じーちゃん……」

「ああ、ハル。残念だったな。アハハハ」

「先に片付けるぞー」

「ん」

「はい、リヒト様」

「こはりゅ」

「はいなのれす」

「ハル、まだだぞ」

「え、じーちゃん。まら?」

「ああ、まだだ。今回は超大型だからな、リヒトが行ってからだ」

「しょっか」


 リヒトとルシカが先頭で片方の通路に入って行く。今日はルシカが弓を持っている。剣は腰に差したままだ。


「ルシカ、行くぞ」

「はい、リヒトさま」


 ルシカが弓を構えた。グリーン色に光る魔法の矢が現れる。1度に3本の矢が現れた。弓をいっぱいにキリキリと引き絞り、ヒュンと放つ。


 ――グオォォォー!!


 通路の奥から叫び声が聞こえた。同時にリヒトが切り込んで行く。


「よし! カエデ、行くぞ!」

「はいな! イオス兄さん!」

 

 カエデの剣も、薄っすらとグリーン色に光っている。しかし、イオスが風魔法を付与している剣と見比べるとまだまだだ。

 通路の奥目掛けて、ミーレがグリーン色に光る魔法の鞭を打つ。


 ――グギャー!!


 また叫び声がした。


「ミーレ、やるじゃない」

「シュシュ、行くわよ!」

「おー、じーちゃんおりぇもいいか?」

「ハル、剣を使ってみるんだ」

「ん、わかっちゃ」


 今日は忘れず腰に差していた、小さなハル専用の双剣を手に取り、魔力を流すと剣身がグリーン色に光り出した。


「こはりゅ、いくじょ!」

「はいなのれす!」

「とぉッ!」

「行ってこい!」


 今回は長老も分かっていたらしい。ハルが腕から飛び出しても平然としている。


「長老、ヒュージベアか?」

「そうです」

「ここは国の端で山側だからだろうな。ベア種が多いんだ」

「なるほど、討伐したら向こう側から入れないように結界を張っておきますよ」

「それは助かる」


 ヒュージベア、ハルがこの世界へ落とされた時にコハルと倒した魔物だ。ベア種の中では最大の大きさがある。

 冬前のヒュージベアは気が立っている。冬になると食料が乏しくなる。その為に食料を探しているんだ。だが今の時期は冬の寒さに耐える為、ヒュージベアの肉は脂がのっていて美味いらしい。

 ルシカが先行して矢を放ち、ヒュージベアの動きを止めた。そして、リヒトが入り込み風を纏わせた剣を横一線に振るうと目の前のヒュージベアが断末魔の叫びをあげながら倒れた。

 ミーレの振った鞭が先に出ようとしていたヒュージベアの足元を叩く。そこにシュシュがヒュージベアの首元を狙って風の刃を飛ばす。

 イオスが突っ込んで行きヒュージベアの足を斬りつける。同時にカエデが入り込み腹に斬りつける。ヒュージベアが前かがみになったところをイオスが首を狙って斬りつける。

 コハルが高くジャンプし頭に思い切り回し蹴りを決めると、ハルがジャンプしながら双剣で首を狙う。皆、良いコンビネーションが取れている。

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