第130話 壁画のハイヒューマン

 扉の中は、ドラゴンが1頭そのまま余裕で入れる位の広さがあった。その部屋の壁一部分に壁画が描かれていた。まだ、この世界ができて間もない頃の事だろう。

 エルフの遺跡にあったのと同じように、瘴気の靄を浄化しようとしている原初のエルフの様子が描かれている。原初のエルフにドラゴンが協力している場面だ。そして、この遺跡の計画を立てている原初のエルフと竜族。

 原初の頃からエルフとドラゴンは交流をしていた事が分かる。


 その部屋の1番奥には……

 部屋の一番奥には祭壇の様な場所があり、そこに巨大な魔石が設置されていた。

 大森林にあるエルフ族の遺跡にあったのと同じように、古代の魔法言語で書かれた術式がリボンの様に何重にも絡みつき、上下の大きな魔法陣で固定されている。

 ただし、魔石の大きさが比べ物にならない位大きい。エルフ族の遺跡にあった1m程の魔石でも、長老でさえ見たことのないほどの大きさだった。だが、それ以上だ。

 直径3~4mはあるだろうか。それだけ大きな魔石が必要だったのだろう。その為、魔石に巻き付いている術式も、上下の魔法陣も初めて見る大きさだ。


「長老」

「ああ、やはりあったか」

「じーちゃん、もうだいぶ黒いじょ」

「ふむ。しかしデカイな」

「長老、エルフの遺跡の何倍だろうな」

「ハルちゃん、大森林の遺跡もこんなんやったん?」

「かえれ、もっとちっちゃかった。れも1mはあったかな。もっと真っ黒黒になってた」

「なぁに? ヘーネの大森林にも遺跡があるの?」


 お喋り好きのネコ科2頭。いつの間にかカエデも平気でシュシュと話している。


「シュシュ、大森林には全部で6カ所遺跡がある。そこにも同じ様な魔石があったんだ」

「リヒト、すごいじゃない! 見てみたかったわ~」

「で、長老。この魔石をどうすんだ?」

「グウロン様、もちろん浄化するのです」

「おう! そうか!」

「良かったですね、グウロン様」

「ジアン、何がだ?」

「浄化するところを見たかったのでしょう?」

「え……」

「バレてましたよ」

「マジかよ。でも見てみたいじゃないか! 俺たちにはできねーもんよ!」


 賑やかな龍王と従者だ。竜族は全体的に魔力量が多い。だが、精密な魔力操作が苦手だ。だから、その精密な魔力操作を必要とする浄化や解呪はできないのだ。


「ハル、コハル、リヒトも手伝え。なんせ、巨大だからな」

「長老、了解」

「ん」

「やるなのれす!」

「ぴゅりふぃけーしょん」

「ピュリフィケーション」


 長老に、ハル、リヒト、コハルが手を翳し浄化する。すると、目も眩む様な白い光が漆黒の魔石を包み込み消えていった。

 光が消えたそこには……漆黒だった巨大な魔石が浄化され、透明に輝く美しいクリスタルが現れた。


「みっちょんこんぴゅりーちょ」


 やはり、ちゃんと言えてない。

 まずは1個目だ。ここにあったと言う事は、他の里の遺跡にもあるのだろう。


「長老、他も早めに見ておく方が良いな」

「リヒト、そうだな。かなり黒くなっていたからな」

「じーちゃん」


 キョロキョロしていたハルが、長老の服の裾をツンツンと引っ張る。


「ん? ハル、どうした?」

「聞こえねーか?」

「ハル、何がだ?」

「ん……こっちか? 行くかりゃ待って」


 ハルには何か聞こえている様だ。トコトコと壁画のある壁の反対側へ歩いて行く。


「ハル、そこなのれす」

「ん、こはりゅ」


 ハルが徐に壁の一部へ手を添えた。そう、ただそっと壁に手を置いただけだ。

 ハルが手を置いた壁に壁画が現れた。まるで蜃気楼の様に……ゆらゆらと、だが確実に壁一面へと広がって行く。


「これは……」

「じーちゃん、こりぇ! おりぇのじーちゃん、伊織じーちゃん達の先祖の記録ら!」

「ハル、分かるのか?」

「声がそういってりゅ」

「声が?」

「ハルにしか聞こえないなのれす」

「コハル、悪いものじゃないんだな」

「違うなのれす。ここを守っている精霊の声なのれす」

「待てよ、精霊の声なら俺たちも聞こえるはずだ。だが、何も聞こえねーぞ?」

「今はハルだけなのれす」



 なにがどうなっているのか分からない。だが、ハルの言う事が確かなら今はもう絶滅したハイヒューマンの事が描かれている壁画らしい。


「これは……ハイヒューマンの中にも一緒に瘴気をなんとかしようとしたものがいるのか?」

「じーちゃん、しょうみたいら。原初のエルフとドラゴン、しょりぇかりゃ生まれたてのハイヒューマン。れも、ハイヒューマンはまら全然小っさくて力がなくて沢山のハイヒューマンが瘴気の犠牲になったんら。しゅげーじょ」

「ああ、それでも手伝っていたのか。何ということだ。今のヒューマンの先祖か」

「長老、ヒューマン族とハイヒューマン族は、最初は皆同じハイヒューマンだったという事だよな?」

「リヒト、そうだ。ハイヒューマンは原初と言うところか」

「長老、そりゃそうか。同じヒューマン族なんだから。だが、何がヒューマンとハイヒューマンに分かれる原因だったんだ?」

「しょこまれは描いてねー」


 ハルの祖父であるハイヒューマンの血が精霊を呼んだのか? ここを守っている精霊だとコハルは言った。だが……


「コハル、精霊や妖精は気まぐれな奴等だろう? なのに何万年もこの遺跡を守っていたのか?」

「リヒト、そうなのれす。エルフの遺跡もなのれす。精霊が守っているなのれす。でないと何万年もの長い間残らないなのれす」

「コハル、そうなのか?」

「いや、ちょっと待ってくれ。ハルの爺さんがどうだって? 俺には全然意味が分からねーぞ」


 黄龍王だ。そうだ、ハルがハイヒューマンとハイエルフのクオーターだとは知らない。


「それは……だな。ハル、どうするよ?」

「じーちゃん、おりぇはじーちゃんがいいなりゃ構わねー」


 長老に判断を任せるという事だ。


「グウロン様、少し時間を頂けませんか? 今ここでお話することは躊躇われます」

「そうか。そうだな。ま、仕方ない。都合ってもんがあるだろうしな。だが、あれだ。おばば様には会う方が良いな」

「はい、それはもう」


 精霊の声が聞こえたとなっては、早急にそのおばば様に会う方が良いのだろう。龍王が声を揃えてそう言うのだ。会わない選択肢は無い。


 新しい発見があった。ドラゴンの遺跡に描かれている壁画にはハイヒューマンの事も描かれていた。それも原初と言えるだろうハイヒューマンの事をだ。

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