第129話 遺跡とうさぎ

「いくじょー! ちゅどーん!!」

「やるなのれす!」


 ハルとコハルが先陣を切って突っ込んだ。

 そこには、真っ白でフワフワとしたぬいぐるみの様な可愛らしさとは裏腹に、足癖が超悪いと評判でこの地域にだけ生息するヒュージラビットの群れがいた。そこへハルとコハルは突っ込んで行ったんだ。

 ハルの最初のドロップキックで先ず一頭、コハルの回し蹴りで一頭を倒している。暫く魔法を使う事が多かったので忘れていたが、ハルとコハルは鬼強い。


「ハル! コハル! 気をつけろよ! こいつら足癖がわりーぞ!!」

「りひと、わかっちゃ! どっしぇーい!!」


 返事をしながらガンガン突っ込んで行くハル。分かっているのか? 超足癖が悪い魔物なんだぞ。


「蹴られる前に倒したら一緒や! 怖い事あれへんで!」

「カエデ! 下から狙え!」

「イオス兄さん! 分かってるって!」

「おうおう、みんな張り切ってんなぁ」

「リヒト様! そっち一匹行きましたよ!」

「おう! ルシカ! 任せろ!」


 そう言いながらリヒトが剣を一振りする。今日はルシカも剣だ。ドワーフの親方にメンテナンスをしてもらったので、使いやすくなって切れ味も倍増しているらしい。2人共、グリーンに輝く剣だ。ハルさんも剣を作って貰った筈だが?


「ハル! 剣を忘れてるぞ!」

「じーちゃん! わしゅりぇてた!」

「アハハハ! ハルちゃんめっちゃ使いやすいで!」

「ミーレ、あんた鞭なの!? 超カッコいいじゃない!」

「シュシュ、そっち抜けたわよ! 何やってんの!?」

「うるさいわね! 細かい事を気にしているとモテないわよ!」


 緊張感は全くないが……

 数十頭ものヒュージラビットをリヒト達数人で、瞬く間にどんどん数を減らしていく。ヒュージラビットも反撃はしている。蹴り上げようとしたり、回し蹴りをきめようとするが、それよりもリヒト達の動きが早くて空回りをしている。


「おいおい、なんだよ。俺の出番がないじゃねーか!」

「グウロン様! 手を動かして下さい!」

「分かってるっつーの!」


 一番最後に参戦した、黄龍王グウロンと従者のジアン。さすが、ドラゴンだ。ヒューマンなんて『パーン』としたら『ポポーン』だと言っていただけの事はある。

 ヒュージラビットを片手一振りで吹き飛ばしている。因みに長老は1人高みの見物だ。


「ふゅぅ、おっけーぐりゅぐりゅ」

「片付いたなのれす!」

「アハハハ! ハル、意味分かんねーぞ!」


 アッという間にヒュージラビットの群れを掃討してしまった一行。ヒュージラビットが気の毒に思えてしまう程だ。


「驚いた。超つえーな!」

「グウロン様、それよりもどうしてヒュージラビットがこんなに群れで遺跡に入って来るのかが問題だ」

「長老、仕方ないんだ。この通路を抜けたところにヒュージラビットの巣があるんだよ。遺跡の周りに建物がないだろう。風避けに丁度いいらしい」

「このままにしておくと、遺跡が壊されたりしませんか?」

「ルシカ、そうだよな」

「こっちらけ結界張っちょく?」

「ハル、そうだな」

「そうしてもらえたら助かるわ。定期的に間引くの面倒だったんだ」


 ここで長老の出番だ。長老が出口に向かって手を翳すと目には見えない透明な結界が張られた。


「何度見ても長老の魔法はスゲーな」

「見事です」

「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました?」

「このうしゃぎは美味いのか?」

「ええ、美味しいですよ」

「しょっか!」

「アハハハ! 丸焼きにしたら美味いぞ」

「おー! まりゅやき! いや、やっぱりゅしかが作ったのがいい」

「はいはい。少し持って帰りましょうか? 大森林にはヒュージラビットはいませんからね」

「ん、楽しみら」


 そう言えば……ハルさん、初めてリヒトと会った時も魔物が食べられるか聞いていたな。


「食い物は大事」


 なるほど……


「長老、もう戻ってもいいッスか?」

「ああ、リヒト。もう1つの通路へ戻ろう」


 そして、もう一方の通路を進んでいた一行。


「もうそこで行き止まりだ」


 黄龍王が説明してくれる。だが、その手前の壁がハル達は気になる様だ。


「じーちゃん……」

「ん、そこか?」

「ん、みたいら。れも扉がねーな」


 ハルの小さい手で、壁をペチペチと触っている。


「ああ……ふむ。ハル、分かったぞ。その下だ。リヒト、そこの飾りのあるプレートに乗るんだ。ワシと同時にだぞ」

「長老、分かった。せーの……」


 長老とリヒトがタイミングを合わせて、そこだけ飾りが付いているプレートに乗る。と、何もない筈の壁がゴゴゴゴと大きな音をたてて両側に分かれて開いた。


「なんだこれは!? こんなの知らねーぞ!」

「グウロン様、エルフの眼だと思いますよ。長老が特別なスキルをお持ちでしたでしょう?」

「ジアン、よく覚えていたな。その通りだ。ワシが神眼を持っている。ハルは精霊眼、リヒトは鑑定眼だ。この系統のスキルがないと分からないだろう」

「なんだと!? 3人もか!? だが、竜族に分からないなら意味がないだろう!?」

「グウロン様、うるさいですよ。とにかく進みましょう」

「お、おお。すまん」


 従者にも素直に謝っている。腰の低い黄龍王だ。一行は中へと入って行く。


「じーちゃん、また壁画ら」

「ああ。同じだな……と、この遺跡を作る時にも原初のエルフが関わっているのか」

「みたいらな……しゅげー」

「長老、何だ? 教えてくれ」

「グウロン様、この遺跡を作る際に原初のエルフも関わっているらしいですな。この大きな遺跡を作る計画をたてている。そんな事が壁画に描かれている」

「原初のエルフがか!? 凄い発見じゃねーか!?」

「だからグウロン様、いちいちうるさいですよ」

「馬鹿か、ジアン! エルフとドラゴンとの関係が原初からだと証明されたんだぞ! 凄い事だ!」

「グウロン様、とにかく落ち着きましょう」

「お、おお」


 賑やかな黄龍王だ。

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