第126話 2国間協定

「りゅしか! 昼飯!?」


 ほら、ハルがもう釣れた。ルシカ達の方へトコトコと走って来る。


「もうすぐだと思いますよ」

「れも、じーちゃんもりひともまららじょ」

「会談はキリの良いところまでするでしょう。先に頂きましょう」

「しょっか。こはりゅ、しゅしゅ、みんなもおいれー!」

「はいなのれす!」

「ハルちゃん待って!」

「キュルル!」


 まるでハルが引率の先生の様だ。ドラゴンの幼体達が身体をプルプルさせて水を飛ばしている。


「こはりゅ、シュシュ、どりゃい」


 皆濡れていたのが綺麗に乾く。シュシュの毛並みがフワフワになった。


「ハルちゃん、ありがと」

「ん。りゅしか、一緒に飯か?」

「長老とリヒト様がまだですからね。私達と一緒に食べましょう」

「ん」

「キュルルー」

「一緒にか?」

「キュル」

「しょっか。かーしゃまがいりゅんら」

「ハル、何て言ってるの?」

「みーりぇ、この子達も一緒に食べりゅって言ってりゅ。かーしゃまに言うって」

「そう。もうみんなハルに懐いちゃったわね」

「みーりぇ、可愛いんらじょ」

「アハハハ、ハルも可愛いぞ」

「いおしゅ、まじらじょ。超可愛い」

「そうかよ、マジかよ」


 ハルさん、意外と面倒見が良い。コハルとカエデにシュシュ。そしてドラゴンの幼体達。ハルの周りは賑やかだ。


 その頃長老とリヒト、そして竜王達五大龍王との会談では最後の詰めに入っていた。

 会談の場には、エルヒューレ皇国にいる筈の皇帝の姿が長老の魔道具によって映し出されていた。まるで、リモートで会議をしているかの様だ。


「皇帝、では以上の内容で相互協力及び安全保障協定と言う事で」

「ああ、異存はない」

「我が国の遺跡の調査と管理を任せられるのなら、有事の際我々はエルヒューレ皇国を共に守ると約束しよう」

「我々も協力を惜しまない事を約束する。早速だが長老、急を要するかも知れん。そちらに滞在して遺跡の調査を初めてくれ」

「皇帝陛下、畏まりました」

「長老、幸いリヒトやハルもいる。直ぐに済むであろう」

「それは見てみないとなんとも言えませんな」

「待て、ハルもか?」

「竜王、ああ見えてハルは優秀なのですよ」

「皇帝、いくら優秀でもハルはまだ3歳だぞ?」

「アハハハ、ワシの曽孫は普通の3歳児ではないのですよ」

「長老まで……よく分からんが、危険のないように頼む。こちらからも担当者を付ける。よいか?」

「もちろんです」

「では、書類の作成に入ろう」


 と、いう事でエルヒューレ皇国とドラゴシオン王国との間に相互協力及び安全保障協定が締結される運びとなった。

 2国間は対等であり、平時は過度な介入をお互いにしない。

 どちらかの国が有事の際はお互いに協力を惜しまないというものだ。

 それと、これはあまり知られてはいないが竜族のなかでもドラゴン種は精霊との親和性が高い。エルフ族は精霊の力を借り精霊魔法を駆使するが精霊を見えているものはいない。存在を感じられる程度だ。

 だが、ドラゴン種は違うのだ。声が聞こえるだけでなく、見える者も多い。その分野の協力体制も確立できた。それはエルフ族にとっては大変有益なものだ。

 精霊魔法を使用する際に精霊との意思疎通を図ることができれば、魔法の発動の仕方や威力も違ってくる。

 その代わりにエルヒューレ側はドラゴシオンにある遺跡の調査を行う。もしも、例の黒い魔石が発見されたらその管理もだ。それは、竜族よりもエルフ族の方が長けている。

 お互いに、有益な内容となった。そして、協定が締結された事もあり、いつでも両国間で連絡がとれる様に長老が魔道具を提供する事となった。エルヒューレ皇国の皇帝が協議に参加する為に使ったあの魔道具だ。リアルタイムで話ができ姿も映し出せる。

 この2国間の協定。これは、大陸にある国にとっては大きな出来事となる。ある意味、抑止力にもなる事だろう。

 圧倒的な力を持つドラゴンを含む竜族と、大陸の中央ヘーネの大森林の守護者でありヒューマン族や獣人族では太刀打ちできない能力を持つエルフ族が手を組んだのだ。

 その上、エルヒューレ皇国は先の遺跡から漏れ出した瘴気の靄の一件で、ドワーフ族の国ツヴェルカーン王国とも一部だが技術提供協定を確立している。これらの協定はヒューマン族と獣人族の国アンスティノス公国にとっては脅威となるだろう。


 長老はアヴィー先生にパーピを飛ばす。万が一の事を考えてだ。もしもだ。最悪、アヴィー先生を人質に取ろうなどとしないかと考慮しての事だ。


「リヒト、帰りにアヴィーを迎えに寄りたい」

「長老、そうですね。このままでは危険だ」

「同じ大陸に住んでいるのだ。敵対するのではなく、協力して平和に過ごせるようにするのが一番なのだ。だが、ヒューマン族の中には傲慢で欲深い者がいる。そこが懸念される」

「皇帝、2000年前のハイヒューマンの殲滅が良い例だ。同じヒューマン同士でも奴等は絶滅に追いやった。信用できん。今の大公は獣人族だったか。その間は大丈夫であろうと思いたいがな」

 

 やはり、ヒューマン族の印象は悪い。ハルはそのヒューマン族に絶滅まで追いやられたハイヒューマンと、長老の娘ハイエルフとのクオーターだ。

 それがどう影響するのか……まだ何も分からない。



「やっと終わったー!」


 長老とリヒトがハル達のいる部屋に戻ってきた。ハルはふかふかのベッドの中でスヤスヤとお昼寝中だった。


「なんだ? えらく仲良くなったんだな」


 リヒトが言うのも無理はない。スヤスヤとベッドで寝ているのはハルだけでなく、コハルとシュシュ。それに、ドラゴンの幼体達も一緒だった。もっとも、シュシュがベッドの大半を占めている。シュシュに皆がくっついて寝ていると言っても過言ではない。シュシュ、お母さんみたいだぞ。雄だが。

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