第125話 仲良くなった

「キュルル」

「ん? お前の母や兄弟も来ている。会いに行こう」

「キュルー」

「仔細は明日でも良いだろう? 早く会わせてやりたい」

「そうだな。長老達も長旅で疲れただろう。夕食までゆっくりするといい。仔細はまた明日だ。決めてしまいたい事もあるしな」


 ドラゴンの幼体がハルを見る。


「キュル」

「とーしゃまと行きな。かーしゃまと兄弟に会えりゅんら。良かったな」

「キュ……」

「おりぇは行かないけろ、城にいりゅじょ。行ってきな」

「キュルル」


 ドラゴンの幼体が片手をあげた。ハルはバイバイと手を振る。父龍に抱かれて部屋を出て行った。


「ちょっと寂しいわね」

「シュシュ」

「だってリヒト」


 少しの間でも、皆が気にかけていたドラゴンの幼体だ。ハルとミーレは特に関わっていた。シュシュ以上に寂しい気持ちはあるだろう。


「れも、家族と一緒がいい」

「ハル、そうだな」

「ん、リヒト。おりぇもじーちゃんやみんなと一緒がいいのと同じら」


 リヒト達が一瞬目を見張った。直ぐに冷静なフリをしていたが。

 ハルが、言った。長老は曽祖父だからそうだろう。でも、みんなと一緒がいいと言った。それは、ハルの中で家族と同じと思っているという事だ。

 あの警戒心の塊だったハルがだ。最初の頃のハルを知っているリヒト、ルシカ、ミーレにとっては感慨深いものがあるのかも知れない。


 夕食は城の豪華な部屋に、豪華な食事が並んでいた。


「しゅげー……」

「ハル用のカトラリーを持ってくれば良かったな」

「りひと、らいじょぶら。頑張りゅじょ」

「頑張るのかよ」

「りゅしか達はべちゅか?」

「ああ。従者達だからな」

「しょっか……」

「どうした?」

「ん、べちゅべちゅはちょっと寂しいな」

「ハル、気にしなくていい。ルシカ達も自分達だけの方が気楽で良いだろうよ」

「しょっか、しょーゆーもんか?」

「ああ、そういうもんだ」


 竜王と竜王妃、青龍王と青龍王妃が入ってきた。


「大した事はできないが、沢山食べてくれ。野営だとちゃんとした物は食べられなかっただろう?」


 確かにコース料理の様にはいかないが、少なくともハルはルシカの料理に大満足だったぞ。


「ありがとうございます。リヒト、ハル、頂こう」

「あい」

「頂きます」


 ハルは自分の手には大きすぎるナイフとフォークを持つ……と。


「失礼致します。こちらを従者の方からお預かりして参りました」


 給仕をしていた男性が、ハル専用のカトラリーを並べてくれた。

 ルシカ、ナイスアシストだ。これで少しは安心だ。ほっぺにつく確率が少し低くなる。


「ルシカだな」

「あ、ありがちょごじゃましゅ」

「アハハハ、言えてねー」


 リヒトが食べながら、いつもより小さな声で突っ込む。


「なるほど、子供用か。手が小さいのだな。ハルは何歳だ?」

「3しゃいれしゅ」

「まだ赤子と同じでないか。しっかりしているなぁ」

「竜王様、紹介して下さいな」


 竜王妃が言った。竜王妃も腰まである見事な絹糸の様な白髪にシルバーグレーの瞳だ。見た目もリヒトと変わらない様に見えるが、やはり1000歳を超えているのだろうか?


「そうだったな。エルヒューレの長老は皆知っているな。皇族でベースの管理者であるリヒトと、長老の曽孫でハルだ」

「私達の赤子を保護して頂いてありがとう。本当に何てお礼を言えば良いか」


 青龍王妃だ。フンワリとした長いグリーンシルバーの長い髪にブルーグリーンの瞳だ。


「産まれた卵がすべて孵るとは言えないのですよ。どうしても一つや二つは孵らず駄目になるの。だから今回もそうだと思って諦めていたのよ。なのに、元気に戻ってきてくれて……感謝致しますわ」

「今は他の兄弟と一緒に夕飯を食べている。呪詛を受けていたとは思えない位元気だ」

「あい」

「なんて、可愛い。長老、こんなに可愛い曽孫を隠していたのね」

「アハハハ、可愛いでしょう。可愛いワシの曽孫です」

「おー、長老が曽孫自慢か」

「竜王様、本当に可愛いから仕方ないですな。アハハハ」

「じーちゃん、やめて。はじゅかしい」

「なんだ、ハル。本当だろう?」

「クククク」


 リヒトが笑いを堪えている。

 無事にドラゴンの幼体を帰す事ができた。取り敢えずは一安心だ。和やかな食事の場だった。



 翌日、長老とリヒトは竜王達五大龍王と会談だ。

 ハル達はといえば……


「アハハハ! 早いなー! しょりぇ!」

「キュルル!」

「やだ、ハルちゃん。あたし濡れちゃうじゃない!」

「シュシュは遅いなのれす!」

「キュルルー!」


 城の中庭にある池で、ドラゴンの幼体達と一緒に遊んでいました。

 ハルもこの世界では幼児だし、コハルもまだ子供だし、シュシュ以外は皆幼児、て事で。単純に水をかけあって盛り上がってる様だ。もう、赤ちゃん龍は他の兄弟とも馴染んでいる。ハルやコハルにシュシュも、仲良くなっているらしい。


「ねえ、ルシカ。あれ絶対に濡れているわよね。寒くないのかしら?」

「ですね」

「まあ、いいじゃん」

「イオスは適当よね」

「え、いいじゃん。仲良く遊んでてさぁ」

「まあね、でも風邪ひいちゃうわよ」

「そうですね」

「あかん、自分まだちょっと怖いわ」

「カエデ、シュシュか?」

「うん、イオス兄さん。だって虎やで。そんなん怖いに決まってるやん」

「大丈夫だよ。聖獣だぞ」

「そうやけどさぁ。本能が逃げろって言うねん」

「アハハハ! 本能かよ!」

「笑い事ちゃうし。ホンマ、イオス兄さんは適当やなぁ」

「アハハハ! ルシカ、そろそろ止めなくていいのか? もう昼だぜ?」

「そうですね、そろそろですね。ハル! もうすぐお昼ですよ!」


『もうすぐお昼』ルシカのこの一言は大きい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る