第124話 家族と一緒がいい

「これはまた……聖獣と一緒に出てくるとは。アハハハ」


 竜族の王と聞くと、怖そうな感じだが意外にもフランクな王だ。それに、思っていたよりも若い。見た目だけで言うと、リヒト達と変わらない。だが、実年齢はどうだろう?


「これでも1000歳は超えておられるんだ」

「長老、歳の事はいい。ハル、それは聖獣か? そこの白い虎もか?」

「あい。こはりゅと、しゅしゅれしゅ」

「名付けもしたのか!?」

「アハハハ! 竜王、ハルはどうも好かれるらしいのです」

「長老、好かれる等と言うレベルではないぞ? 聖獣など姿が見られるだけでも珍しいと言うのに。好かれるのは聖獣だけではない様だが……いや、それよりも赤子が元気で良かった。呪詛を受けていたと聞いたから心配していたんだ」

「ハルが解呪をして、毎日根気よくヒールをし続けました。こちらへ着く数日前にやっと目を覚ましたのですが、それからは元気に飛び回っていますよ。よく食べてよく遊んでよく寝て。良い子です」

「長老、そうか。ハル、ありがとう」

「あい。よかったれしゅ」

「キュルル」

「ん、家族に会えりゅじょ。心配してくりぇてりゅんだ。よかったな」

「キュルー」


 ハルに擦り寄るドラゴンの幼体。嬉しそうだ。


「ヨシヨシ、よかったな」

「キュルル」

「ん、こりぇかりゃは家族と一緒ら」

「キュルル?」

「おりぇはドラゴンじゃねーかりゃな。エルフの国に帰りゅんら」

「キュルル……」

「らいじょぶら。家族がいりゅかりゃ寂しくねーよ」

「キュルー」

「長老、会話をしているぞ? なんでだ? 契約はしていないのだろう?」

「はい、しておりません。何故かは分かりませぬが、ハルとは意思疎通ができる様です」

「普通ではあり得んな……」


 やはりこれも普通ではないらしい。


「でだ、長老。ヒューマン族の関与をどう見る?」

「それなんですが……」


 長老が洞窟の話をした。洞窟には地底湖がありそこに、青龍の里にある湖から流れ出している水脈があったこと。


「なるほど。そこから卵が流れ出たかも知れないと言う事か」

「だが、呪詛が引っかかります。ワシにもその様な呪詛を使える者の見当がつかんのです」

「呪詛か……エルフ族は種族的に無理だな。竜族も呪詛の様に繊細な魔力操作を必要とするものは使えない。ヒューマン族には呪詛を扱う程の魔力がない、と言う事か」

「そうなります」

「実はな、エルヒューレの皇帝に止められるまではヒューマン族と獣人の国を攻めてやろうかと思っていたんだ。ヒューマン族など片手でパーンと叩いたら一発でポポーンと飛んでいく。ドラゴンブレスを使うまでもない。2000年前のハイヒューマンの迫害があっただろう。大した能力も持たないくせに自分達が1番だと思っておるだろう? ここら辺で懲らしめてやろうかと思ったんだ。竜族は、戦となれば皆張り切るのでな」


 なるほど。温和そうにフレンドリーに見えて、なかなかのイケイケだ。シュシュが言っていたのはこの事か?

 ヒューマン族など『パーン』と叩くと『ポポーン』だそうだ。リヒト達が驚いて引いている。


「まだヒューマン族が原因と決めつけるだけの証拠がありません。それに、実際に毒クラゲで被害が出たのはアンスティノス大公国だ。戦など、早まってはいけませんぞ」

「分かっておる。エルヒューレの皇帝にも念を押された。だがな、赤子に呪詛をかけられて黙ってはおれん」

「気持ちは理解できますが、まだ時期尚早です」

「分かっておるわ。我々でも調べてみるが、エルフ族の協力を仰ぎたい」

「それは、もちろんです。あの様な呪詛を扱う者を野放しにはできません」

「ああ。とにかく今日は城に泊まっていくといい。部屋を用意させている。この後、青龍王とも会ってほしいのでな」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」


 ――コンコン


「失礼。バイロン、まだか?」


 そう言いながら入ってきたのは、グリーンシルバーの長い髪を後ろで1つに結び、ブルーグリーンの瞳の男性だ。白龍王と同年代に見える。きっと、この男性が青龍王なのだろう。


「ああ、もう構わない。話は終わった」

「そうか。その飛んでいるのが……」

「保護された赤子だ」

「間違いない。私の直系だ。良かった。よく無事で! ほら、おいで。お前の父だ」

「キュル……?」


 ハルの肩に乗って様子を伺っているドラゴンの幼体。迷っているのか?


「らいじょぶら。父しゃまらじょ」


 ハルがドラゴンの幼体の背中辺りを軽くトントンする。赤ちゃん龍はハルをつぶらな瞳で見つめる。


「らいじょぶら」


 ハルに言われてフワフワと青龍王の元へと飛んでいく。


「ヨシヨシ。よく戻ってくれた。奇跡だ」


 青龍王の腕に抱かれてやっと理解できたのか、ドラゴンの幼体が身を預ける。


「キュルル……」

「ああ、父だぞ。母も心配している」

「キュルー」

「ヨシヨシ、良い子だ。エルフの方々、申し遅れてしまったな。私は青龍王のランロンだ。なんと礼を言えば良いか……心より感謝する」

「良かったれしゅ。赤ちゃんらから家族のしょばれ愛情をいっぱい受けて育ちゅのが1番れしゅ」

「ハル……」

「じーちゃん、良かったな」

「君は、長老のお孫さんなのか?」

「ランロン、曽孫だそうだぞ」

「長老に曽孫がいたのか?」

「はい、ワシの可愛い曽孫でハルです」

「そうか。ハル、ありがとう。可愛がってくれていたのだな。感謝する」

「あい」

「ハルは可愛いなぁ。とても精霊に好かれている様だ」

「ランロンもそう思うか?」

「バイロン、当然だ。おばば様に会ってほしいな」

「竜王様、おばば様とは竜王様の……」

「そうだ、長老も見知っているじゃないか。私の祖母だ。1度会いに行くといい。今は里の中階層で1人暮らしているんだ。ハルの為にもな」

「なるほど。竜王様がそう仰るのなら是非お訪ねしましょう」

「そうか、おばば様も喜ぶぞ。ハル、おばば様は長老よりも長生きされている鬼婆だぞ」

「お、おにばば!?」

「アハハハ! ハル、冗談だ。優しいお方だ」


 竜族が言うと、本当に鬼婆の様な龍が出てきそうだ。冗談にならないぞ。

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