第123話 竜王バイロン

 程なくして、竜車は最高層に到着した。

 古城、それがしっくりとくる城だ。過度な飾りはなく、石造りの古城。五角形を取り入れた作りになっていて、5つのコーナーにはそれぞれ五角形の土台と塔がある。


「五大龍王の部屋が五角形の角の塔にあります。普段はこちらにおられませんが、年末に一度必ず集まって参事会が行われます。その際に使用します。参事会と言う名目の忘年会とでも申しますか……」


 なるほど、五大龍王は仲が良いらしい。

 王城の入り口で軽い入城チェックを受ける。中に入ると五角形の城の中央部分は広い中庭になっていた。小さな池まである。

 その池で、ハルが保護したドラゴンの幼体と同じ位の大きさのドラゴン達が水遊びをしていた。


「ん?」

「ハル、どうした?」

「じーちゃん、なんか聞こえねー?」

「ドラゴン達の声じゃねーか?」

「しょっか。じーちゃん、兄弟かなぁ?」

「そうかも知れんな」

「同じ時期に生まれた赤子ですよ。可愛いでしょう? 青龍王が連れて来られたのです。元気いっぱいで、ああして水遊びをしています」


 案内をしてくれているナングが、目を細め微笑みながら言う。


「一緒に遊ばせてやりてーな」

「ハル、謁見を済ませないとな」

「ん、分かってりゅ」


 ハルは長老に抱っこされながら、ジッと水浴びをしているドラゴンの幼体達を見ている。


「ハル、どうした?」

「じーちゃん、青龍王は心配してんらな。良かった」

「ハル?」

「心配してくりぇりゅ家族がいてよかった。元気に動けりゅようになってよかったな」

「ああ。ハルが面倒見たからだ」

「おりぇは手助けしたらけら。自分の身体が思う様に動かないのはちゅりゃいかりゃな」

「ハル……」


 そうだ。この世界に来てからハルは元気いっぱいだったから忘れてしまっていたが、前世のハルは身体が弱くて思う様に動けなかったんだ。

 1番心配してくれる筈の家族からも迫害されていた。いつも1人だった。どんなに辛くても1人で我慢していた。そしていつからか何も意思表示をする事がなくなったんだ。

 そのすべてを長老が知る訳ではない。ハルから聞いたほんの少ししか知らない。その話から長老は想像するしかない。しかし、長老はその事を忘れずにいた。2度とその様な思いはさせないと、しっかりと覚えていた。


「ハル、じーちゃんやアヴィーもいる。リヒト達だっている。ハルはもう1人じゃないんだぞ」

「ん、じーちゃん。うりぇしい。ありがてーな」

 

 有難いとハルは言った。自分を心配してくれる誰かがいる事は当たり前じゃないんだ。本当はとても幸せな事なんだ。

 長老は少し複雑だ。エルフとしてこの世界に生まれていれば、皆に可愛がられて育っただろうに。それでも、今は長老の腕の中にハルがいる。幼児特有の少し高い体温や、ハルの重さが伝わってくる。

 ハルは、当たり前の様に微笑んでいる。種族が違うからと、分け隔てする事なく、皆と笑い合うハルがいる。長老にとっても、嬉しい有難い事だ。


「ハル、野暮用が終わったらじーちゃんと色んな事をしよう」

「じーちゃん、いりょんな事か?」

「そうだ。勉強したり、魔法の訓練をしたり、大森林を探検したり、アヴィーに会いに行ったり。ハルがやりたい事を全部しよう」

「ん、じーちゃん。ありがちょ」


 ハルが長老の腕の中で嬉しそうに微笑む。

 突然目の前から奪われ、生きて会う事が叶わなかった愛娘の孫だ。長老にとっては掛け替えのない宝だ。大切に……2度と理不尽に奪われたりしないように……必ず守ると決めた大事な曽孫だ。




「こちらの部屋でお待ち下さい」


 ナングに通された部屋は、謁見室だろうか。装飾等はあまりなく、どちらかと言うと無骨な印象のインテリアだがそれでいて重厚さもある。

 ハルはいつもの様にキョトンとしながら、長老のお膝の上だ。


「待たせてすまない」


 気軽な感じで部屋に入って来たのは竜族の現王、竜王その人だ。長老をはじめリヒト達も皆が立って一礼をする。ハルとカエデもそれに倣う。シュシュは堂々とお座りだ。


「ああ、堅苦しいのはやめてほしい。世話を掛けたのはこちらなのだからな。私はバイロンだ。長老、久しいな。面倒を掛けた」

「ほんに、お久しぶりです。変わらずお元気そうですな」

「私より歳上の長老が何を言う。その子が保護してくれたのか?」

「はい、ワシの曽孫でハルです」

「はりゅりぇしゅ」

「皇族で、ベースの管理者をしておりますリヒトです」

「リヒト・シュテラリールと申します」


 リヒトが一礼をする横で、ハルが小さな身体でペコリとする。どうやら、長老は竜王と初対面ではない様だ。

 竜王バイロン。白龍だ。この国では、最強の五龍である五大龍王が交代で竜王の位を継承している。

 白龍王バイロン。見た目は、腰まである絹糸の様な長い白髪にグレーの瞳だ。もちろん、ドラゴンが人型になった姿だ。

 ドラゴン族は人型になった時、種族名にある色が髪色に現れる。

 竜王は白龍なので髪色が白。青龍はグリーンシルバー、紅龍なら深紅、黒龍なら黒、黄龍なら金色だ。

 そして、龍王になった時点で名前も引き継ぐ。現在の白龍王バイロンは何代目かのバイロンと言う事だ。

 案内をしてくれた侍従のナングも白髪だったので白龍なのだろう。


「曽孫か!? 我等の赤子を保護し世話をしてくれていたそうだな。礼を言うぞ。ありがとうな、ハル。リヒト殿もよく保護してくれた。礼を言う」

「あい」

「とんでもございません」

「で、今はどこにいる? 会わせてくれるか?」

「あい。こはりゅ」

「はいなのれす!」


 コハルとドラゴンの幼体がポンッと何もない空間から出てきた。

 また、2人で遊んでいたのか? フワフワと飛び回っていて、いつも楽しそうだ。

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