第122話 ドラゴシオン王国

 やっとドラゴシオン王国に到着したリヒト達一行。周りの樹々も広葉樹から針葉樹に変わっている。空気も冷んやりとしている。

 目の前に聳え立つ山々には背の高い樹々は少なく、中腹を過ぎた辺りからは森林限界線になるのだろう。高木は見当たらない。

 一応、国の境界線を示す為の防御壁があるのだが、アンスティノス大公国やツヴェルカーン王国にあったような要塞の様な防御壁はない。竜族にはそんなものは必要ないとでも訴えている様に思える。

 高山の麓から順に層になっていて、其々が暮らしやすい層で暮らしている。身分で分けられているのではない。アンスティノス大公国にある様な貴族と言う概念もない。力だ。強い者が頂点に立つ。

 五大龍王とは最強の五龍だ。その五龍が交代で竜王位につく。そんな最強の竜王が居るのは最高層にある王城だ。

 リヒト達が入門チェックを終え入国すると待っている者がいた。近衛兵らしき兵を数名連れている。

 光に透ける様な美しい白髪にグレーの瞳の男性が前に出た。


「失礼。エルヒューレ皇国の方々ですね」

「そうだ」

「お待ちしておりました。遠路お越し頂きありがとうございます。私は侍従のナングと申します。長老、ご無沙汰しております」


 そう自己紹介をし、白髪の男性は丁寧に頭を下げた。


「ナング、久しぶりだな。これは皇族のリヒト・シュテラリールだ」

「ようこそお越し下さいました。お疲れのところ恐縮では御座いますが、王城までご案内致します」

「ああ、宜しく頼む」


 ナングと言う侍従に先導され、最高層にある王城へと向かう。

 ハルはまたキョロキョロしている。ドラゴシオン王国はハルの前世での東洋に雰囲気が似ていた。と、言っても瓦屋根がある訳ではない。もちろんビルなどはない。煉瓦の様な長方体の建材を積み上げて家が建てられている。どちらかというと地中海辺りの方が似ている建材でできた家がありそうだ。

 なのに何故、東洋に雰囲気が似ているのか?

 まず、建物の屋根だ。瓦屋根ではないのだが、寄棟屋根になっている。寄棟屋根とは……勾配のある4つの屋根面で構成された屋根形状のこと。日本家屋では良く見られる形状だ。

 次に、住民の服だ。着物の様に前であわせて着ていたり、某K国の民族衣装の様な物を着ている。なにより、髪色が黒や茶系が多い。街の色調や雰囲気が東洋なのだ。それだけで、ハルにとっては充分興味深い。


「冬になったら風も強くなりますし雪が積もります。それであの形の屋根なんですよ。耐久性が高いのです」


 ハルがジッと屋根を見ていたからだろう。ナングと自己紹介した侍従が説明してくれる。


「あたし、遠くからはよく見ていたけど、中に入ったのは初めてだわ」

「今迄の国とは雰囲気が違うな」

「リヒト、そうね。ハルちゃん興味津々じゃない。キョロキョロしてるわよ」

「あー、ハルはどの国に行ってもあんな感じだ」

「ウフフ。好奇心旺盛なのね。可愛いわ」


 馬車と馬を預け、人よりも二回り程大きな小型の竜馬が引くオープンタイプになっている豪華な竜車に乗り換えて最高層を目指す。と、言っても飛んでいる。小さな羽をパタパタさせて、竜車を引いている小型の竜馬は飛んでいるのだ。国の入り口から最高層にある城までひとっ飛びだ。


「しゅげー! この子らも竜なんら」

「そうですよ。小型ですが竜種です。人型にはなれない種なのですけどね。小さくても力が強いですし飛べるので運搬車を引いたりしております。君は小さいエルフくんですね?」

「ん、おりぇははりゅら」

「ワシの曽孫だ。ハルが幼体を保護し毎日ヒールをしていたんだ」

「そうなのですか!? ハルくん、保護して頂いて感謝致しますよ」

「ん、気にしゅんな」


 相変わらず、言う事は一人前なハル。


「その幼体はどこに?」

「おりぇの亜空間にいりゅじょ。もうめちゃ元気ら」

「亜空間に!? では、契約したのですか!?」

「してねー」

「は!? 契約していないのに亜空間に入れて平気なのですか!?」

「ん、平気ら」

「信じられません……そんな事が出来るのですか?」


 亜空間。時間魔法と空間魔法で作られた別空間だ。中は空気もありハルの魔力で満たされている。生物も入れる事ができる。マジックバッグや無限収納とは違って、外界と同じ様に時間の経過がある。いつもコハルが入っている空間だ。

 普通は、契約した従魔しか入れない。コハルは従魔ではないが、ハルはコハルの主人という繋がりがあるので入る事ができる。

 もしも、従魔契約をしていない魔物を入れると術者に高負荷が掛かり亜空間を維持できなくなって術者は意識を失う……と言うのが通説だ。

 なのにハルは従魔契約をしていないドラゴンの幼体を入れている。しかも、ハルは……普通だ。なんの変化もない。


「ん、呼ぶか?」

「はい、是非」

「こはりゅ、ドラゴンと出てきて」

「はいなのれす!」

「キュルル!」


 何もない空間から、ポンッとコハルとドラゴンの幼体が出てきた。楽しそうだ。仲良く遊んでいたらしい。


「なんと!? 素晴らしい! 驚きました!」

「アハハハ! 何故か平気らしい。その上、ハルと意思疎通ができるんだ」

「長老、本当ですか!?」

「ああ。ワシも信じられんかった。だが、確実に意思疎通しておるよ。もしかしたら、毎日ハルがヒールをしていたからハルの魔力に馴染んだのかも知れんな」

「なるほど。その可能性はありますね。しかし、興味深い。いや、元気ですね。アハハハ」


 コハルとドラゴンの幼体が、ハルの周りをフワフワ飛んでいる。


「ご連絡を頂いた時はどうなる事かと心配しておりましたが。確かにこの子は青龍です。しかも青龍王の一族です」

「やはりそうか」

「青龍かも知れないとご連絡を頂いておりましたので、城には青龍王も心配して来ております」

「ワシ達も無事に送り届ける事が出来て安心したわ」

「感謝の言葉もございません。よく、保護して下さいました。保護して下さったのがエルフ族の方々で良かった。もしヒューマン族だったらと思うとゾッと致しますよ」

「あー、ヒューマンだと保護しても解呪や回復はできんだろう」

「はい、そう思います。万が一、出来たとしても見せ物になるか、剥製にされるか……」


 ここでも、ヒューマンに対する印象は悪いらしい。

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