第121話 元気に飛んだ
リヒト達一行が北へ向かってパカパカと進む。
「ねえねえ、リヒト。ハルちゃんはどうしたの?」
ちょっと変わった白い虎の聖獣シュシュはリヒトが乗る馬の横を走る。
「あ? ハルはお昼寝だ。まだちびっ子だからな、午後に1回お昼寝すんだよ」
「そうなんだぁ。ハルちゃん小さいもんね。ハルちゃんて歳はいくつなの?」
「ハルは3歳になったばかりだな」
「やだ、まだ3歳なの!? 赤ちゃんと一緒じゃない! あたしもあの猫ちゃん達と一緒に馬車へ乗れば良かったわ」
「猫獣人はハル付きのカエデだ。今馬車でハルを寝かせているのがうちの侍女でミーレだ。ハルの世話をしてくれている」
「そうなの? 誰かの彼女じゃないのね?」
「なんでだよ」
よく喋る虎だ。こんな喋り方だが、男……いや、歴とした雄だ。シュシュといい、カエデといい、ネコ科はよく喋るのか?
前方にドラゴシオン王国がある北の高山地帯が聳えている。山の頂にはもう白い冠雪が見て取れる。
リヒト達も普段の服の上に上着を着込んでいる。
「長老、リヒト様、ちょっと止まります!」
「イオス、分かった!」
どうしたのだろう? ハルさん、オシッコか?
「長老、ドラゴンの幼体が目を覚ましたそうです!」
「おお、そうか!」
少し前にも1度、目を覚ましていたが短い時間だった。ハルしか見ていない。また目を覚ましたらしい。
「ハル、開けるぞ」
「じーちゃん、いいじょ」
ハルもお昼寝から目を覚ましていた様だ。長老が馬車のドアを開ける。
「ハル……」
「元気らろ? アハハハ」
「キュル?」
「らいじょぶら。おりぇのじーちゃんら」
「キュルル」
ハルが馬車の中に敷き詰めたマットとクッションの上にペタンと座っていた。そのハルの頭の上にのっていた。
淡く緑掛かって見える白い鱗の身体に2対の羽と尻尾。大きくてつぶらな瞳をパッチリと開けて長老を見ていた。挨拶でもするかの様に片方の前足を上げている。
「おう、元気になったな。やはり故郷に近くなったのが分かるのか?」
「キュル?」
首をヒョコッと傾げている。うん、分かっていないな。
「良かったな。ちょっと見せてくれよ」
長老の瞳がゴールドに光る。
「ふむ。もう大丈夫だな。腹は減ってないのか?」
「キュルルル」
「じーちゃん、肉食うって」
「ハル、言ってる事が分かるのか?」
「ん、分かりゅじょ」
「なんだと? ハル、名付けをしたのか?」
「してねー」
「なら何で分かるんだ?」
「しらねー」
「不思議だな?」
「らな。じーちゃん、おりぇ外出ていいか?」
「ちょっと待て。馬車が止まっていい場所まで移動するからな」
「ん、分かっちゃ」
馬車は少し走り、街道から逸れて野営の出来そうな平地を選んで止まった。
「ハル、いいぞ」
「キュルルー!」
ドラゴンの幼体が馬車から飛び出してきた。小さな2対の羽をパタパタさせて、上手に飛んでいる。
「こうしてると、小さくてもドラゴンだなぁ」
「リヒト様、綺麗ですね」
「ああ、ルシカ。 薄緑か? 白くも見えるな」
「あの鱗の色が青龍なのよ。独特よ」
「へぇ〜、シュシュて物知りだよな?」
「あら、リヒト。そうかしら? 色々見て回っていたからじゃない? でもコハル先輩が持っている知識はあたし全然知らないわよ」
「で、その言葉は誰に教わったんだ?」
「言葉位、教わらなくても話せる様になるわよ」
「そ、そうか」
おねえさんなんだろうか? 聖獣で? まさかな……!?
ルシカとカエデが火を起こしている。
「長老、生肉でしょうか?」
「さあ? 分からんな。ハル!」
ヒラヒラと飛ぶドラゴンの幼体と戯れているハルを呼ぶ。
「じーちゃん、なんら?」
「キュル」
「肉は生か? 焼くのか?」
「キュルルー」
「薄く切ってかりゅく焼いてほしいって」
「キュル」
「ルシカ、だそうだ」
「はい、分かりましたよ」
「ルシカ、ルシカ、あたしも食べたいわ」
「シュシュもですか? 焼きますか?」
「ええ、焼いてちょうだい。軽くお塩もお願いね」
「りゅしか、りゅしか。おやちゅ食べたいじょ」
「ハルもですね。少し待って下さい。カエデ、前に教えたバナナの……」
カエデが何か作るらしいぞ。
「何? 何? ハルちゃんオヤツってなぁに?」
「ん、りゅしかのおやちゅは超美味い」
「そうなの!? ルシカ、ルシカ。あたしもオヤツ食べるわ」
「おや、肉はどうします?」
「もちろん、食べるわよ」
「アハハハ、分かりましたよ」
よく食べる虎だ。
「まだ体力が回復してないなのれす」
「そうなのよね。ほら見て、骨が分かるでしょう? あたしのナイスバディが台無しだわ」
どんなナイスバディなんだろう……
「ハル、肉が焼けましたよ。足らなかったら言って下さい。まだありますからね。シュシュもどうぞ」
「ピュルー!」
「まあ! ルシカ、ありがとう!」
「ピュルルル」
「はい、どうぞ」
ルシカに、いただきますとでも言ったみたいだ。焼いた肉にかぶり付き食べるドラゴンの赤ちゃん……と、白い虎。ファンタジーだ。
「しかし、驚いたなぁ」
「馬車の中で目を覚まして直ぐに飛んだんですよ」
「みーりぇ、前に目を覚ました時は動かなかったんら」
「そう、きっと元気になって嬉しいのね」
「あら? この子竜、羽が2対あるわね」
「シュシュ、2対だとなにかあるのか?」
「リヒト、あのね。2対の羽を持つのは王の血筋だけよ」
「えッ!? 竜王か!?」
「リヒト、違うわよ」
「青龍王の直系か?」
「長老、流石よく知ってるわね。その通りよ」
「長老、青龍王?」
「ああ、ドラゴン種には其々の種族の王がいるんだ。国の王である竜王とはまた違う。たしか今の竜王は白龍王だったか?」
「そうね、その通りよ。国王としての竜王はね、五大龍王から選ばれるの」
五大龍王とは……
東の青龍王、南の紅龍王、西の白龍王、北の黒龍王、中央の黄龍王である。
五大龍王の直系だけ2対の羽を持つと言われている。
「なんかコエーな」
「イオス、怖くないわよ。悪さをしなければね。エルフ族もイメージと違ったけど、竜族もじゃないかしら?」
「シュシュ、そうなのか?」
「ええ。ある意味、イケイケよ」
「イケ……」
意味不明……
「行ってみれば分かるわよ。ルシカのオヤツ、超美味しいじゃない!」
「アハハハ! 今日作ったのはカエデですよ」
「まあ! カエデ、凄いじゃない!」
「ひにゃん!」
「やだわ、怖がらないでよ。食べないって言ってるのに」
カエデが尻尾を丸めてイオスの後ろに隠れている。まだ、シュシュには慣れないらしい。ま、仕方ない。猫vs虎だと勝敗は明らかだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます