第120話 あたしはシュシュよ!

「あら、青龍じゃない」

「分かりゅのか?」

「もちろんよ。あたしが倒れていた水脈の上流に青龍の里があるのよ」

「なんだと!?」

「やだ、リヒト。なぁに?」

「本当なのか? あの水脈の上流か?」

「そうよ。知らないの? あの水脈はね、ドラゴシオン王国のある高山地帯から流れ出てるのよ。でね、ドラゴシオン王国の東の方に湖があってそこに青龍の里があるの。そこからあの水脈が流れ出ているの。その里で青龍は皆産卵するのよ。赤ちゃんや子竜もいるわよ。とっても可愛いの」

「長老……」

「ああ、しかしよくそんな事を知っていたなぁ?」

「だから、色んなところを走るのが好きなの。高山地帯も走ったもの。色んな景色があるのよ。あんなに我が物顔で無敵のドラゴンが子竜の時はとっても可愛いの。あたし、可愛いの大好きだからよく遠くから見ていたわ」


 これはとても大事な事だ。ドラゴンの幼体が何故あのクラゲの繁殖していた地底湖にいたのか。繋がりが出てきた。



「ひゃーー! 気持ちいいー! しゅげー!!」

「気持ちいいなのれす!」


 ハルとコハルが、虎の背中に乗せてもらっている。


「ハルちゃん、しっかり捕まりなさい! スピードあげるわよ!」

「おー! すぴーろあっぷら!」

「早いなのれす!」


 虎がスピードをあげた。と、言っても大した速さではない。馬で軽く走る位の速さだ。だが、馬とは違って目線が地面に近い。その分、より早く感じる。


「ハル! 危ないですよ!」

「ハルちゃん、ルシカが叫んでいるわよ」

「ん、りゅしかは心配性なんら。おりぇが魔法杖で飛んだりゃいちゅも心配しゅりゅんら」

「そう。優しいのね」

「ん、頼りになりゅいいやちゅら。れも、しょりょしょりょ怒り出しゅじょ」

「やだ、そう?」

「ルシカは怒ったら怖いなのれす」


 ハルやコハルは、ルシカの事をよく分かっている。


「ハル! 戻って来なさい!!」

「ほりゃ、怒ってりゅ」

「駄目なのれす」

「心配掛けるのはよくないわ。戻るわよ」

「ん」


 聖獣になりたての白い虎。ちょっと変わった虎だが、いい奴らしい。


「ハル! 杖の次は虎ですか!」

「りゅしか、らいじょぶらって」

「もし落ちたらどうするんですか!」

「やだ、あたし落とさないわよ」

「まあ、ルシカ。その辺でだな」

「長老はハルに甘すぎるのです!」

「あー、すまん?」

「アハハハ! ルシカ、もういいだろう。で、本当に一緒に来るのか?」

「ええ。リヒト、決めたの! 命の恩人だしね。あたしハルちゃんの事、大好きになっちゃった!」


 なっちゃったのかぁ……そっかぁ……


「アハハハ! ハル、だってよ」

「りひと、れもなぁ。ほんちょにいいのか?」

「あら、あたしがいいと言ってんだからいいわよ。だからね、ハルちゃんお名前ちょうだい」


 ハルは長老とリヒトを見る。いいのか? エルフの国は困らないのか? と。


「ハル、気にしなくていいぞ」

「じーちゃん、しょう?」

「ああ。また陛下を驚かせるじゃねーか。アハハハ!」

「長老、そうじゃなくて。ハル、構わないぞ」

「ん、りひと。ありがちょ。じゃあ……名前は……しゅしゅ」


 白い虎の身体がブワンと白く光った。


「ハル、シュシュか?」

「ん、りひと。たしか雪の事をシュネーて言う国がありゅんら。雪みたいに白いからしょこからとって、しゅしゅ。可愛いのが好きなんらろ?」

「やだ! 可愛い!!」

「気に入ったか?」

「ハルちゃん、ありがとう! あたしのお礼よ! ハルちゃんを守るわ!」


 ハルにシュシュと名付けられた白い虎の聖獣。ピンク色の鼻先をハルの額にプニュッと押し付けた。


「リヒト、あなたもよ。いらっしゃい」

「あ? 俺もか?」

「そうよ。もうリヒト大っきいわね。ちょっとしゃがみなさいよ。気が利かないわね、モテないわよ」

「お、おお」


 リヒトが片膝をつくと、リヒトの額にまたピンク色の鼻先をプニュ。


「ズルイなのれす! ハルにはあたちがいるなのれす! あたちがハルを守るなのれす!」

「コハル先輩、よろしくね。あたしも一緒に守らせて」

「んー、仕方ないなのれすー!」

「コハル先輩、ありがとう」

「先輩なのれす! 面倒みるなのれす!」


 コハルがシュシュの頭の上に乗った。コハルの方がシュシュより聖獣としての格は上なのだろうが、言動はコハルの方が子供だ。コハルとシュシュ。ハルを守護する聖獣だ。

 コハルは神の使徒でもある真っ白な子リスの聖獣だ。

 シュシュはまだ聖獣に成り立てらしいが、雪の様に白い虎の聖獣だ。頼もしい。神々しくもある。喋らなければ、威風堂々と言う言葉がよく似合う。喋らなければ……


「ハルは縁があるのだろうなぁ。好かれるのだろう」

「長老、そうなのですか?」

「あ? ルシカ、分からんがな。なによりハルは可愛いからな。アハハハ」



 ドラゴシオン王国に程近い洞窟で、毒クラゲが繁殖している地底湖を発見した。その地底湖へと繋がる水脈に倒れていた白い虎。聖獣だった。たまたま各地を巡るのが好きだと言って地底湖へ流れ込んでいる水脈の事にも詳しかった。

 聖獣の情報で、水脈の上流にある青龍の里を知る事ができた。もしも、その里から卵が偶然水脈に落ち、地底湖に流れ着いたのだとしたら……ヒューマン族と獣人族の国、アンスティノス大公国が生き残れる可能性も高くなる。

 ハルが保護したドラゴンの幼体。どうしてヒューマン族の湖にいたのか? 毒クラゲが捨てられた湖にいたのか?

 そこが1番きな臭かっただけに、小さな希望が見えてきた。が、問題は呪詛だ。これは人為的なものとしか考えられない。

 それに、毒クラゲ。あの地底湖が繁殖地でないなら、何故あそこにいたのか?

 誰かが関与しているのだろうか? 誰が? 何の為に? まだ疑問は残る。

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