第119話 雄?
「ね、だからハルちゃん。名前をつけてちょうだい」
「えー……意味分かりゃん」
「名前をもらうと言う事はどういう事なのか分かっているのか?」
「長老、当たり前じゃない! だからハルちゃんがいいのよ」
「おりぇ、こはりゅいりゅしぃ、かえれもいりゅしぃ」
「カエデ?」
「ひゃん!」
カエデが尻尾を巻いてイオスの後ろに隠れている。
「なぁに? 猫獣人かしら?」
「にゃん!」
「怖がらなくてもいいわよ。あたしは聖獣なのよ、食べたりしないわ」
「けど、と、虎やんな?」
「なによ。そんなに怖がらなくてもいいじゃない。傷付いちゃうわ」
「かえれ、らいじょぶら」
「ハルちゃん、これはな本能的なもんなんや。ただの猫に虎を怖がるな言うても無理やし」
「あら、あなたその喋り方……どっかで聞いたわね」
「え……?」
「あたしね、これでも自由に色んなところに行くのが好きなの。風を切って走るの。だからこの大陸の色んなところに行ったわ。どっかで聞いたわね。どこだったかしら? 忘れちゃったわ」
「しょっか、じゃあまた好きなとこ行くといいじょ。もうらいじょぶら」
「やだッ! ハルちゃんと一緒にいるの! もう決めちゃったのッ!」
大きな白い虎にゴロニャンと懐かれるハル。大きさが違いすぎる。
「ハル、どーすんだ?」
「りひと、んー。取り敢えじゅ……りゅしか、腹へったじょ」
「アハハハ! 腹減ったのかよ!」
「そうですね、食事にしましょうか」
「あたしも食べるわ!」
「なんだよ、さっき食べただろう?」
「ちょっと、リヒトだっけ? ケチな事言わないでよ。あれ位でお腹がいっぱいになる訳ないじゃない。何日も食べてなかったんだから」
「えぇー……」
「生肉がいいのですか?」
「あなた、何て名前?」
「私はリヒト様の従者でルシカです」
「そう。ルシカ、あたしも人が食べるものを食べてみたいわ」
「いいのですか?」
「当たり前じゃない! なんでも食べるわよ」
「そうですか、では用意しますね。カエデ」
「はいにゃ」
カエデの尻尾が身体に巻き付いている。まだ怖いらしい。
「やだ! 美味しい! こんなの食べた事ないわ! 凄い美味しい! ルシカ、天才じゃない!?」
「ん、りゅしかの飯は美味い」
「ねー! ハルちゃん、とっても美味しいわ! ねえ、お水もちょうだい」
ルシカの作った料理を食べて聖獣の虎が言った。お水をもらってガブガブ飲んでいる。聖獣らしくない奴だな。
「なあなあ、聖獣なりたてなんらろ?」
「そうよ、ハルちゃん。聖獣になってほんの100年位かしら」
「聖獣になりゅのって大変なのか?」
「そんな事ないわよ。長生きしたらなれるわ」
「どりぇくりゃい?」
「そうね、500年位かしら?」
「だいたい500年生きたら霊力や魔力を得て聖獣になるなのれす! でも、500年も生き抜けるのはあまりいないなのれす! それに、悪さをしていたら神がそれを許さないなのれす!」
「こはりゅ、しょうなんか。れも、じーちゃんの方が長生きら」
「えぇッ!? 長老、何歳なのよ?」
「ワシか? ワシは2700歳位だな」
「信じらんないッ! エルフって凄いのね! 近寄らなくて良かったわぁ」
「ヘーネの大森林には行った事がないのか?」
「あなた、名前は?」
「俺はリヒト様の家で執事見習いをしているイオスだ」
「そう、イオス。あたし達の世界ではね、エルフ族は恐ろしく強いって評判なのよ。だから、近寄らなかったの。それにヘーネの大森林て魔物が沢山出るじゃない? そんな物騒なところに行くわけないじゃない」
「ドラゴシオン王国には?」
「行く訳ないじゃない! ドラゴンよ、ドラゴン! あんなの反則もいいとこよ。ドラゴンブレスで丸焦げになりたくないもの。だから、遠くから見ていた程度よ」
「アハハハ! なんだよ、結局どこ行ったんだよ?」
「リヒト、そこら辺色々よ。ヒューマンと獣人の国と、ドワーフの国には行ったわよ。でも、あたしは広い場所を走るのが好きなの。風を切って走るのって、とっても気持ちいいの!」
「なあなあ、なれなれしていい?」
「いいわよー。ハルちゃんなら特別にあたしの魅惑のボディを触らせてあげるわ」
「おぉ……!」
ハルが小さなプクプクした手で、魅惑のボディらしい白い虎を撫でる。初めはそぅ〜ッと。でも、慣れてくると大胆に背中一杯撫でている。
「おぉー! れもちょっとばっちいな」
「まあ! なんて失礼な事言うのよ! ハルちゃん、レディーに嫌われるわよ!」
誰がレディーだ? 雄だよな?
「くりーん」
シュルンと虎の毛並みがふんわりとして雪の様な白さになった。
「まあ、ありがとう」
「なあなあ、のしぇて」
「いいわよー! ハルちゃんなら何でも許しちゃう」
「やっちゃ!」
「ウフフ。可愛いわね〜!」
ベロンと、ハルを舐める。
「ぅわッ! 舌デケー」
「ハルちゃんが小さいのよ。小さくて可愛いわ。本当、母性本能くすぐられちゃうわぁ」
誰が母性だ? 何度も言うが、雄だ。
「ハル、先に食べてしまいなさい」
「あい、りゅしか」
「ねえ、ドラゴシオン王国にはどうして行くの?」
「ドラゴンの幼体を保護したんだ。だから、送って行くんだ」
「まあ! 珍しいわね」
「あ、しょうら。みーりぇ」
「ハル、見てみる?」
「ん」
ミーレが馬車からドラゴンの幼体が寝ている籠を出す。
「まら、寝てんな……ひーりゅ」
ありがとうと言っている様に、尻尾がパタリと動く。
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