第118話 新米の聖獣

「らいじょぶか? 動けないのちゅらかったな。なんにもしないかりゃ噛むなよ」


 ハルがしゃがんで話しかける。


「お前達は一体何なの?」

「おぉ、やっぱしゃべりぇりゅんら」

「ねぇ、ちびっ子。やだ、あんた聖獣を従えてんの?」


 ん? んん? 待てよ……喋り方が……? 白虎の威厳が……カッコいい感じで説明したのに……


「こりぇはこはりゅ。おりぇの友らちら。しょりぇより動けねーのか? 腹減ってんらろ?」

「ええ、もう減りまくりよ」

「聖獣になりたてなのれす! 毒で危なかったなのれす! ハルに感謝するなのれす!」

「分かってるわよぉ……」

「偉そうなのれす!」


 コハルが白い虎に乗り、足でペチペチと蹴る。ペチペチだから本気ではない。全く力を入れていない。


「ごめんなさい……あたし力が出ないのよ」

「ありぇ、お前男らよな?」

「そうよ。こんなにガリガリになっちゃったけど、あたし本当はすっごくカッコいいのよ」

「お、おぉ……」


 ハルさん、ちょっと引いてます。


「りゅしか、何か食べりゅ物ない?」

「お肉がいいわ! 生で平気よ」


 ちゃっかりとリクエストをしている。


「え、ええ。それなら……塊でも平気ですか?」

「もちろんよ。早くちょうだい!」


 太い前足をテシテシとして急かしている。ルシカがマジックバッグから出した生肉の塊を、超ワイルドに犬歯で噛み切りながら一気に食べた白虎。


「ふぅ、ありがとう。やっと少し落ち着いたわ」

「歩けるか? とにかく洞窟から出ないか?」


 リヒトが声をかける。


「そうね、こんなところもう1秒でもいたくないわ」


 おかしな白い虎を連れて、一行は洞窟を出る。キャラがキャラだけに、白虎とは言い難い。

 外に出ると、既に空気も変わっていた。身体に絡みつく様な毒はもうない。


「リヒト様! ハル!」


 ミーレが心配そうに待っていた。


「良かった! 空気が浄化されたので討伐したんだと思っていたのですけど、なかなか出て来られないから心配して……て、それは何ですか?」


 ミーレが、『それ』と言ったもの。もちろん、白い虎を指している。


「ミーレ。白い虎だ。聖獣になりたてらしい」

「リヒト様、虎なのは見れば分かります。どうして虎が?」

「いたんだよ、洞窟に。足の怪我と毒で動けなくなっていたんだ」

「虎が? 毒で?」

「そうなのよ、参ったわ」

「え、あなた喋れるの?」

「当たり前じゃない。何年生きていると思ってんのよ。そこら辺にいる雑魚虎と一緒にしないで欲しいわね。あたしは聖獣よ。普通の虎じゃないのよ」

「なったばかりなのに、偉そうなのれす!」


 またコハルが虎に乗る。今度は頭に乗って足でペチペチしている。


「ごめんなさい。先輩やめて」


 おう、コハルの事を先輩と言ったぞ。


「聖獣になったばかりなのれす! まだまだ新米なのれす!」

「とにかく、どうする? 解毒したしもう大丈夫だろう?」


 リヒトが虎の聖獣に聞く。


「やだ、何? あたしが一緒にいたら迷惑なの?」

「え? いや、俺達はまだこの先のドラゴシオン王国に行くんだよ」

「そう、じゃああたしも一緒に行くわ」


 なんだと? どうすんだ?


「まあ、取り敢えず話を聞こうか? 何故、あの洞窟にいたんだ?」

「あなた、誰? あたしを持ち上げたわよね? どんだけ魔法使えんのよ?」

「ワシはエルフ族の長老だ。このちびっ子はワシの曽孫でハルだ」

「ひまご!? エルフ族は長命種だものね。助けてくれてありがとう。ハルちゃん、可愛いじゃない。ホント、とっても可愛いわ」

「そうだろ、そうだろ! アハハハ!」

「長老、笑ってる場合ですか?」

「て、言うかぁ。エルフって本当にイケメンばかりなのね。あたしびっくりしちゃった。ちょっとドキドキしちゃうわ。あたし雄の虎なのに」

「あー、俺はエルフ族の皇族なんだ。リヒトて言う」

「あら、そうなの? よろしくね。あたしは名前ないのよ。ハルちゃん、名前をつけてちょうだい」

「えー……」

「何よ。嫌なの?」

「らって虎しゃんは本当におりぇ達と一緒に来りゅのか?」

「そうよ!」

「なんれらよ。もう動けりゅし自由らじょ」

「馬鹿ね。あたしはね、あんた達が来なかったらもう近いうちに死ぬところだったのよ」


 新米聖獣の白い虎が話し出した。

 数日前にあの洞窟の地底湖に流れ込んでいる水脈に落ちたんだそうだ。

 毒が原因かは分からないが、地盤が脆くなっていたのだろう。狩りをしている途中で落とし穴の様に突然足下が崩れたらしい。

 そして落ちたところが、水脈だった。落ちた時に後ろ足を痛めてしまい、そのまま流されてしまって毒の地底湖に流れ着いた。これはヤバイとなんとか地底湖からは這い出たものの、毒クラゲの集団に毒の触手を絡まされ動けなくなってしまった。

 毒で動けない、体力も奪われる。もう、駄目だと思っていたところにハル達が解毒と浄化に現れたと言う訳だ。


「だからね、あなた達は命の恩人なのよ。本当にありがとう!」

「ほう……そうか。そりゃ助かって良かったな」

「長老、あなた他人事ね。もう大変だったのよ。何なのあのクラゲ! あんなのこの地にいなかったわよ!」

「いなかったのか? あの地底湖が生息地じゃねーのか?」

「違うわよ! あそこは殺人魚がいるでしょ? だから魔物や動物は誰も近付かなかったのよ。アイツらの天下だったの。もちろん、クラゲなんていなかったわ。元々いなかったのに、何であんなに増えてんのよ。意味が分かんないわ」


 あの地底湖がクラゲの生息地ではない。白い虎はそう言っている。


「虎よ、それは本当なんだな?」

「本当よ。いつからいたのかは分からないわ。あたしが落ちた時にはもう繁殖していたもの。でも、少なくとも半年程かしら。それ位前にはいなかったわ」

「長老」

「ああ、リヒト。誰かがあの地底湖にクラゲを持ってきたとしか考えられないな。水脈から流れてきたとするには不自然だ。水脈の方には毒はないのだからな」

「一体、どうなってんだ? 何が起っているんだ」

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