第117話 超デカかった

「こんなん、自分出番ないやん」


 カエデよ……確かに。その気持ちはよく分かる。その時だ。地底湖から何か飛び出してきた。


「うおッ!?」

「カエデ、斬れ!」

「長老、了解!」


 カエデが飛び出してきた何かを真っ2つに斬る。


「長老、何これ? 魚!?」

「魚の魔物だ。口が長く鋭く尖っているだろう。それで地底湖に来た人や魔物を狙うんだ。突き刺さる場所が悪かったら即死だ。そして内臓から吸って食うんだ。殺人魚だ。クラゲの毒にやられてないんだな」

「こわッ! 何その怖い魚!」


 だから、カエデ。魚の魔物だ。


「狙って飛んでくるからな! カエデ、気をつけろ! 斬りまくれ!」

「任してや!」


 クラゲに混じって、殺人魚も時折飛んでくる。カエデが確実に斬っていく。

 

「リヒト、流れ込んでいる水源の方が先だ! デカイのは後だ!」

「長老、了解!」


 長老は口だけではないぞ。シールドで毒から守りながら、バリアも張って殺人魚から守っている。尚且つ、斬ったり燃やしたり。


「よし! あとはデカイやつだけだ!」

「長老、動かねーんだ!」

「ワシが出そう! リヒトも斬ってくれ」

「おう!」


 長老が両手を地底湖へと向けると、オリージャ湖にいたクラゲの倍以上はあるだろうか。クラゲではなく、まるでクジラの大きさだ。それほど巨大なクラゲが飛び出してきた。


「うわッ! 超デケー!」

「大きいなのれす! 斬ってやるなのれす!」

「待て! ハル! コハル!」

「じーちゃん何ら?」

「斬るなのれす!」

「あの透明なゼラチン質の傘の部分を見てみろ」


 長老に言われて凝視するハル。


「うげげ……あん中にクラゲのちっせーのがウヨウヨいりゅじょ!」

「だろう? 斬ったらあれが出てくるぞ」

「じーちゃん、どーすんら?」

「取り敢えず、足を斬ろう」

「ん、分かった。ういんどーかったー」


 ハルが巨大クラゲの足をスパパンッと斬る。


「ルシカ、イオス、燃やし続けてくれ」

「了解!」


 2人がハルの斬った足を燃やす。と、言っても元がクジラ並みにデカイから足もデカイ。大量だ。ピンクの触手が毒々しい。


「ハル、坑道でワームの巣を燃やしたろう。あれだ」

「じーちゃん、分かった。ふりぇいむばーしゅと」

「フレイムバースト」


 ハルと長老の2人で巨大な傘の部分をそのまま焼く。長老の力も加わり、以前ハルだけの時は火炎放射の様だった炎が小規模な爆発の様に威力が高くなっている。

 

「ハル、もう1度だ」

「ん、ふれいむばーしゅと」

「フレイムバースト」

 

 クラゲの水分が抜けてどんどん小さくなり燃え滓になっていく。


「リヒト、ハル、解毒と浄化だ」

「了解! アンチドーテ」

「あんちどーて」

「アンチドーテ」

「ピュリフィケーション」

「ひゅりふぃけーしょん」

「ピュリフィケーション」


 長老、リヒト、ハルの3人での解毒と浄化だ。出来る限り広範囲に。地底湖だけでなく、そこに流れ込んでいる水脈にも、地底湖の周辺にも解毒と浄化の光が下りていく。


「ふぅ……ちょっちしゅごかった」

「超デカかったなぁ」

「いや、イオス。あの傘の中が問題だったぞ」

「みっちょんこんぴゅりーちょ」

「アハハハ! 言えてねー」

「まだなのれす!」

「こはりゅ、もういないじょ?」

「クラゲじゃないなのれす!」

「ほう……これは……何だ?」

「弱ってるなのれす! 瀕死なのれす! 助けてやってほしいなのれす!」


 ハルとリヒトが周辺をゴールドに光った瞳で見ている。


「カエデ、索敵してみなさい」

「長老、分かった……索敵……と……あれ? 長老、あそこかな?」


 カエデが流れ込んでいる水脈を指す。


「そうだ。よく分かったな。偉いぞ」

「やったにゃん!」

「じーちゃん、こりぇ魔物じゃねーよな?」

「ああ、違うな」

「長老、なんだ?」

「リヒト、大きく言えばコハルの仲間か」

「え、聖獣!?」

「一緒にしないでほしいなのれす!」


 おや、コハルがカエデの頭の上で両手を組んでプンスカと怒っている。


「コハル、でも聖獣だろう?」

「リヒト、あたちは聖獣でも神の使徒なのれす! 特別なのれす! あれは聖獣になったばかりなのれす! まだまだ新米なのれす!」


 コハルもなったばかりじゃなかったか?


「え? 何ですか? まだ何かいるのですか?」

「ルシカ、聖獣になったばかりなのがいるそうだ」

「リヒト様、聖獣ですか!?」

「もう、自分は驚けへんで。何でもかかって来いや!」


 おや、カエデ。逞しくなった。


「水脈に半分浸かっているな。意識がないのか? こっちに持ってくるぞ。リヒト、一応警戒してくれ」

「了解です」


 長老が両手を翳す。水脈の中から白い何かが浮かび上がって空中を移動してくる。


「じーちゃん、しゅげー」

「ハル、長老は魔力操作も魔力量もエルフ族1なのですよ」

「りゅしか、1番……しょっか。しゅげー筈ら」

「はい。誰も長老には勝てません」

「ん……らな」


 長老が魔法で無理矢理水脈から引き上げたものを説明しよう。

 体長は3m位あるだろうか。肋骨が見てとれる程痩せてはいるが、しなやかな体躯、毒に侵されて動けないながらも鋭い眼光。一睨みされると動けなくなりそうだ。紛れもなくネコ科のなかでも頂点に君臨する動物の一種であろう。

 真っ白な体毛に黒と言うよりも薄いグレーの縞模様。なのに鼻は淡いピンク色をしていて、瞳の色が澄んだアイスブルーだ。

 そこにいたのは、ホワイトタイガーだ。白虎と言うべきか。後ろ足を怪我しているのか? 血が滲んで見える。


「お、おぉ……」

「デカイな……」

「ハル、解毒とヒールだ」

「ん、じーちゃん。あんちどーて。ひーりゅ」


 白虎を白い光が包み込み消えていく。

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