第116話 またまたまたクラゲ退治

 急ぐ旅でもないから、一行はのんびりと進む。高山地帯に近くなってきて、樹々の種類が変わり数も少なくなり岩肌が目立つ様になってきた。長老やリヒト、そしてハルが同時に反応した。


「長老……」

「ああ、何だこれは……?」

「めちゃ嫌な感じら」


 3人共、瞳がゴールドに光っている。


「毒だな……」

「長老、なんでこんなところに?」

「毒ばっからな……じーちゃん向こうら」

「ハル、そうだな」


 長老とハルが岩肌の一箇所を注視している。よく見ると岩と岩の間に、縦長の細い割れ目が見える。


「なんだ……洞窟の入り口か?」

「リヒト……最近聞いたな」

「聞きましたね」

「まじ……ありぇか?」


 一行は進路を外れて、注視していた岩肌を目指す。


「皆、出来るだけ近寄ってくれ。シールドを張るぞ」


 長老の声で、馬車を中心にして皆が近寄る。長老が片手を上に上げる。何か透明のヴェールの様なものが下りてきて一行を包み込む。


「長老、もしかして例のクラゲの毒ですか?」

「ルシカ、元かも知れん」

「よくこんな場所を知っていたなぁ。それにこの空気だよ。こんなに毒が漏れ出しているのに、ヒューマンはよく来たよ」

「リヒト、感じなかったかも知れんぞ。ヒューマンは毒に反応できんだろう。毒に侵されてやっと認識する程度だろうな」

「長老、そう言えば冒険者が毒に侵されたと言ってたなぁ」

「あの洞窟の近辺だけ木どころか植物も生えていませんね」

「ルシカ、そりゃぁこんだけ酷かったらなぁ……」


 どうやら、洞窟の入り口周辺にも毒が漏れ出しているらしい。それで、長老のシールドだ。


「長老、やはり洞窟の入り口だな。入るだろう?」

「これは素通りできんだろうよ」

「うげ……またきっとくらげら」

「アハハハ、ハル。もう踏み付けるなよ。魔法が使えるんだからな」

「りひと、覚えたかららいじょぶら。こはりゅ」

「はいなのれす! 何かいるなのれす! 瀕死かもれす!」


 瀕死とは? クラゲが自分の毒で瀕死なのか? そんな事はないだろうツヴェルカーン王国でもあまり出て来られなかったコハルさん。ずっと寝ていたらしい。まだ、小さいからな。

 ツヴェルカーン王国を出てやっと自由に出られる様になって、ちょっぴり張り切っている。何かいるのを察知したらしい。


「コハル、何かってクラゲじゃねーのか?」

「リヒト、違うなのれす!」

「なんだ?」

「助けてやってほしいなのれす! でも、とにかくクラゲが先なのれす!」

「そうだな。このまま放ってはおけないな」


 洞窟の入り口近くの平坦な場所を選び馬車と馬を止める。


「ちょっと待っててくりぇな。お利口らからな」


 ハルが馬に声を掛ける。


「長老、私が残って馬と馬車を見ています」

「おお、ミーレ頼んだ」


 ミーレがお留守番だ。


「ミーレ姉さん、自分も残ろか?」

「何言ってんのよ。一緒に行ってしっかり役に立ってきなさい。頑張って訓練して来たんだから」

「分かった。頑張るわ」


 ミーレを残して、一行は洞窟の入り口に入って行った。ゴツゴツとした剥き出しの岩肌が下へ向かって続いている。


「ライト」


 長老がポンポンとライトを先と自分達の周りに出し進んで行く。


「マジ、便利」

「カエデ、これ位は今すぐ出来るぞ」

「え? イオス兄さん、そうなん?」

「そうでした。生活魔法を教えていませんでしたね」

「ルシカ兄さん、何なん? その生活魔法って」

「今のライトや、クリーンですよ」

「マジ!? ルシカ兄さん、クリーンは大事やで。毎日、ミーレ姉さんにしてもらってるもん」

「そうら、クリーンは大事」

「なぁ、ハルちゃん。そうやんなぁ」

「忘れてました。ウッカリしてましたね。あまりにも身近すぎて」

「え……そんな感じなん?」

「しょうら。りひともしょうらった」

「そうなんや」

「もう直ぐだぞ」


 リヒトが声を掛ける。どれだけ入ってきただろう。先には地底湖が見えてきた。湖面が異様な光でゆっくりとユラユラ揺れている。


「長老、モロこれだよな?」

「リヒト、そうだな。凄い数がいるぞ。これは増えたんだな」

「マジ、ウジャウジャいるし」

「げ……またら。こはりゅ、またらじょ」


 長老とリヒトやハルの瞳がゴールドに光っている。


「やっつけるなのれす! ガンガン斬って焼くなのれす!」


 あら、コハルさん。本当、張り切ってるね。ハルはテンションだだ下がりなのに。


「いいか? 俺が風属性魔法で外に出すから斬りまくってくれ!」

「えー……」

「了解!」

「分かりました!」

「了解やで!」


 誰だ? 1人やる気のない奴は? ハルさん、頑張ろうぜ。


「もうクラゲ見るの嫌ら」

「アハハハ! 確かにな!」

「ハル、頑張りましょう」

「ん、やりゅけろ」

「リヒト、地底湖だけじゃないぞ。地底湖に流れこんでいる水脈にもいるぞ」

「長老、マジ!? うわ、めんどー」

「な、りひと。面倒らよなー」

「プハハハ! ハル、やる気ねーな!」

「らっておりぇ、もう何回もやってんら」

「ハル、きっとこれで最後ですよ」

「ん、やりゅよ。おりぇちゃんとやりゅけりょな。面倒ら」

「仕方ない。やるぞ」

「おー」


 リヒトが両手を出すと、小さな竜巻が何個も生まれた。そのまま進み、地底湖へと入っていく。すると、地底湖から何十個ものクラゲが巻き上げられ外に出てきた。


「ハル、コハル、斬りまくれ!」

「じーちゃん、分かった! ういんろーかったー」

「分かったなのれす!」


 風の刃が現れ、次から次へとクラゲを斬りまくる。シュンッと一発で真っ2つだ。


「ルシカ、イオス、焼きまくれ!」

「長老、了解です!」

「はい!」

「「フレアー」」


 超高熱の炎で焼き尽くしていく。


「リヒト、まだまだいるぞ」

「長老、なんかデカイのがいるみたいだ」

「ああ、いるぞ! 主というか大元だな」

「マジかよ!」


 次から次へとリヒトがクラゲを地底湖の外に出す。ハルとコハルがそれを切り刻む。そして、ルシカとイオスが焼きまくる。

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