第97話 漆黒の大きな魔石
「エルフがこの地に産まれた頃は、まだ地上には魔物がいっぱいで瘴気の黒い靄もいっぱいだったなのれす。それを原初のエルフが長い年月を掛けて瘴気を浄化して住める様にしたなのれす。だから神もエルフには感謝しているなのれす!」
「コハル、どうしてそれを知っている?」
「長老、あたちは聖獣なのれす! 当然なのれす!」
「そうなのか、当然か。参ったな。さすが小さくても聖獣だ」
「当たり前なのれす!」
サラッとコハルは凄い事を言ったぞ。この世界の始まりから知っているのだろうか?
通路の先に扉が見えてきた。きっとドワーフの2人が開けたのだろう。扉が開いたままになっている。そこから瘴気の黒い靄と魔物が溢れ出てきていた。
リヒトが扉の中に入って行く。広間の様な部屋だ。
「長老!」
リヒトが叫ぶ。扉の向こうには早く出せと言わんばかりに扉へと進む魔物で溢れていた。その上、広間になっている部屋の中には少し先が見えない程に黒い靄が充満していた。
「構わん! やってしまえ!」
「了解!」
リヒトの剣が光った。白く光っている。聖属性魔法を付与しているんだ。リヒトが全身を使って横一線にブンッと剣を振ると、剣の先にいた魔物が一気に何頭も消えた。
「長老、ハルを頼みます!」
ルシカがハルを長老に押し付ける。そして、すぐさまルシカも風属性を付与した剣で魔物を倒していく。
「じーちゃん、りゅしかが燃えてりゅじょ。剣をちゅかってりゅじょ」
「アハハハ! 燃えてるか!? ハル、奥に行くぞ。しっかりじーちゃんに掴まっているんだぞ」
「ん、じーちゃん。こはりゅ、りひと達に協力して」
「はいなのれす!」
ハルも長老の首に掴まりながら、片手を伸ばして魔法で攻撃する。コハルも上から攻撃している。長老は浄化を進める。突然、部屋中が浄化の光で白く光った。長老の広範囲への浄化だ。そんな事を軽くやってしまうのは長老位しかいない。長老、規格外過ぎる。
すると、あれだけひしめいていた魔物達の動きが止まり身体が崩れて消えていく魔物が出始めた。
「じーちゃん! 浄化したら魔物が消えたじょ!」
「凄いなのれす!」
「ああ、消えたな! アハハハ! まとわり付いてくる瘴気が鬱陶しいから浄化したんだが、やったな!」
長老……意味が分からない。
「りひと! 浄化ら!」
「おう!」
リヒトにハルとコハルも浄化する。ルシカはダークエルフなので聖属性魔法は使えない。変わらず剣で魔物を倒していく。
「じーちゃん……ありぇなんら?」
ハルが指差す部屋の奥には、1mはあるだろう大きな楕円形の魔石が宙に浮いていた。しかも、漆黒に染まり不気味な光を放っている。そこから黒い靄が漏れ出していた。
「なんだあれは……あんなデカイ魔石を初めて見たぞ」
「じーちゃんれもか?」
「ああ、じーちゃんでも初めてだ」
巨大な魔石が浮いているのは部屋の1番奥。祭壇の様になっている。長老の瞳がゴールドに光った。ハルの瞳も光っている。
「長老、キリがないです!」
リヒトとルシカが息を切らせながら部屋の奥にいる長老とハルの元へやってきた。すかさず、コハルが結界を張る。
「な……何スか……これ……!?」
「原初のエルフがこの魔石に瘴気を閉じ込めていたんだ」
「これが、魔石ですか? こんな大きな魔石……」
「ルシカ、これは天然の物ではない。原初のエルフが、天然の魔石を幾つも合成してこの瘴気の靄を封印する為に作ったと壁画に描かれていた魔石だ」
「原初ですか!? そんな事ができるのですか?」
「できるな。ハルとワシならこれより大きな魔石を作れるな、余裕だ。ハッハッハ」
「長老とハルならできるなのれす!」
「マジかよ……!!」
リヒト、長老はマジらしい。
「長老、魔物が瘴気の靄に取り込まれているんじゃないのか?」
「リヒト、違うなのれす! 逆なのれす! 靄があるから魔物が生まれるなのれす! 靄の元を浄化するなのれす!」
「コハルの言う通りだな。この靄が魔物を生み出している」
「じーちゃん、浄化して」
「ああ、ハルも出来るか?」
「よぉし、いくじょ」
「ああ」
「ぴゅりふぃけーしょん」
「ピュリフィケーション」
長老とハルが詠唱すると、目が眩む様な白い光が漆黒の魔石を包み込んだ。光が消えたそこには……
漆黒の大きな魔石が浄化され、透明に輝くクリスタルが現れた。クリスタルには古代の魔法言語で書かれた術式がリボンの様に絡みつき、上下の魔法陣で固定されている。
「クリスタル……!? こんな大きな……!!」
「ああ、ルシカ。元はクリスタルだったんだ。それが限界まで靄を取り込んで漆黒になっていたんだ。しかし、綺麗にクリスタルカットされておるなー。これを作った者は相当な腕だ」
「凄いですね……圧倒されます」
「超デケー」
漆黒の魔石が浄化されクリスタルになると、魔物達の動きが止まった。
「部屋に、もう1度浄化だな。ハル、杖を使って浄化してみなさい」
「ん、分かった」
ハルは髪飾りから魔法杖を取り出し片手で持てる大きさにする。それを高く掲げる。月に変わって……いや、もう止めておこう。
「ぴゅりふぃけーしょん」
魔法杖が緩くカーブした先端にオパールグリーンのオーブが付いたエンブレムが眩いばかりの光を放った。その光が部屋中に広がり、キラキラと消えていった。靄はすべて消えさり、残っていた魔物達も消滅していた。
「おぉー! ハル、スゲーぞ!」
「じーちゃん。エヘヘへ」
「ハル、スゲーな!」
「驚きました……!」
「凄いなのれす!」
「じーちゃん、やっぱこの杖しゅげー!」
「アハハハ! そうかそうか! じーちゃんが作ったからな! アハハハ!」
この曾孫と曽祖父は緊張感がまるでない。
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