第98話 ベースに戻ろう
「長老、浄化したからこれはもうこのまま置いておいて大丈夫なのか?」
「リヒト、大丈夫だがこのクリスタルはワシが持って帰ろう」
ん? 持って帰る? 何でだ?
「陛下に見せてやろうと思ってな。ビックリしよるぞ。アッハッハ」
意味不明……本当に緊張感がない。いや、長老が余裕でいてくれるからリヒト達もいらない不安を持たなくて良いんだ。長老がビビってしまっていると、リヒト達は余計に不安になる。
それが分かっているからこその、この余裕なのか? いや、天然という線も捨てがたい。
「じーちゃん、れも何か書いてありゅじょ」
「駄目なのれす。ちゃんと読むなのれす」
「ん? ハル、コハル、そうか?」
ハルが指差す祭壇を長老が見る。
「ふむ……なんじゃ。持って帰れんのか」
「アハハハ、じーちゃん」
「長老?」
「このクリスタルはここで靄を吸い込む役割らしい。浮いている様に見えるが、しっかり古代魔法と魔法陣で固定されておるから持っては帰れんわ」
「長老、その瘴気の靄は今も発生しているのですか?」
「ルシカ、そうらしい。僅かだがな。魔物が死ぬだろう? それを食う魔物がいるだろう。それでも死体は残る。そこから瘴気の靄が生まれるらしい。そう書いてある。だから大森林に6ヶ所ある遺跡には同じクリスタルがある。定期的に浄化せねばならんかったのだが、それが何故かいつからか後世には伝わっておらんかった。そして、このクリスタルの限界を超えて靄が溢れ出してしまったんだな」
「長老、じゃあ他の遺跡にも同じのがあってヤバイんじゃねーか?」
「リヒト、そうなるな」
長老はまたパーピを飛ばす。
きっと、皇帝の元に飛ばしているのだろう。さっき立入禁止にした遺跡の調査が早急に始まる事だろう。
「しかし、最近よく浄化やら解呪やらを聞くな」
「長老、ハルともその話をしていたのです」
「ルシカ、そうなのか。もしかしたらドラゴシオン近くにも同じ物があるのやも知れんな」
「長老、そうなのか!?」
「リヒト、まだ仮定だ。想像だ。まだ分からん。さて、戻るか。上はどうなっているか……」
長老やリヒト達が地上に出ると、あれだけ溢れていた黒い靄が消え、魔物が動けずその場で静止していた。長老が広範囲で浄化をすると、魔物は跡形もなく消えていった。リヒトの肩にパーピが止まった。
「長老、ベースの方も魔物が止まり浄化で消えたそうです」
「そうか、良かった」
リヒト達の乗ってきたユニコーンが、ちゃんと待っていた。お利口だ。魔物に襲われなかったのだろうか?
「ハル、リヒト様が結界を張っていたでしょう。だから大丈夫ですよ。それに、ユニコーンも強いのですよ。あの角で一突きです」
「りゅしか! しょうなのか!?」
ハルは眼球が落ちそうな位目を大きく見開いて驚いている。
「しょっか。お利口らし強いんらな。れも怖くなかったか? おりぇ達を待っていてくりぇて、いい子らな。ありがちょな」
ハルがユニコーンを撫でる。ユニコーンは嬉しそうにハルへと擦り寄る。
「アハハハ、くしゅぐったいじょ」
可愛い幼児と伝説の生き物が戯れる……とても絵になる。 長老とリヒト達が地面の入り口を見ている。
「長老、この材質は?」
「これが魔鉱石だ。普通はこんな風に割れる事はない。無理矢理ハンマーか何かで割ったのだろう。遺跡には手をつけては駄目な決まりになっとるんだが」
「ここを壊したみたいですね」
「この状態だとそうだろうな」
「ルシカ、その辺にある魔鉱石の断片を集めてくれ」
「はい、長老」
何かで無理矢理壊したらしい地下への入り口の扉。砕かれていると言うよりも、割れている。大きな破片が近くに幾つかある。
「じーちゃん、どうしゅりゅんら?」
「まあ、応急処置だ。このまま入り口を開けておく訳にはいかんからな」
ルシカが集めた破片に長老が手を翳した。すると、破片だった物がグニャリと形を変え一枚の板になった。
「不足があるから元の扉よりは薄くはなるが、これで一応蓋をしておこう」
「はい、長老」
ルシカが地下への入り口に長老が修復した即席の蓋を被せる。
「リヒト、結界も張っておくか?」
「長老、エルフは通れる結界で頼みます」
「よし、分かったぞ」
長老が手を翳し、入り口に結界を張った。
「ハル、ベースへ戻るぞ」
「ん、じーちゃんは?」
「ワシもそのドワーフを見ておきたい。先に転移してベースへ戻る。ハル、途中で魔物が見えたら杖を使って浄化するんだ。コハルも浄化してくれ」
「分かった、じーちゃん」
「分かったなのれす!」
「はい、では長老」
「おう」
長老はアッと言う間に光に包まれて消えた。
「じーちゃん、スゲーな。自分1人らけの転移らと杖も使わないんら」
「だな、長老には敵わない」
「ん」
「さあ、ハル、コハル。俺達も戻ろう。浄化頼んだぞ」
「ん、任しぇりょ」
「任せるなのれす!」
相変わらず、ハルの言い方は一人前。ハルは帰りもルシカに乗せてもらっていた。
「りゅしか、上から見たりゃよく分かりゅな」
「そうですね。靄の元がなくなったせいでしょう、残っている魔物の動きも鈍いですね」
「ん、らな」
話しながらハルは杖を下の魔物に向ける。
「ぴゅりふぃけーしょん」
白い光が辺り一帯に広がり靄と魔物を消していく。リヒトはリヒトで浄化をしている様だ。コハルもリヒトの近くに行ったり少し先へ飛んだりしながら浄化している。
「素晴らしいですね。私はダークエルフなので、聖属性魔法は使えませんからね」
「れも、りゅしかは戦えりゅ。おりぇはまらちっさくて皆に心配かけりゅ」
「おやおや、少し分かってきましたか? でも、ハルは魔法が使えます。大人よりもです。出来る事をすれば良いのですよ」
「ん、りゅしかもら」
「アハハハ、そうですね」
ベースまでリヒトやハルとコハルが何度か浄化し魔物の姿は見当たらなくなった。瘴気の黒い靄ももうない。
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