第29話 やっちまった

 結界から出てエルフ達が倒したオークを片付け出していた。すると、倒した筈のオークキングがゆっくりと上体を起こしまた立ち上がった。


「りゅしか!!」


 指示を出していたルシカのすぐ後ろにオークキングが迫る。ハルは思わずユニコーンから飛び降りて走り出す。


「ハル! 駄目だ! 戻りなさい!」


 スヴェトも叫びながら後を追いかける。

 ハルが弾みをつけて高くジャンプしたと思ったら、そのまま勢いに任せてオークキングの頭に正面からドロップキックを決めた。


「どっしぇーーい!!」

「グルルル!」


 倒れかけたオークキングに、すかさずコハルがジャンプキックをお見舞いする。


 ドーン! と、また大きな音をたててオークキングが倒れた。今度こそ仕留めたらしい。


「ハル! コハル!」


 ルシカが慌てて駆け寄る。


「りゅしか! ごめん、りゅしかが危ないと思ったりゃ走ってた」

「私を助けてくれたのですね、ありがとう。でも、こんな危険な事はもうしたら駄目ですよ」

「うん、りゅしか」

「ピルルル」

「アハハハ。ハルもコハルもありがとう! 強いですね!」


 ルシカに抱き上げられて、頭を撫でられるハル。すっかりフードが脱げている。


「ハル! コハル! 驚いた。本当に強いんだな」

 

 スヴェトがやってきて驚いている。


「にーしゃま」

「だがだ! ハル、コハル。お前達はこんな危ない事をしたら駄目だ。分かるか?」

「ごめんなしゃい」

「周りを見てみなさい。ハルやコハルが出なくても、皆攻撃する体制になっていた」


 スヴェトにそう言われて、ハルは改めて周りを見回す。周りのエルフ達が皆矢を射る体制のまま自分達を見ていた。


「ごめんなしゃい! おりぇ……ちゅい!」


 ハルがガバッと頭を下げる。


「覚えておくんだよ。エルフの国では皆が強い。危険な事は大人に任せるんだ。分かったか?」

「あい、にーしゃま」

「よし。いい子だ。怪我がなくて良かった。コハルもだ」

「ピルルル」


 スヴェトにヨシヨシと頭を撫でられる、ハルとコハル。ちょっと照れ臭そうだ。周りのエルフ達からも声が掛かる。


 ――カッコよかったよー!

 ――凄い強いなー!

 ――次は俺達に任せな!


 ハルは周りを見て余計に顔を赤くして照れた。


「りゅしか!」


 抱っこしているルシカの首に抱きついて顔を隠すハル。耳まで真っ赤だ。


「おやおや。さあ、ハル。結界の中まで戻りましょう」

「ん……」

「スヴェト様、ハルをお邸まで連れ帰って下さい」

「ああ、そうしよう」


 ルシカからスヴェトに引き渡されるハル。コハルもハルの肩に乗っている。


「りゅしかは?」

「私はリヒト様達が戻るまでここにいますよ。また急襲があったらいけませんしね。大丈夫ですよ。先に戻っていて下さい」


 コクンと頷くハル。この場で嫌とは言えないな。大人しくフードを被る。

 スヴェトのユニコーンに乗り邸に戻ってきたハル。


「ハル! コハル!」


 ミーレがとんできた。ちょっぴり、目線が泳いでしまうハル。


「まさか! ハル! コハル!」

「みーりぇ……やっちゃった」

「ピルルル」

「ああ、ミーレ。叱らないでやってくれ。ハルとコハルはルシカを助けようとしたんだ」

「やっぱり! 駄目だと言っていたのに出たのね!」

「みーりぇ、ごめんなしゃい……」

「もう! 無事で良かったわ!」


 ミーレにユニコーンから抱き上げられた。心配かけてしまったのだと、ハルも分かるだろう。いや、元々連れて行かなければ良かった話なんだが。


「ミーレ、頼んだ。私は戻る」

「はい、スヴェト様。お気をつけて」


 ミーレに軽く状況を説明しハルを預けると、スヴェトはまた戻って行った。


「ハル、中に入りましょう」

「ん……」

「どうしたの?」

「おりぇ……邪魔した」

「ハル、それは違うわ。確かに、ハルが出なくても他の者が倒したでしょうけど、邪魔とは言わないわ」

「みーりぇ……」

「ハルがこれから覚えなきゃいけない事は、周りの大人を信じる事ね。誰でも信じていい訳じゃないのよ。ただ、リヒト様やご家族、この家の人達、ルシカ、私もね。信じて良い大人はちゃんと信じて甘えなさい」


 そうか……信じていいんだ。と、でも思っていそうなハルの表情だ。


「ハルは可愛がられたり、甘えたりする事に慣れていないのね。ここにいる間に覚えましょう」

「みーりぇ、ありがちょ」

「ピルルル」

「うふふ、コハルもね」

「ピヨヨー」


 ミーレに抱っこされて邸に入るハル。

 ミーレが言う様に、ハルは周りの大人を安易に信じたり頼ったりしない。無条件に甘えたりもできない。前世の事があるからだが……エルフの国にいる間に変わっていくと良いのだが。


 それでもハルはよく知ったミーレの腕の中でホッとしたのか、抱っこされて移動するうちにウトウトとし出した。いつもなら、お昼寝をしている時間だ。仕方ない。

 ミーレはハルが自分に寄りかかれる様に抱き方を変えハルの背中を軽くトントンすると、ハルはムニャムニャと眠りに入っていった。それを見ていたリヒトの母。


「ミーレ、あなたもう子育てできるわね」

「奥様、そうですか?」

「うふふ、ハルを寝かせてあげましょう」


 2人でハルの部屋へと歩いていった。


 その後、ハルがまたベッドで目覚めてもリヒト達討伐組はまだ戻っていなかった。少し手間取っているのか? やはりオークキングが複数いたのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る