第30話 リヒトが帰ってきた

 夕方になりこの世界の空が茜色に染まる頃、やっとリヒト達が帰ってきた。

 ハルはソワソワしてリヒトの側に行きたくて仕方ない。しかし、邪魔をしてはいけないと思っているのだろう。ミーレの手を握って離れて大人しく見ている。


「ハル!」


 リヒトがハルを見つけてやってきた。


「りひと! 良かった無事に帰ってきた!」

「ハル、聞いたぞ! やっちまったんだってな! アハハハ!」


 リヒト、笑い事か? しゃがんで、ハルの頭をガシガシと撫でる。撫でると言っていいのか?


「りひと……」

「気にすんな! 何かやるだろうとは思ってたんだ。まさか、オークキングを倒すとは思わなかったけどな!」

「りひとは大丈夫なのか?」

「ああ。思ったより集落が大きくて、オークキングが何頭もいたから時間はかかったがな。楽勝だ! アハハハ」


 楽勝なのかよ! でも、無事で良かった。と、きっとハルは思ってるぞぉ!


「おりぇ、待ってりゅの苦手ら。心配ら」

「もっと大きくなったら連れてってやるよ。まだちびっ子だから仕方ないさ。でもな、ハル。俺達は負けねーよ。心配すんな」

「ん……りひと」

「さあ、ハル。風呂だ、風呂行くぞ!」


 ヒョイとハルを抱き上げて、有無を言わさずどんどん風呂へと歩いて行く。ハルは大人しく抱っこされていた。余程心配だったのか、ホッとしたのか。


「おりぇ、しっかり背中流しゅよ!」

「そうか! 頼んだ」


 リヒトのあっけらかんとした態度。今はそれに救われたハルだ。ちょっと落ち込んでいたのかも知れない。やらかしちゃったから。


 リヒトと2人で風呂から上がってホコホコのハル。また前髪だけピョコンと結んでいる。これはきっと、ミーレじゃなくてリヒトが結んだのだろう。皆揃っての夕食だ。


「そうか、そんなに集落は大きかったのか」

「はい、父上。あんな大きさは今迄に見た事ないですね」

「明日は調査か?」

「はい、何かしら溜め込んでいるでしょうから」

「そうだな。それだけの数のオークの胃袋を満たすにはかなりの食料が必要だろう」

「はい。ああ、そうだハル。明日の調査が終わったら長老が会って下さるそうだ」

「ちょうりょう……」

「ああ。報告で城に寄った時に会ったんだ。楽しみにされていたよ。本当なら今すぐにでも会いたいと仰っていた」


 長老か……まあ、長老に会うのが目的だからな。


「じゃあ、ハル。明日はお母様と少しお勉強しましょうか」

「かあしゃま、いいのか?」

「ええ、もちろんよ」

「うりぇしい! かあしゃま、よりょしくお願いしましゅ!」

「まあ! まあまあ! なんてお利口さんなんでしょう!」


 ハルも嬉しそうにしている。まあ、今は目の前の食事に夢中だが。


 次の日、約束通りミーレに起こしてもらったハル。だが、リヒト達はもう出掛けていなかった。


「みーりぇ、りひとは早くに行ったのか?」

「そうね、さっさと片付けたいのだそうよ。集落が大きかったみたいだから」


 ミーレはハルの前髪を編み込みながら答える。昨日言ってた話だ。思った以上にオークが作った集落が大きかったとリヒトが話していた。


「オークってね、すっごく食べるのよ。だから、その処理が大変なの」

「ん……?」


 ちょっと意味の分からないハル。


「ああ、あのね。だから、本当にすっごく食べるの。その上、数も多かったみたいだからそれだけ食料を溜め込んでいる筈なのよ。でも、その食料って言うのがね……」


 ミーレがとっても嫌そうな顔をする。


「みーりぇ?」

「もう何て言うか……それ食料なの!? て、感じなのよ。何でも食べるの。多少腐っていても平気で食べるの。雑食どころじゃないのよ。だから片付けないと、森の中が臭くなっちゃうのよ」

「まじ……!?」

「マジよ。大マジなのよ。もう後片付けの方が、時間が掛かる時もあるわ」

「げ……」

「でしょう? 何日もそんな事したくないから、集落を点検してすべて焼いて、その後土魔法で埋めてしまうらしいわ」

「おぉ……」

「一気にね。周りに燃え広がらない様に結界を張って焼いてしまうそうよ。森の木に燃え移らないようにね」

「しゅげー……」

「それでも匂うのよ」

「げ……」

「だから暫くは結界を張っておくんじゃないかしら」


 おぉー、そんな事ができるのか!? て、顔をしているハル。


「長老とかリヒト様とかは出来るのよ。ハイリョースエルフだから」

「ん……?」

 

 ハイリョースエルフが関係あるのか? ミーレは時々ズレた事を言う時がある。思い込みと言うヤツだ。


「でもね、集落が大きかったみたいだから、調査も今日1日だけで終わらないんじゃないかしら。さ、できたわ。朝食食べましょう」

「りゅしかの方?」


 ぴょんと椅子から降りるハル。


「そうよ。でも、ルシカも一緒に行ったからいないわよ」

「しょっか」


 ミーレに手を引かれてトコトコと歩くハル。ちびっ子のハルにとっては食堂が遠い。階段も長くてデカイ。この邸自体がデカすぎる。

 ミーレと2人で食堂に入り、ハル専用の椅子に座らせてもらう。ミーレが食事をトレイに載せて持ってきてくれる。


「ルシカの作ったエッグベネディクトとポタージュスープよ。美味しいわよー」

「みーりぇ、ありがちょ!」

「ほら、コハルの分もあるわよ」

「ピルルル」


 コハルが慌てた様子で出てきた。


「こはりゅ、まら寝てた?」

「ピヨヨ……」

「しょっか、食べな」

「ピルルル」

「うふふ、早くコハルと喋れるようになりたいわ」


 ミーレ、それを言うとハルのプレッシャーにならないか?


「きっと、長老に会えば大丈夫よ」


 意味が分からない。本当、ミーレは時々意味不明な事を言う。思い込んでいると言うか……先入観と言うか……本当なのか? と、ツッコミたくなる事を言う。

 黙々と食べるハルとコハル。


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