第28話 オークの急襲

「ハル、お部屋に戻りましょうか」

「みーりぇ、まら平気なりゃ外をみたい。りひとらけ出りゅのか? とーしゃまやにーしゃまも出りゅのか?」

「どうかしら? 旦那様は出られないと思うわよ。行ってみる?」

「うん!」


 肩にコハルをのせて、食堂を出て玄関へと向かう。ミーレにしっかりと手を繋がれている。


「おや、ハル。もう食べましたか?」


 玄関ホールにルシカがいた。ルシカも腰にはショートソード、背中には弓を担いでいる。やはり、矢は持っていない。


「ん、美味かった。るゅしかも出りゅのか?」

「いえ、私は念の為の国の守備ですよ。結界があるので何もできませんよ」


 そっか。そう言えば来る時に結界がどうとかリヒトが言っていた。


「ハル、大人しく邸にいなさい」


 リヒトの父と兄もやって来た。兄も腰にはロングソード、背中に弓を担いで戦う準備をしている。


「あい、とーしゃま。とーしゃまも出りゅのか?」

「アハハ、いやいや父様は出ないさ。若い者に任せるよ」

「ハル、父上とミーレと一緒に待っていなさい」

「にーしゃまは出りゅのか?」

「ああ。と、言っても私も守備だ。オークの集落を叩くのはリヒトだ」


 リヒト、大丈夫なのか?


「ハル、心配はいらない。リヒトは強いからな。それに、リヒトだけじゃない。守備隊も一緒に出るから大丈夫だ」

「とーしゃま、しゅびたい?」


 守備隊とな。ハルは初めて聞いた。

 ガーディアンは大森林を守る。それとはまた別に、守備隊は国を守る部隊だ。

 エルフの国は結界で守られている。基本、それだけで国内には攻撃は届かない。入ろうとしても、リヒト達が持っているパスになる魔道具がないと弾かれてしまって入れない。そればかりか、魔力量の少ない者なら結界に因ってエルフの国を見つける事さえできない。惑わされるんだ……そうだ。


「街外れの結界まで見送りに行くか?」

「にーしゃま、いいの? 行きたい!」

「スヴェト様」

「ルシカ、平気だろう? 父上、ハルを見送りに連れて行っても構いませんよね?」

「構わんが……結界からは絶対に出ては駄目だぞ、ハル」

「あい! とーしゃま!」


 リヒトの父と兄。ハルには激甘だ。


「じゃあ、兄様の馬で連れて行ってあげよう」

「にーしゃま、ゆにこーん?」

「ああ、そうだ。ユニコーンだ。ルシカ行くぞ」

「はい、スヴェト様」


 ルシカは、あーあ……といった顔をしている。連れて行ったら万が一の時にハルは何を仕出かすか分からないのに……と、でも言いたそうな顔だ。


「ルシカ、大丈夫だ。私が守る」


 いや、そうではなくてだな。ハル自身が突っ込んで行ってしまうからなんだが……

 まあ、何もないだろう……と、ルシカ。

 おいおい、盛大にフラグがたっているぞ。


 リヒトの父と兄、ルシカやミーレと一緒に外に出ると、リヒトがユニコーンに乗って先頭にいた。指揮官て感じで堂々としていて、ちょっとかっちょいい。


「みーりぇ、りひとら!」


 ハルが指差す。


「そうね、ああしてるとカッコいいでしょう?」

「うん! りひとカッコよく見えりゅ!」


 2人して、酷い言い方だ。

 リヒトを含めた先頭の何人かが白いユニコーンに乗っている。皇族なのだろう。ガーディアンは基本、国にはいない。ベースにいるからだ。リヒトは今回ハルを連れて帰っていたので偶々だ。


「さあ、ハル。兄様が乗せてあげよう」


 リヒトの兄がハルをヒョイと抱き上げてユニコーンに跨る。ハルはワクワクして眼をキラキラさせている。怖くはないのか?


「ハル、待って! これ着なきゃ」


 ミーレが慌ててハルのフード付きのケープを持ってきて着せた。フードも忘れずに被る。


「みーりぇ、ありがちょ」

「ハル、フードを取っちゃ駄目よ」

「うん、わかっちゃ」

「ピルルル」

「こはりゅ、こりぇかりゃりひとが出りゅんら」

「ピルルー」

「アハハハ、らいじょぶら」

「ハルはコハルと話せるのだな」

「うん、にーしゃま。おりぇがもっとちゅよくなったらみんなとも話しぇりゅんらって」

「そうか。でも、ハルはまだ小さいからな。急いで強くならなくてもいいぞ」


 街の中をパカパカとユニコーンが行く。ずっと先の先頭にはリヒトがいる。リヒト達オークの集落を討伐に行く者達は、街の外れを過ぎ結界を出ると一気に加速して直ぐに見えなくなった。かっちょいい!

 ハルは結界の内側から手を振っている。気をつけていってらっしゃ〜い! と、でも言っている様だ。

 念の為と、結界の境で守備するルシカ達が配置についた時だ。どこに潜んでいたのか? 討伐組がいなくなるのを待っていたかの様に多数のオークが姿を現した。


「ルシカ! 結界の内側から攻撃だ!」


 リヒトの兄、スヴェトが指示を出す。


「はい!」


 結界の境ギリギリで守備にあたっていたエルフ達が一斉に弓を構える。皆、矢がない。魔法の矢だ。

 次々と矢がオークに命中し飛び出してきていたオーク達は倒れていく。結界にも届いていない。しかも、皆急所を狙い射ちしている。

 

「しゅげー! みんな強い!」

「アハハハ、そうだろ。オークごとき、敵ではないさ」


 だが、1番後ろから一際大きなオークが姿を現した。


「ハイオークか? いや、その後ろにはオークキングもいるな。集落はどうしたんだ?」


 そうだ。集落にオークキングがいるだろうからリヒト達が討伐へと出た筈だ。どうしてこっちにもオークキングがいるんだ?


「もしかして、複数いるのか? だとしたら、集落は予想以上に規模が大きいのかも知れない」

「にーしゃま、りひとはらいじょぶなのか?」

「リヒトか? 大丈夫だ。オークキングが何頭いようとリヒト達は負けないさ」


 おお、スゲー強いんだな。

 結界の内側から魔法の矢を射るエルフ達。ハイオークを物ともせず、順調に倒していく。最後尾からオークキングが出てきた。怯みもせず、ガンガン矢を射るエルフ達。ルシカも平然と魔法の矢を射っている。

 ドーン! と大きな音を立ててオークキングが倒れた。


「しゅげー! やっちゅけた!」

「アハハハ。ハル、エルフは強いんだよ」


 リヒトの兄が言う通り、エルフ達は強かった。だが……

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