第9話 冷めたちびっ子

「分かるか?」

「ん」

「あと、妖精族がいるんだが、妖精族は勝手気ままで自由な奴等なんだ。国を形成してはいない。この大陸の色んな場所にいる」

「ようしぇい……」

「ああ。精霊もいるぞ。俺たちには見る事はできないんだ。だがエルフが魔法を使う時は、自分の魔力だけでなく精霊も力を貸してくれて発動するから精霊魔法と言うんだ。だから、他の種族が使う魔法よりも少しの魔力で威力が高い。で、だな。ハルが気をつけないといけないのは、ヒューマン族だ」

「え……しょうなのか?」

「ああ。ヒューマン族は普通に真っ当な生活している奴が殆どだが、中には悪党もいるんだ。自分の欲や地位に固執している奴等がな。そんな奴等がいるから密猟者や人攫いがなくならない」

「まじ……?」

「ああ。ハルの珍しい色はそいつ等に狙われやすいって事だ。それにな、ヒューマンの国にだけ奴隷制度がある。もしも攫われたら奴隷商に売られてしまうかも知れない」


 マジかよ!? と、顔で言っているハル。そして、やはり……

 

「あのくしょじじいめ……!」

「あぁ? 神の事か?」

「おぅ。目立ちゅこちょしやがって」

「アハハハ! お前本当にキモ座ってんな! 俺は好きだぜ。気に入った!」


 何気持ち悪い事言ってんだ? と、また顔で語っているハル。

 しかし、リヒトの話を聞いて、1人で出て行く考えはあり得ないと分かってくれた筈だ……と、リヒトは思っている……勝手に。思い込みと言うやつだ。


「ハル、食事ができましたよ。また粥ですが、滋養のつくハーブとホロホロ鳥の肉を刻んで入れてみました。いい出汁が出ましたよ」


 ルシカがホカホカの湯気が出た食事を持ってきた。ハルは嬉しそうだ。


「りゅしか、ありがちょ!」

「はい。フーフーして冷ましながらゆっくり食べてください。急いだら駄目ですよ」


「ん。フューフュー……」


 ハルはまた、スプーンをしっかりと握って、大きな口をあけてハムッと食べた。


「んまッ!」

「アハハハ、良かったです」

「こいつ、食べてる時と寝てる時は歳相応だよな」

「リヒト様、ハルはそれ以外でも充分歳相応ですよ」

「ああ? そうか?」

「はい」


 聞こえてるし。と、目で訴えるハル。言葉は辿々しいが、表情は豊かだ。


「ハル、身体を綺麗にしましょう」


 ミーレだ。手にはお湯の入った容器とタオルの様な布を持っている。


「あら、食事中だったのね」

「みーりぇ、わりぃな」

「いいわよ。ゆっくり沢山食べてね」

「ん。ありがちょ」

「フフフ、ハルは可愛いわね。コハルちゃんはどうしたの?」

「ん……分かりゃん。多分、おりぇのここりゃへんにいりゅ。こはりゅもまらちっせーかりゃ、よく寝てんら」


 ハルはそう言って、自分の頭の横辺りを手でフルフルする。


「え? どこ?」

「ここりゃへん。こはりゅ」

「ピリュリュ」


 ハルが呼ぶとコハルがなにもない空間からヒョッコリと顔を出した。


「「えぇッ!!」」

「ハル、おま……おま……!」

「リヒト様、ちょっと落ち着きましょう!」

「ねえ、ハル。それ、もしかして亜空間持ってるの?」

「みーりぇ、分かりゃん。あく、あ……?」

「亜空間ですよ、ハル」


 ルシカが答えた。

 リヒトはコクコクと無言で頷いている。


「こはりゅ……?」

「ピヨヨ」

「しょうらって、こはりゅが言ってりゅ」


 リヒトとルシカが目を丸くしているが、ミーレはマイペースだ。


「すごいわね。まだ小さいのに亜空間持ちだなんて。でもね、ハル。人前では使ったら駄目よ」

「みーりぇ、なんれ?」

「使える人は珍しいのよ。インベントリならまだ見るけど、亜空間は本当に珍しいの。それにハルはまだ小さいでしょう? ハルを攫って悪用しようとする人が出てくるわ」

「えぇー、マジ!?」

「ええ。大マジよ」


 ふぅ〜、またかよ……と、ため息を吐きながら食べ続けるハル。


「ハル、嫌なのですか?」

「りゅしか、イヤと言うよりめんろい」

「アハハハ、面倒ですか」

「おりぇ、目立ちたくないんら。静かにゆっくりのんびりしたいんらよ」


 まだ小さいのに、翁の様な事を言っている。冷めたちびっ子だ。


「ハル、元気になったらやはり一度私達の国に行きましょう。長老に見てもらって、色々教えてもらわないと危険ですね」

「えー……りゅしか、まじ?」

「はい。決して束縛したりはしませんよ。誓います」

「ん……」


 考えながらも、食べ続けるハル。

 大人3人の心配は伝わっている様だ。



「ハル、まだ先に身体を元気にしなければいけません。ゆっくり考えると良いですよ」


 ルシカがそう言って微笑む。

 リヒトはまた無言で頷いている。


「ん……分かっちゃ」


 食べたらまたハルは寝てしまった。やはり、まだまだ身体は元に戻ってない様だ。転生したてだし。小さくなっているし。



 リヒトとルシカ、ミーレがリヒトの執務室で話している。


「リヒト様、まだ驚く様な事があるかも知れませんね」

「ルシカ、そう思うか?」

「はい。まさか亜空間とは」

「私も驚きました。思いもしませんでしたね」

「ミーレが注意しなかったら、人前でも使ってしまっていただろうな」

「リヒト様、多分そうですよね」

「ハルが話していた神の事も気になりませんか?」

「ルシカ、俺はもう聞くのがちょっと怖くなってきたよ」


 おやおや、リヒトは小心者?


「どんな話が出てくるかと思ったらな……」

「それ以前にリヒト様は聞き取れていないじゃないですか」

「ミーレ、だって分からんぜ?」

「そうですか? 私は全然大丈夫ですよ?」


 リヒトとルシカが信じられないと言う目をしている。


「え? どうしてですか? そんなに分かりませんか?」

「ミーレ、エルフは長命種だろ? 子供は少ない。あんなちびっ子に接する事自体がないだろうが」

「リヒト様、エルフに限らないですよ。他の種族の幼児とも話した事ないでしょう?」

「まあ、そうだが」

「何にしろ、ハルが納得しないと駄目です」

「ああ、ルシカ。そうだな」

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