第25話 Day5 兄と兄
その日の夕方、ギヨームとジェニーは、対策本部に呼ばれ、二日間にわたる山岳地帯の掃討について報告を受けた。
エマとジェニーの情報を基に、北東、南東の二拠点が制圧された。北東は、小さな製鉄所と火器製造設備があり、銃と爆弾が作られた形跡があった。拠点に残留していた首謀者と組織員は拘束されたが、銃を装備した部隊がシエンタ市内に潜伏していることがわかり、明日、討伐予定となった。
問題は、爆弾だ。残された計画書によると、既に設置されている可能性も高く、着火のための実行犯が潜んでいると見られる。その設置先、潜伏先は、ジャックとエマの分析を元に、絞り込まれ、こちらも制圧計画の策定を急いでいる。
また、レオン・キャスティアの拘束も報告され、ガルデニアの騎士、カイルが保護されたことも伝えられた。
ギヨームとジェニーは、二日間の進展に驚きつつも、迅速なドポムの情報収集について、両国から謝辞を賜わり、恐縮するばかりだ。
二人が、部屋を辞すタイミングで、一人の青年に声を掛けられた。
「ガルデニア伯爵ギヨーム、この度のご尽力、大変感謝しています。」
「アデニシャン伯爵ダニエル、恐悦です。」
彼は、シエンタと国境を挟んだミュゲヴァリ伯領のさらに南に領地をもち、街道整備に技術と多大なる資金を提供したシェラシア貴族だ。アデニシャン伯領の領都が街道の起点となっており、街道は伯爵家の名、ドランジュに因んでオランジュ街道と呼ばれる予定だ。
「なーんてな!ギヨーム、今回は大活躍じゃないか!」
「ダニエルもな!」
ギヨームとダニエルとは学生時代、互いの国に留学し合い、旧知の中だった。
ダニエルの後ろにいたジャック・マーロウも挨拶に加わる。
「ユージェニー嬢も、さすがだったね。久しぶり。あぁ、今は、セヴィー伯爵夫人だったね、失礼。」
「二年ぶりですわね。先日のウェルカムパーティーでお目にかかれると思っておりましたが、ダニエル様は大変な人気で、お傍に近づくことさえできませんでしたの。」
「セヴィー伯爵夫人、これは、私の従兄弟で辺境騎士団ジャック・マーロウ大尉だ。今回の式典では、よろしく頼む。」
ジェニーとジャックは、挨拶を交わす。
ジェニーは、こっそりギヨームの脇をつついた。忙しくて、その後会話できなかったが、ギヨームのエマのお相手候補リストの筆頭がジャックだった。
琥珀の髪、という条件を挙げたが、確かにジャックも、リストから除外されたダニエルも琥珀色だ。
「今回のドポムの活躍は、イエローダイヤモンドの功績だという話で持ちきりだ。セヴィー伯爵夫人とは面識があったが、妹御にはまだ目通りすら叶っていない。噂通り、深窓なのだな。」
「何を言う、君が17、エマニュエルが8のときに会っているよ、ガルデニア領都で。」
「そうだったか?」
「えぇ、確かに私も記憶にございます。」
分の悪くなったダニエルは、話題を変え、ジャックに話を振る。
「そう言えば、ジャックはアレと共にエマニュエル嬢の領都往復を護衛したのだろう?」
ジャックは、一瞬戸惑いを見せたが答える。
「はい。ご令嬢への褒め言葉として、適切ではないかもしれませんが、我ら騎士四名を率いたエマニュエル嬢は見事でした。」
「お転婆娘にお付き合い頂き、ありがとうございました。」
ギヨームは、肘うちしてきたジェニーを含みをもたせて見遣る。
「まあ、そうでしたの。重ねて御礼申し上げますわ。」
「いやいや、彼らは護衛を志願したのだ。礼には及ばない。」
「急に決まった強行でしたのに?将校のマーロウ卿が?」
「いえ、まあ、その、深夜の往復をご令嬢がされると聞いて、勝手ながらご心配申し上げた次第で…」
ジェニーとギヨームは顔を見合わせる。
「マーロウ卿は、エマニュエルと面識が?」
「面識と言うほどのものでは… ウェルカムパーティーの折、偶然近くに居合わせた、という程度です。その時は、名乗りもせず、大変失礼を…」
「なるほど、そうでしたか。」
ジェニーは、これは?と思うが、何かが引っ掛かる。辻褄が合っているようで合っていない。
兄を見遣ると、やはり、同じように感じたのだろう。不自然で、無作法にもジャックを眺めている。睨めつけているようにも見える。
「ギヨーム、この後、時間があるなら、付き合ってくれないか。」
ジェニーは、もう一掘り、二掘り、ジャックに探りを入れたいと思ったが、ダニエルがギヨームを連れ出し、ジャックも立ち去ってしまった。
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