第19話 Day3 間話 お嬢さん方の稼働時間



 グラン・ホテル・シエンタの大会議室に、ラトゥリア、シェラシア両国の大臣、各軍幹部による、式典妨害対策本部が設置されていた。


「ドポム家に依頼したレポートが上がってきた。複写を回覧している。確認の上、意見を。」

「シエンタの東方面の第二城壁の先は、怪しい。」

「南東方面が活動拠点で不定期に北東の生産拠点を使用している、という見立てか。」

「製鉄の疑いか。拠点を叩きたい理由こそが、その発見だからな。手間が省ける。」

「妨害工作で火器が使われる可能性は高いぞ。」

「シエンタから40kmで国境だ。シェラシア側、ミュゲヴァリ伯領も至急調査しろ。」



「拠点攻撃では、火器の種類と使用計画の解明を最優先に。」

「斥候はすぐ出発。本隊も準備を。」

「北東、南東各方面に陣営設置せよ。」


「火器使用前提での警備の見直しを至急。」

「製鉄設備を可能にする資金提供者と技術者を割り出せ。」

「製鉄に必要な素材の入手元と運搬経路を特定しろ。」




「おい、ドポムから追加レポートだ。素材商が半年前から行方不明だ。」

「シエンタ商工会から、シェラシアの荷馬車の盗難の情報提供がある。シェラシアに裏を取れ。」

「同じく、商工会から、過去3年の加盟者の内、名義貸しの恐れがあるもののリストだ。聞き込みに行け。」

「ミュゲヴァリ領の名義貸し、技術者、素材商の失踪を調査させろ。」





「ドポム領騎士2名、襲撃の報告! 1名負傷、もう1名は行方不明。シエンタ市兵が捜索中!」

「襲撃は、シェラシア訛りの傭兵によるもの。キャスティアの紋章入りの通行証を保持している。」




「キャスティアを拘束しろ!」

「ミュゲヴァリ領軍は武装解除の上、ホールに集めろ。」



 瞬く間に本部内にいたミュゲヴァリ領軍将校たちも拘束されたが、寝耳に水という様子で、特に反抗もなく、ホールに連行されてゆく。




 参集した官僚や将校達は、慌ただしく出立し、大臣たちだけが残る。


「ドポムは、仕事が早いな。依頼から12時間ほどだ。」

「事務方と伯爵は、式典関係で手一杯だがな。この余力はどこにあったんだ?」

「まさか、イエローダイヤモンドではあるまいな。」

「お嬢さん方が働く時間帯でも、内容でもあるまいよ。」

「昨夜出た四騎、女を乗せていたらしいが、まさかな。」

「笑えんな。」






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 エマニュエル・ドポム レポート


1. 最重要地点

a) シエンタ庁舎から北北東 36km

b) シエンタ庁舎から東北東 20km

c) シエンタ庁舎から 北北東 40km

d) シエンタ庁舎から北東 12km


2. 重要地点

e) シエンタ庁舎から東南東 40km

f) シエンタ庁舎から東 51km

g) シエンタ庁舎から南南東 30km

h) シエンタ庁舎から東 60km


被害状況

郊外北東方面に家禽類の少額被害が不定期に発生

郊外南東方面の小街道沿いに荷馬車被害が集中


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郊外北東方面の古い水道橋の流量が2年前から不定期に激減

製鉄またはそれに類する人為的な使用の疑い

北東36km地点の先は、近年耕作放棄が増加



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