第10話 Day1 間話
会場は、予定を上回る客数で、溢れかえらんばかりだった。
「3年ぶりに、ドポムの次女が社交に現れた」
「先王が、ご執心だった嬢か?」
「第二王子の妃にしたかったという嬢では?」
「いや、先王の側妃に、ではなかったか?」
「ドポムの二つのイエローダイヤモンドの片割れだ。」
「一つは、侯爵家が早摘みしたからな。」
「早摘みも早摘みだよ。社交デビュー前だ。ラトゥリアでは珍しい。しかも、領地から出ない深窓の令嬢をだ。」
「侯爵家の長男は、ドポムの長女にベタ惚れだ。」
「歳の差はいくつだ?」
「4つじゃないか?」
「何だ、もっと離れているかと思ったぞ。」
「まあ、婚約が早かったからな。10と14だ。」
「次女の婚約者、侯爵家の繋がりだろ?」
「ああ、早逝したな。あの事故も陰謀ではないかと噂されているよな。」
「先王の意向が分からなかったから、迂闊に手を出せなかったという話か?」
「いや、侯爵家に嫁いだ姉から、義父である宰相に情報が筒抜けになるのを恐れたんだろう。」
「姉の方は、社交の天才と呼ばれているだろう。」
「確かに、彼女には、そのつもりもなかった話まで話してしまうな。」
「と言っても、それで不利益を被ったのは、後ろ暗い者だけだ。」
「むしろ、利になる話を得られる、と言って人気者だ。」
「結局のところ、中枢にいる腹黒い高位貴族には御しにくく、そうでない中下位貴族にとっては、王家の意向に遠慮して手が出せなかった、ということか。」
「なぜ、王家は食指を動かさなかった?」
「王家の縁組は、内政よりも外交重視だからじゃないか?」
「我らが王家は、穏健かつ清廉だしな。無理強いはしまい。」
「次女の才を最大限に活かせる役回りがなかったのさ。」
「宰相は、次女を欲しかったと聞いたことがある。」
「侯爵家は、男子一人だからな。」
「姉妹で娶るのは、さすがにドポムも許さぬ。」
「いくら、ラトゥリアでも、そんな婚姻は最近聞かないからな。」
「ドポムにそこまでの力があるのか?」
「その頃には、街道整備の話が進んでいたからじゃないか?」
「交通、経済、軍事の要所を治めているからな。」
「街道の経済効果が出たら、ドポムも侯爵を賜るだろうしな。」
「街道整備、表には出ないが、次女が相当絡んでいるとか?」
「今、まだ18だろ?」
「だから、イエローダイヤモンドなんだよ。」
「男なら、出世間違いなし、という噂だ。」
「イエローダイヤモンドとはよく言ったな、美しいブロンドだ。」
「政治にも、商売にも疎い貴族が、その美しさを見込んで釣書を送っていたが、それも尽きたらしい。」
「真の価値を分からぬ者に嫁がせるのは惜しいだろうからな。断るのも無理はない。」
「美しく、才ある令嬢か。時機が悪かったとは言え、勿体ない。」
「我ら、商家には… 難しいな。事業を丸ごと持って行かれそうだ。」
「おい、お前、出版をやっていただろう? ドポム流子育て本、とか、ベストセラー間違いなしじゃないか?」
「勘弁してくれよ。庶民にできる英才教育には限りがある。大した部数出ないだろ。」
当のイエローダイヤモンドの一人の耳に入っているとは知らず、ラトゥリアとシェラシアの商家が集まって噂話に花を咲かせていた。
ジェニーは、エマの耳に入らぬよう、エマの腕を引き、そっとその場を離れた。
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